ウィルフォード視点
僕はこの国の第三王子だ。
今日は婚約者とのお茶会の日である。
そして、僕には人に言えない秘密があった。
そう、それは・・・。
僕の婚約者が魔女という事を知ってしまったのだ。
【溯る事3年前】
朝の食事中に母が言った。
「ウィル、今日はフェアリエルさんとの顔合わせがあるの、覚えているかしら?」
「もちろん覚えているよ!楽しみだな!」
僕は、初めて会えるこの日を、指折り数えながら待っていたのだ。
もちろん、忘れるはずがないじゃないか。
それを見ていた父も嬉しそうにしていた。
「そうかそうか。楽しみじゃな。仲良くするんじゃぞ!」
2人の兄達も『顔合わせ、頑張ってこいよ!』とエールを送ってくれる。
どんな子なんだろう。父は、妖精のような子だと言っていた。
そう、この時の僕は、期待に胸が膨らんでいたんだ。
それから早速、自室へと戻り準備をする事にした。
侍従のステファンが、この時期にピッタリのパステルグリーンのフォーマルスーツにネイビーの蝶ネクタイを用意していたのだ。
なんとも春らしい装いだった。
それに着替え、母の部屋へと移動する。
母も僕の装いを見て『良く似合っているわ』と言ってくれたので、婚約者のフェアリエルも、そう思ってくれるに違いない。
母と一緒に部屋を出て、お茶会をするローズガーデンへと移動した。
ドアを開けてもらう前に気合を入れなおす。
さぁ、いよいよだ。
ローズガーデンに入り、少し歩くとガゼボがある。
そこにはテーブルセットが用意されており、彼女達親子が既に座っていたのだ。
歩いて来た僕達に気付いた彼女達は、立ち上がり頭を下げたまま待っている。
彼女のベビーピンク色のワンピースドレスと、綺麗なシルバーブロンドの髪が、風でフワフワと揺れていた。
この子がフェアリエルで、僕の婚約者なのか。
不躾だが、上から下まで見てしまったのは言うまでも無い。
そうして母が、楽にして良いと告げると彼女たちは顔を上げたのだ。
その時、ピンク色の綺麗な瞳と目が合った。
すると、心臓がドキリと跳ねる。
心の中がキュッと締め付けられる、初めての感覚に戸惑ってしまった。
双方の母が挨拶をしているが、僕には全く聞こえていなかった。
時が止まった様に感じる。
どうしても、彼女から目が離せないのだ。
そして彼女がカーテシーをし、挨拶をしているのを、僕はただ見ていた。
それから、今度は僕の事をみんなが見ている。
・・・そうだ!挨拶をしなくては。
そう思うのだが、なかなか言葉が出て来ない。
身体がカチカチで喉が詰まる感覚も初めての事だった。
やっとの事で、何とか自分の名前は言えたが、フェアリエルの挨拶と比べて、とても酷いものだった。
母がフォローをしてくれたのが余計に恥ずかしかったのを今でも覚えている。
その後、お茶会は恙無く終わり、僕は名前しか喋れなかった事に気づいたのだ。
こんな事は初めてだった。
だから母に『僕は何かの病気になってしまったのかもしれない』と相談したんだ。
すると母は『まぁ、なんて微笑ましいのかしら!病気ではないわ。ウィルが大きくなれば何れ分かる事だし、自分で気付かなくては意味がないのよ』と嬉しそうに言う。
僕は今知りたいのにな・・・。
そう思い、気付いたのだ。
そうだ!自分で調べればいいんだ。
父上は調べ物の時、図書室に行くから僕も行ってみよう!
思い立った僕は早速、図書室から自分で読めそうな本を借りて来たのだった。
色々読んでみたが、動物図鑑や文字の書方本とか、なんかちょっと違う気がする。
選ぶ本を間違えたかな?
・・・でも、あと一冊だから読まないと。
気を取り直し、最後の一冊に手を掛けた。
この本は物語だった。題名は【魔女のティーナはお友達がほしい】だ。
読んでいくと、ティーナは人を意のままに操る事が出来る魔女なのだ。
その綺麗な瞳で見つめられれば、誰もが人形の様になってしまう。
ティーナはそんな力、欲しくはなかった。
この力がある限り、本当の自分を分かってくれるお友達は出来ないと諦めていたのだ。
そこに、一人の男の子がやってくる。
この子だけはティーナの力が効かなかった。
ティーナは嬉しくなり、もしかしたら、他にもこの男の子のような子がいるのではないか?と思う様になる。
そして男の子と一緒に街へ行ってみる事にしたのだ。
だが、ティーナの力が効かない子はいなかったのだった。
そこで、男の子が提案する。
『僕と一緒に力を抑える方法を探そうよ』と。
だが、どれも上手くいかなかった。
もう諦めようと思った時、男の子が自分のメガネを貸してくれたのだ。
そうしたら、力が弱まり、人形の様だった子が自分の意志で話しかけてくれたのである。
嬉しくなったティーナは、男の子と手を取り合い喜びを分かち合うのだった。
その後、ティーナはいっぱいのお友達に囲まれて楽しく暮らしたと言う。
けれど、一番の大事な友達は、いつもティーナを気に掛けてくれた男の子だったのだと、改めて気付いたのでした。
めでたし、めでたし。
最後のページに、ティーナがみんなと笑顔で手を繋いでいる挿絵があった。
ティーナはシルバーブロンドの髪に、ピンクダイヤモンドの瞳をしていたのだ。
僕は目を疑った。どう見てもフェアリエルにしか見えない。
え!?
・・・まさか、魔女ってこと?
だから、フェアリエルがいる時だけ、喉が詰まって喋れないし、心がキュッとなって、身体がカチカチになるのも、操られているせいだったんだ。
・・・なるほど。
僕の意志では、どうにもならなかったのは、フェアリエルが魔女だからなのだ。
病気ではなかった事が分かって良かった。
でも、もしかしたら、フェアリエルもその力に困っているかもしれない。
・・・何とかしてあげないと!
次のお茶会までに準備をしなきゃ!
そうしたら、もっと色々と話せる様になるのかな。
そうして、希望を見出したウィルフォードは、ステファンに伊達メガネを作る様に言うのであった。
この本は、クリスティアーナに片思いをしていた男が、気持ちを昇華する為に書いた本だ。
内容としては、僕は本当の君を知っているよ。
君が誰と結婚しても、僕だけは、いつまでも君の味方だからね。
と言う、凄まじく気持ちの悪い思いが籠っている本なのである。
どうして、こんな本が王宮にあるのか。
そして、なぜウィルフォードがそれを、運悪く手に取ってしまったのかは、神のみぞ知る。




