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季節が過ぎるのも早いもので、今日は卒業パーティーである。
そして、その前に嬉しい報告があるのだ。
兄とメルティアが婚約したのである。
結婚は卒業してからすぐとの事なので、後1、2ヶ月でメルティアが私の義姉になるのだ。
今は週一回のペースで、花嫁修行と言う名の逢瀬を楽しんでいるそう。
そんな2人の幸せそうな姿を見ると嬉しくなる。
それにしても、兄の変わりようったらない。
父2号になってしまったのだ。
今は子供がいない分、愛情を向ける先がメルティア一択しかないので、見ているこっちは暑苦しい。
やっぱり、血は争えないのだなと感じる出来事だった。
それでも、メルティアは嬉しそうなので、良しとしよう。
そして、既に兄はメルティアを迎えに出ており、私はウィルフォードを待っていた。
今日はウィルフォードが送ってくれたドレスを着ている。
薄い水色のマーメイドラインで、デコルテ部分はレースで覆われていて露出が控えめな物だ。
姿見鏡に立って見ると、昔みたいに、ドレスに着られている感はもうない。
そこには、1人の女性が映っていた。
絵姿で見た事のある、祖母クリスティアーナに似てはいるが、ソックリではない。
やっぱり、私は私なのだ。
すると、サーシャがウィルフォードが来たと教えてくれたので、私はエントランスへと向かう。
今日のウィルフォードは、髪の毛を後ろに撫で付け、白を基調としたフロックコートに、私のドレスと同じ水色を差し色に使っていた。
そして目が合うと、嬉しそうに微笑み『とても綺麗だ』と言ってくれた。
私は笑顔で『ありがとう。ウィルもすごく素敵よ』と言い、ウィルフォードの手を取り馬車へと乗り込んだのである。
会場へ着くと、すごい人と熱気だった。
うちの馬車があったので、兄達は既に入場しているのだろう。
そして、馬車を降りたところで、アグネスに会ったのだ。
アグネスは親戚に頼んだそうで、私達と挨拶を交わし、入場して行った。
それから、私達も会場入りをしてAクラスの集合場所へと向かう。
するとそこには、ベティニアとラウルが居た。
2人は今回、パートナーとして参加している。
こちらに気付いた2人が笑顔で迎えてくれたのだった。
「妖精ちゃん、とっても綺麗だよ!
本当の妖精みたいだ」
とラウルが褒めてくれる。
それに続くように『よく似合っている。ウィルフォードの見立ては、悪くないな』とベティニアが言ってくれたのだ。
私は2人にお礼を言うと共に、2人の衣装を聞いてみた。
「2人の衣装もすごく素敵ね。それは、アリステリアスの正装なの?」
すると2人共、一度自分の衣装に目をやり、顔を上げて話してくれたのである。
「そうだ。
動き良さそうで、よかろう?」
ベティニアが動き良さをアピールする為に、足を前へと出した。
すると、ラウルが付け加える。
「うちの国は暑いからね、だから、薄い布を重ねた衣装が主流なんだよ」
そういって良く見せてくれた。
ベティのは何となく、前世であった、アオザイに似ている。
所々に切り返しがあり、涼しそうだ。
そして、ラウルが着ているのは、薄い布を何枚も重ねた、ゆったりとしたシルエットの衣装だった。
そして、学園長の挨拶が始まり、パーティーが開始したのだ。
私は、ウィルフォードとダンスを踊る。
すると、色々と懐かしい思い出が、頭の中を過った。
今日でこの学園も最後だ。
この3年間は、私の人生の中で、もっとも濃密な時間だと言える。
そして、これから先、みんなそれぞれの道に進む事になるのだ。
出会いがあるなら別れもある。
一緒に居られなくなるのは寂しいが、みんな自分の人生をひたすらに進むしかないのだ。
変わって行く事は怖い事じゃない。
その先の幸せを掴む為に、みんな頑張って行くんだ。
そう思うと、別れも寂しさだけじゃないと思えたのだった。
「何か、考え事か?」
ウィルフォードが優しく聞いてくれる。
「いいえ。
これからも、頑張らなきゃねって思ったのよ」
そう言って微笑むと『程々にな』と微笑み返してくれた。
そうして曲が終わり戻ると、ラウルにダンスを申し込まれたのである。
私はラウルにエスコートをされ、ダンスホールへと舞い戻った。
後ろを見ると、ウィルフォードとベティニアも踊ろうとしている。
そしてラウルのリードで踊り始めると、静かに口を開いたのだった。
「妖精ちゃん。
僕はこの国に留学して、今では本当に良かったと思っているんだ。
ウィルフォードや妖精ちゃん、みんなに出会えた事は一生忘れないよ。それに、君は僕に色々な事を教えてくれた。とても感謝している」
「私、何もしていないわよ?」
「いいや。
君のおかげで、人を大事に思う事を知れたんだ。
だからね、君は僕の、生涯大切な友達だよ。
ウィルフォードと、幸せにね」
そう言って微笑むラウルが付け加えるように言ったのだ。
「僕等は明日、国へ帰る事にしたんだ」
・・・え?
