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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第1章 スペードの闇
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01 序奏「終宴」

前作の過去のお話です。前作を読まれていない方は、そちらを先に読まれるとキャラクター設定は分かりやすいと思います。これ単体でも楽しめるように努力はします。

 穏やかな海だ。太陽の光がきらきらと反射している。波のせいで、光は好き勝手な方向に消えていく。空は青く、水平線との境目はほとんど分からないくらいだ。海鳥が二、三羽、大きな弧を描くように飛んでいた。時折、甲高い声で鳴く。

 その海で、いくつかの船が縦に並んで走っていた。イギリス海軍が海賊の警戒に当たっている最中だ。しかし彼らは、二隻の海賊船が向かって来ていることに気付いていないようだ。ただ、二人を除いては。


「父上!」

 一人の少年が甲板を走った。十歳前後で、金の髪を後ろで一つに結んでいる。走ると、馬の尾のような髪は、ぴょんぴょんと少年に合わせてとび跳ねた。瞳は海と同じ青。上等な白いシャツを着て、黒のズボンと立派な革の長靴も履いている。

「おお、アート、どうした?」

 父上と呼ばれた人は、ヨーロッパの貴族によくある白いかつらを被り、軍服を着ていた。将校で、位はかなり高そうだ。彼はアートと呼んだ少年の頭をなでた。

「あのね、向こうに大きな船が!あれも、父上の部下の人達?こっちに来るよ」

「何!?」

 乗組員の顔色が変わった。士官の一人が慌てて望遠鏡で、少年の指差した方を見た。空間に亀裂が入ったように感じられた。

「閣下、間違いありません、リーガの船です。もう一隻……レイモンドの船でしょうか?奴ら、まさか手を組んで……!」

 将校が望遠鏡をひったくり、片目を細める。望遠鏡を仕舞うと、彼は苛ついたように舌打ちをした。

「総員戦闘配置につけ!他の船にも伝えろ!」

 艦隊全体に緊張が走った。大砲の準備を始め、一気に騒がしくなった。重い大砲を動かす時、ゴロゴロと雷のように床が振動するのが分かった。将校は、息子を倉庫に追いやった。うす暗い船室に、少年の戸惑いが感じられた。

「アート、出て来るな。ここに隠れていれば見つかるまい。いざという時は、そこの剣で戦え。お前も剣術ができないわけじゃない」

 視線だけで剣の場所を示すと、乱暴に扉を閉めた。確かに剣はある。少し短めのレピアーだ。だが、所詮子どもに何が出来るのか。父上は、何を思っているのか。少年は剣を握り、樽の隙間に隠れた。うずくまる己がひどくちっぽけに思える。乱れる呼吸を抑え、震える体を情けなく思う。

 その直後、船体が大きく揺れた。アートは、バランスを崩して尻もちをつき、樽に頭をぶつけた。嫌な砲撃音がして、腹の底から響くような重低音がして床が揺れた。何度かぐらぐらとした。アートは手をついて立ち上がった。父が乱雑に閉めた扉は、反動で少し、光が漏れていた。何か、見える。


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