13
「ウィル?なんか疲れてない?」
ウィルフォードを見ると、顔がやつれていた。
昨日は早く寝ていたわよね?
・・・もしかして、ソファが原因なんじゃ・・・。
「いや、大丈夫だ。気にする程の事じゃない」
いや、でも、そのクマは酷過ぎる。
今日は、ベッドで一緒に寝ましょうって誘ってみようかしら?
と、そんな事を考えていると、ベティニアの侍女がやって来た。
「朝食の準備が整いました。ご案内させて頂きます」
昨日到着したばかりなので、今日はお休みを兼ねて1日フリーとなっている。
そうして案内されて着いた場所は、街を一望できるテラス席だった。
「ウィルフォード、エル。
おはよう。昨日は良く眠れたか?」
既に席に着いていたベティニアが口を開いた。
「おはよう、ベティ。
とっても快適だったわ」
「ははっ。そうか。
だが、ウィルフォードは、違う様だな?」
すると、ウィルフォードは眉を顰めて『分かり切っている事を、聞くな』と言っている。
・・・やっぱり、ソファーが原因なのね?
ちょっと恥ずかしいけど、健康には代えられないわ。
そしてフェアリエルは、今日から一緒に寝る事を決めたのであった。
それからは、お互いの近況を話したのである。
「ベティニアは、両親に話したのか?」
ふわふわのオムレツを食べる手を止めて聞いているウィルフォード。
「ああ、話した。
そして2人共、ぶっ倒れたな」
ははっ。と笑いながら、パンを手に取るベティニアの顔に、悲壮感は無かった。
「だが最近では、私が女王となり、マティニアの子を養子にする事で話が進んでいるんだよ」
「ご両親は理解してくれたのね?」
「・・・理解したと言うか、選択肢がなかったんだろう。
マティニアが、アレだしな?」
・・・分かる。
だが、姉のベティニアに言うのも憚れるので、曖昧に微笑む事にした。
「エル。
言っても良いのだぞ?
実際、そうなんだから。
マティニアが迷惑を掛けてすまんな。
ウィルフォードも、滞在中はエルと同じ部屋だが、耐えてくれ」
「ベティ、大丈夫よ!
今日からウィルと同じベッドで寝るわ」
すると、隣のウィルフォードが咳き込み始めたのだ。
きっと、飲んでいたミルクが気管に入ったのだろう。
私は優しく背中を撫でてあげたのである。
「ウィルフォード。
これは、苦労するな。
・・・でもまぁ、本人が言っているんだから、少しぐらいは良いんじゃないか?」
「・・・お前。
面白がっているだろう」
「ははっ、まぁな。
だが、辛いのなら私がエルと寝ても良いぞ?」
「断る!」
『猫の額よりも狭いのは、相変わらずか』と、笑っていたベティニアが『そうだった』と何かを思い出したかの様に話し始めたのだ。
「この後、ラウルを呼んである。
アイツも、2人に会いたがっていたぞ」
・・・そうだ!
ラウルの名前を聞いて思い出した。
「ねぇ、ベティ?
ミレットさんは、どうしたの?」
すると、居心地が悪いのか『あー』とか『うーん』と言って、なかなか本題に入らない。
!?ま、まさか!?
事故や病気など、大変な事が起こったのでは!?
「何があったの!?」
「ああ、悪い。
実は此処には居ないんだ」
え!?
じゃあ何処に行ったって言うの?
すると、ベティニアが続けて話してくれた。
「ラウルの家にいる」
・・・・・・はい?
もしかして、押しかけ女房になってしまったのだろうか?
「それに、ラウルがもうすぐで来るからな。
その時に聞くと良い」
ベティニアがそう言うので、しばらく待つと、ラウルとミレットがやって来たのだ。
「ウィルフォード、妖精ちゃん!
久しぶりだね!
