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学園卒業後しばらく経ち、公務がグッと増えた。
そして先日、王宮に私の部屋を与えられたのだ。
当然、それに対して一悶着があった事は言うまでもない。
父が『嫁入り前の娘を、男と一つ屋根の下に住まわせるなんて、一体どう言う了見だ!』と吠えたのだ。
確かに、父の言い分も分かる。
それに対し、部屋には鍵が付いているし、隣部屋でもないのだから、と陛下達に説得をされて、渋々、公務が遅くなった日のみ、お泊まりが許されたのである。
そして話は変わるが、半年前、兄とメルティアが結婚した。
急な婚約だったのにも関わらず、結婚式は、それはそれは盛大に取り行われたのだ。
そして、2人は毎日ラブラブで見ているこっちが恥ずかしい。
この様子では、すぐに子が出来るのではなかろうか。と思っている。
私とウィルフォードの結婚式は半年後。
まだまだ長いと感じる、今日この頃なのであった。
そして、今日の公務は私が作ったマジッククレーの量産の件だ。
実は瞬間冷凍が成功したのである。
その為、日持ちしない各領地内でしか出回らなかった物を流通する事が可能となったのだ。
それに加えて長期保存も出来るので、食品ロスの観点からも、とても有用的であると認められたのである。
少し前からアグネスに頼み、試験的にガボの流通を始めていたのだが、これが成功した事で、今回本格的に量産する事になったのだ。
実はその件で、アグネスはうちに滞在している。
卒業しても3人で毎日会えるので、とても楽しい。
そして話を戻すが、流通用はもちろんの事、家庭や店舗用として使える物を作る事にしようと言う案が出ている。
マジッククレーを開発したのは、私とウィルフォードだが、使い方についてはアグネスの方が詳しかったりするのだ。
どんな物が冷凍出来るのかは、前世の知識で何となく分かるのだが、ガボみたいに、この世界にしかない物は、私にもよく分からない。
なので、アグネスに色々と試してもらっていたのである。
それから私は、ある程度、量産過程の目処が立ち、後はアグネスに任せて部屋を後にした。
そして次は、他国の外交官がやって来るので、そのおもてなしの補佐をするのが、私とウィルフォードの仕事だ。
裏方なので、会場のセッティングやら、料理の種類や出し方など、予めもらった資料を元に確認して行く。
そうして、無事会食も終わり、私達の仕事も終わりを迎えたのであった。
今日は遅くなったので、このままお泊まりだ。
部屋へと帰り、寝支度を終え、ベッドに入ろうとしたらノック音が聞こえた。
メイドも既に退室させた為、私しか居ない。
・・・えっと、無視はダメかしら?
なんて考えていたら、またノックされた。
私は渋々ベッドから出て、ドアの前で声を掛けたのである。
「どちら様ですか?」
すると『遅くに悪い。少し話せるか?』とウィルフォードの声がした。
私はすぐに戸を開け、ウィルフォードを招き入れたのだ。
すると、私の姿を見たウィルフォードが目を丸くしている。
何だろうと見るが、特におかしなところはない。
ちゃんと厚手のネグリジェも着ている。
そう思っていたら、ウィルフォードが自分の上着を脱ぎ、私の肩に掛けたのだ。
「湯浴みをした後なら、そう言ってくれ。
目のやり場に困るだろう」
と顔を真っ赤にしているのだが、私には真っ赤になる要素が分からなかった。
下着姿だったら分かるけど、ただのパジャマよ?
そう思っていたのが分かったのだろう。
ウィルフォードはムッとしながら返してきた。
「恥ずかしくは、ないのか?」
「えーっと。そんなに恥ずかしくはないかも・・・」
そう伝えると、入り口に立っていたウィルフォードが、私の手を掴んで部屋へと入り、ソファに横並びで座った。
すると私の顔をまじまじと見ながら『俺は男なんだけど、分かってる?』と真剣に聞いてきたのだ。
もちろん分かっている。
だから頷こうとしたら、いきなりキスをされたのだ。
驚きすぎて仰け反ると、そのままソファに押し倒されてしまった。
え!?なっなな、なに!?
そして指を絡ませ、押さえつける様に、何度も角度を変えてキスをして来る。
初めての時とは違いすぎて、どうしていいのか分からない。
心臓が早鐘を打つ様だ。
私が息も出来ずに、いっぱいいっぱいになっていると、ウィルフォードがやっと離れていった。
肩で息をする私をジッと見下ろすウィルフォード。
それに、私も目が逸らせない。
そうして、私の呼吸が落ち着いた頃、静かに口を開いたのだ。
「男なら、好きな人に触れたいと思うのは当たり前だろう?
それに、今までは我慢してきたが、しなくていいのなら、遠慮はしない」
そう言って、再度、軽いキスを落とし、退出して行ったのだった。
私は酸素が足りないヘロヘロな頭で考える。
ウィルフォードの用件は何だったのか、とか、何故こんな事になったのか、など。
しかし結局は、何も分からないのであった。
そして、その後はソファから暫く動く事が出来なかったのである。
【ウィルフォード視点】
・・・やってしまった。
上気した肌に、少し、しっとりとした髪の毛、眠いのか潤んだ瞳。
襲って下さいと言わんばかりの姿に、理性の糸が切れてしまった。
今まで我慢してきたが、余りにも無防備なところを見ると、男として見られていないのではないか?と言う思いも重なり、欲望のままに動いてしまったのだ。
それと、ラピスライトへ行く時だってそうだ。
異性に抱き締められているのに眠るって、どう言う心境なんだ?
そんな姿を見せられるこっちの身にもなって欲しい。
思わず、手が出そうになってしまった事は、後ろめたい出来事として記憶に残っている。
・・・俺だって男だ。
触れたいと思うのも、それ以上の関係になりたいと思うのも、仕方のない事だと思う。
『・・・はぁ』と悩ましいため息が出てしまった。
俺だって、こんな事は初めてだ。
どうしていいのか分からない。
欲望に負けてしまい、用件さえ頭から飛んでしまったのだ。
・・・これから先、我慢出来るのだろうか。
フェアリエルには、ああ言ってしまったが、婚姻前の過度な接触は良くない事ぐらい、俺だって十分に分かっている。
だが、またあの様な姿を見せられたら、自分でもどうなるのか分からない。
であれば、最低限のボーダーラインを決めておけば良いんじゃないか?
・・・取り敢えず、一線を越えなければ、少しくらいは大丈夫だろう。
そう思ってしまう程に、ウィルフォードの理性の糸は、限界に近いのであった。




