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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第3章 プリンスと過去
15/23

15 闇へ

「リーガ……!」

 ローランド卿は二、三歩歩み寄った。リーガは胸の真ん中を撃ち抜かれていた。無様にも大の字に寝転がっていた。辺りにじわじわと血が広がっていく。

「は……っ……俺も、年貢の納め時、てか……」

 光の無い目を虚空に向けて、自嘲気味に呟いている。

「忘れたのか?あんたが俺を殺すなら、俺はあんたを殺す」

 シアーズがリーガを見下ろした。汚いものでも見るかのような目。

「そうだった……かな……」

 それだけ言うと、リーガは目を閉じた。それきり、動かない。ローランド卿は明らかに動揺していた。こいつが、本当に殺したというのか?まさか。戦いをあんなにも嫌っていたのに。以前、貴族同士のいさかいがあり、決闘になりかけた時でさえ、わざわざ仲介に入っていったこいつが。

「お前、本当にシアーズ……」

 やっとのことで絞り出した言葉を、目の前の海賊は鼻で笑った。

「変わったか?ほんのしばらくの間に。俺は平気で人を殺せるようになった」

「じゃあ、やっぱりリーガはお前が……」

 ローランド卿は少しずつ落ち着きを取り戻しながら、それでも震える声で呟いた。リーガに目をやると、少し前まで生きていたのに、まるで人形を見ている気分になった。

 シアーズがほとんど囁くような声で言った。


「自分が生きるためだ」


 どこかで聞いたことがある。ローランド卿の手が汗ばんできた。取り戻したはずの落ち着きは、また失われた。

「今ならお前の気持ちがよく分かる。だが事実は変えられない」

 殺される――直感でそう思った。

「待てっ!」

 ローランド卿は焦った声で叫んだ。シアーズは動きを止め、固まったままローランド卿を見つめている。

「俺はリーガと話すためにここにきたのだが……。シアーズ、もうこんな真似はやめて軍へ戻れ。私の下で働け」

 シアーズはそれを笑った。

「お前正気か?死にたいのか?」

 ローランド卿は焦りから、まくしたてるように喋った。

「違う!本国ではリーガは懸賞金がかかっていた。お前にかかるのも時間の問題だ!公賊でもいい、お前が軍に戻ると言うなら、俺が何とかして――」

「昔っからお前は俺に優しいよなあ、ウィル」

 ローランド卿がびくっとする。

 沈黙が流れた。張り詰めた空気の中で、お互いに微動だにしない。

「そうやって罪滅ぼしのつもりか……?」

 静かな声。シアーズから軽蔑の目が向けられた。思わず下を向いて視線をそらす。

「お前になら殺されても構わない……」

「じゃあ、お望みどおり、殺してやるよ」


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