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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第3章 プリンスと過去
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13 封印の過去

「エドモンドは、恋人を――あれ、妻だったか?東の海賊に殺されていたんだ」

 リーガが髭を撫でながら言う。

「しかも東の海賊王は、その時海の魔物の力を手にしていた。強敵だな。まともに戦ったんじゃあ勝ち目はない。いくら海軍といえど、だ。たしかその魔物は、東の海賊王が捕まる前に死んだとか聞いたが。でなけりゃ海賊王が捕まるわけはないんだがな」 

「だから自分の子どもがいなかった?そしてウィルを……」

 窓の外は、赤の比率が高くなっていた。

「そうだ。エドモンドは、ウィリアムが傷つくことで復讐しようとしたんだ。結局ウィリアムは誰からも愛されない存在なんだ。お前も早いとこ、あんな裏切り者には見切りをつけて、海賊らしく気ままに生きろよ。といっても俺の下で、だがな」

 シアーズはあまりのことに言葉が出てこなかった。ウィルは一言だってそんなこと、言ったりしなかった。どうしていつも、何も言ってくれなかったのか。あいつはいつだってそうだ。子供の頃から変わらない。限界まで一人で溜め込んでしまう悪い癖がある。

 でも、彼がなぜ海の魔物をあんなに憎むのか、少し分かった。




「次はいつ、出港できる?」

 ローランド卿はイギリスの司令官室で書類を整理しながら言った。士官は驚いた様子で振り返った。

「えっ。早急すぎやしませんか?お怪我もまだ……」

 リーガにやられた怪我はだいぶ良くなった。しかし、完治してはいない。ローランド卿はあの戦いで左肩を痛めたようで、出来るだけ動かさないようにしていることくらい分かる。顔にも所々痣が残り、そこだけが目立っている。

「あれだけの失態を犯しておきながら、降等処分ですらないのが不思議なくらいだ。キャプテン=リーガに会いに行く。探すのに手間がかかるがな……。質問に答えろ」

「あと二十日は修理に時間が必要です」

 士官は、シアーズ殿のことか、と思い当ったが、口にはしなかった。

「できればお互い、戦闘は避けたいからな。上級戦艦一隻、フリゲートを二隻用意しろ。兵員は最小限にしろ」

 士官が敬礼する。

 士官が部屋を出ていくと、ローランド卿は机の上の海図を睨みつけた。胸がドキドキする。思わず眉間にしわが寄る。

 シアーズはもう、秘密を知ってしまったんだろうか。シアーズにだけは知られたくない。リーガは誰にも話さないとは言っていたが、相手がシアーズ伯爵の息子では、リーガは暇つぶしに、余興として話してしまうかもしれない。もしそうなった時、シアーズがどんな反応をするか――想像もできない。




「お呼びですか、キャプテン」

 シアーズが船長室のドアをノックした。もうここへ来てどのくらいになるだろう。覚えていない。海賊の間でも、自分の名は知れ渡るようになった。何しろ、海軍から海賊になったのだから。

「ああ、呼ばれた理由は分かっていると思うがね……」

 リーガは窓の外を眺めたまま呟いた。明るい光が、シルエットだけを浮かび上がらせている。


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