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そして、あれから私達は幾つかの国境を越え、アリステリアス王国へと入国する事が出来た。
時は既に、出発から20日程経っていたのである。
景色も街並みも、そして気温や湿度も全く違う。
私達も持参して来た夏服を着ているのだ。
車窓から眺めると、牧場や畑が点在している。
あと少しで、ベティニア達のいる都市へ入るそうだ。
そうして、少しすると城壁が見えてきた。
・・・これが城塞都市。
重厚な門構えもさることながら、堅牢な城壁が街全体を囲っている。
どんな攻撃を受けても破壊できない。
そんな雰囲気を感じた。
そして、許可証を見せる事で難なく通過する事が出来た私達は、門から一番奥にある王宮へと進むのであった。
その道中、窓から見える景色に、ウィルフォードが色々と教えてくれる。
見慣れない食べ物や、工芸品、街並みなど、初めて外に出た子供の様に、アレコレと聞いてしまったのだが、嫌な顔せず、一つ一つ教えてくれたのだった。
そして、王宮の門を潜り、エントランスへ横付けした馬車から降りた私達に、使用人達が出迎えてくれたのだが、その人の多さに驚いてしまったのである。
え!?
すごくない?
人が列を成し、一本の道が出来ていた。
私は初めての事に狼狽えてしまったのだが、ウィルフォードを見ると、アルカイックスマイルを浮かべて、平然としている。
そのままウィルフォードがエスコートをしてくれるので、私も笑顔を浮かべて、それに応えたのであった。
そして一先ず客室へと案内され、準備が出来次第、アリステリアス王家の人達に謁見する予定だ。
お茶の準備をしてくれたメイドが下がって行ったのを横目に、私はウィルフォードに聞いてみたのである。
「毎回、あんな感じで出迎えてくれるの?」
「うん?
・・・ああ、そうだな。
どこの国へ出向いても、大体こんな感じだ。
まぁ、アリステリアスは大国だから、人数は他国とは比べ物にならないけどな。
それに今は王族扱いだが、婚姻して臣籍降下したら、もっと落ち着くんじゃないか?」
・・・なるほど。
外交の度にこうなのかと思ったのだが、違うようだ。
私はウィルフォードに『そうなのね。教えてくれてありがとう』と話し、そのまま他愛ない話しをしていたら、お手洗いに行きたくなってきた。
「あの、ウィル?
お化粧室に行く時間って、あるのかしら?」
すると、ウィルフォードは腕時計を確認してから『まだ大丈夫だろう。今、メイドを呼ぼう』と言うので、私は大丈夫と答えたのだ。
さっき案内された時に場所は把握している。
わざわざ、呼ぶ必要もない。
それに、知らない人に用を足すまで待たれるのも、なんか嫌だ。
私は『行ってくるわ』と言い残して、客室を後にしたのである。
そして、お化粧室へと向かう道すがら、さっきの光景が蘇った。
ウィルフォードが着けていた腕時計。
実は、私が誕生日にあげた物なのだ。
ネイトピア王国では、懐中時計しか見た事がなかったので職人の元へ通い、試行錯誤して作ったのである。
話せば長くなるので割愛するが、ウィルフォードは、とても気に入ってくれたようで、いつも身に着けてくれるのだ。
それを見る度に、私も嬉しくなる。
と、そんな事を考えていたら化粧室に着き、用を済ませて戻ろうと廊下を歩いていた、その時。
ベティニアが前から歩いて来た。
「ベティ!
久しぶりね。会えて嬉しいわ!」
私は嬉しくなって、駆け寄り、抱き付いたのである。
すると、ベティニアも抱きしめてくれたのだ。
そして、気持ちが落ち着いてから見ると、黒い髪が短くなっていた。
「あの綺麗な髪を切ってしまったのね」
すると、コクリと頷いたのである。
・・・あれ?
なんだか、違和感を感じる。
ベティって、こんなに大きくて硬かったかしら?
私は不安に思い、少し離れてまじまじと見た。
顔はベティニアで間違えない。だが、体格が違う。
・・・え!?だれ!?
とその時。
「なんだ、気付いたのか。残念だな」
すると、頭の上から男性の声がしたのだ。
見上げると、ベティニア擬きの人が続けて口を開いたのである。
「ベティニアの友人か?」
まさかの人違い!
私はすぐに謝罪をした。
「し、失礼致しました。ベティニア様だと思ってしまい、大変ご無礼な事をしてしまいました。申し訳ありません。
それと、ベティニア様とは友人として仲良くさせて頂いております」
ベティニアを呼び捨てにするこの人は、絶対に王族だ。
私は恐る恐る返事を待っていると『いや。良い思いをさせてもらったからな。だから、いい』と言った。
へ?なにを?
そう思ったのは束の間『名はなんと言う?』と聞かれ、口を開こうとした、その時。
「何をしている?」
とウィルフォードの声がした。
その声に思わず安堵してしまう。
「・・・ウィルフォードか?
もしかして、お前が親善大使なのか?」
とベティニア擬きが私を通り越してウィルフォードを見つめていた。
「ああ、そうだ。久しぶりだな。
で、俺の婚約者になんの用だ?」
ウィルフォードは怪訝な表情で返している。
「お前の婚約者なのか?
だが、さっき私に抱き付いて来たぞ」
!?
間違えたって、さっき言ったじゃない!
私はウィルフォードに向き直り『ベティと間違えてしまって』と答えたのだ。
すると『コイツはベティニアの双子の弟だ。それより、いきなり抱き付くのはどうなんだ?』と眉を寄せて言われてしまったのである。
確かにそうだ。
久々に会えた事に嬉しすぎて、飛び付いてしまったとは言えない。
「ウィル?ごめんなさい。嬉しくて思わず。
・・・気をつけるわ」
私が謝っていると、ベティニアの弟が口を挟んで来たのだ。
「ウィルフォードの婚約者は面白いな。
私も、いきなり抱き付かれたのは初めてだよ」
と言って、ニヤニヤしてる。
ベティニアには悪いが、なんか嫌な感じだ。
そして私は、ウィルフォードの隣に移動しようとした瞬間、手首を掴まれた。
「私はマティニアだ。覚えておいて欲しい」
そう言い残して去って行ったのである。
それからは、ウィルフォードにコンコンと言い聞かせられたのだ。
最後には、知らない人には付いて行かない。
なんて、幼児に言うセリフまで頂いてしまったのである。
私は肝に銘じて、ウィルフォードに返事をしたのであった。
それからすぐに、謁見の準備が出来たと聞き、侍従の案内で謁見室へと向かう。
ここに入れば公式の場となるので、失敗は出来ない。
私達は親善大使として挨拶をしなくてはならないのだ。
深呼吸をすると、侍従が扉を開いてくれた。
私はウィルフォードにエスコートされながら歩く。
すると、本物のベティニアの姿が目に入ったのだ。
相変わらず元気そうで安心した。
そして、その隣にはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたマティニアがいる。
私はマティニアを見なかった事にして、国王と王妃に目を向けたのであった。
そうして挨拶を交わし、恙無く謁見は終了したのである。
そして、先程の客室で待っていると、ベティニアが会いに来てくれた。
「ウィルフォード、エル。
また会えて嬉しいよ。元気そうで何よりだ」
「ああ。ベティニアも元気そうだな」
私も『会えて嬉しいわ』と抱き付かずに返したのだ。
「積もる話もあるが、まずは滞在してもらう部屋へと案内しよう」
そう言って私達は客室を後にしたのであった。