2人共、変わらず元気そうでよかったよ」
「ラウルも変わらないな。
一ヶ月はアリステリアスに滞在するから、よろしく頼む」
ベティニアが、ラウルとミレットに席を勧めたので、私も挨拶をした。
「ネフタリアさん、ミレットさんも、久しぶりね。
それと、ミレットさんはベティの侍女は辞めてしまったの?」
と、ミレットに聞いたのにラウルが答えて来たのだ。
「聞いてよ、妖精ちゃん!
彼女、先月まで侍女をしていたんだけどね、とても優秀だったんだよ!」
・・・うん。
それは、大変素晴らしい事だと思うのだが・・・?
理由が全く分からない。
すると、ベティニアが口を開いた。
「ラウル。端折りすぎだ。
要するに、ミレットが優秀すぎて、求婚者が後を絶たなくなったんだよ。
エルも知っていると思うが、うちの国民性は自分の心に従う事を重んじている。
だから、ミレットを無理やり妻にしようとする輩が現れてな・・・。
仕方なく、ラウルの婚約者候補として預ける事にしたんだ」
ベティニアは、丸投げした事を後ろめたいのか、チラチラとラウルを見ている。
「まぁ、仕方ないよね。
事情が事情だし。
それに、うちは公爵家だから、嫡男の婚約者候補に手を出す奴は、そうそういないでしょ?
よっぽど、本気の奴以外は、だけど」
「私、毎日ラウルさんと居られて幸せです!
こんな日々がずっと続けばいいなって思います!」
「はいはい。
もう分かったから、その話は終わりね。
ほらっ。これ、ミレットの好きなお菓子じゃない?」
と言ってミレットに促すラウル。
「あ!本当ですね。
覚えていてくれたんですか?
嬉しいです!」
と、笑顔で言うミレットに『別に、たまたまだよ』と言って、顔を背けたラウル。
・・・え?
まさかの、ツンデレなの?
2人を取り巻く空気感が、以前とは全然違ったのだ。
私が2人の様子をジッと見ていると、ベティニアが話し始めた。
「実は、エルがマティニアに目を付けられてな。
今、2人を同室にしているのだが、他に、いい案はないか?」
すると、ラウルとミレットは、ウィルフォードの顔を見つめた。
「えーっと、その、大丈夫?」
ラウルが憐憫のこもった表情でウィルフォードに問いかけている。
「まぁ、なんとか」
それを見ていたミレットが話し始めたのだ。
「あの、ウィルフォード殿下?
逆に、マティニア殿下と一緒に、お休みになるのはどうでしょう?」
その提案に、私以外の3人が固まったのだ。
と言うか、なんでこんな話になっているのか?
「私と同室の何がいけないの?」
と、その言葉にみんなが一斉に私を見た。
そして、気まずそうにラウルが口を開いたのである。
「あー。妖精ちゃん?
僕が言うのもなんだけど、あまりにもウィルフォードが可哀想だから、言わせてもらうね。
その・・・。
好きな異性と同室って、嬉しいんだけど、そうじゃない場合もあるんだ。
例えば、手が出せない状況とかね?
女の子には分からないかもしれないけど、我慢しなきゃいけない男は結構辛いんだよ。
だから、その事を踏まえてウィルフォードと話し合った方が、いいんじゃないかな?」
ラウルの話に、そこまで辛いとは、思ってもみなかったのだ。
少しの触れ合いくらいなら、良いんじゃないかと考えていた、自分の浅はかさを恥ずかしく思った。
「ネフタリアさん、言いにくい事を言わせてしまってごめんなさい。後で、ウィルと話すわ」
そう私が謝ると『いや、大丈夫だよ。それより、マティニア殿下だよね』と言い、話題は戻っていったのである。
だが結局、解決策はなかったのだ。
ラウルは『また来るよ』と言って、ミレットさんと帰って行った。
そしてベティニアも『少し2人で話すと良い』と言い残して席を外したのである。