予想していたよりも早く、そして急過ぎて驚き『なんでもっと早くに教えてくれなかったの?』とラウルを攻めてしまった。
すると、ぎこちない笑顔で返してくれた。
「前もって言うと、名残惜しくなるだろう?
だから、前日までは黙っていようって、ベティニア王女と決めたんだよ」
「でも、お別れ会とか何も出来ていないじゃない。
もっと前に教えて欲しかったわ」
そう口を尖らせて言う私に、苦笑しながら『ごめんね』と返してきたのだ。
「・・・明日は、何時に出立するの?」
「昼過ぎかな。見送りに来てくれる?」
「もちろんよ!必ず行くわ!」
そう伝えると、白い歯を見せて笑ってくれたのであった。
そうして、曲を終えると、ウィルフォードとベティニアが待っていた。
「エルとは話せたか?」
ベティニアがラウルに問いかけている。
「ええ。
僕はもう大丈夫です」
するとベティニアが『では、今度は私と踊ろうか』と誘ってくれたのだ。
周りを見ると、女性同士で踊っている人はいない。
けれど国へ帰ったら、もう直接会える機会はないかもしれない。
そう思ったら、ベティニアの手に自分の手を重ねたのだった。
ベティニアが男性パートを踊ってくれると言うので、ベティニアのリードで踊り始める。
「ベティは、何で帰る事を言ってくれなかったの?」
すると、私と目を合わせてニヤリと笑い『理由はラウルから聞いているだろう?』と言う。
聞いてはいるが、納得が出来ないのだ。
口を尖らせて下を向いていると、ベティニアが口を開いた。
「エル。
そんな顔をするな。
生きていれば、いずれ会える機会もある。
だから、笑顔で送り出してはくれないか?」
その言葉にハッとした。
ベティニアだって、きっと寂しいと思ってくれている。
だから私は『明日は、必ず見送りに行くわ!』と泣き笑いになりながらも、笑顔で伝えたのだ。
すると、ベティニアも『ああ。待っている』といつもの笑みで答えてくれたのである。
そうして曲が終わり、私達は別れの抱擁を交わしたのであった。
その後、パーティーも終わり家へ帰ってからは、ベティニアとラウルに渡す餞別を考えて、用意したのだ。
【そして次の日】
ウィルフォードと2人で見送りに行くと、ベティニアとラウル、それからミレットが居た。
しかも、ベティニアの侍女服を着ている。
え!?どう言うこと?
そう思ったのは私だけではないようで、ウィルフォードの顔も如実に語っていた。
そして、ラウルは既に取り乱していたのだった。
「何で君が付いてくんのさ」
「ベティニア王女の侍女として、付いて行く事にしました!」
「は?なんで?
・・・王女、どう言う事か説明願えますか?」
ラウルは眉間に皺を寄せながらベティニアを見ていた。
すると、ベティニアも気まずそうに口を開いたのである。
「いやぁ。
うちの国に興味があるから、侍女として連れて行って欲しいと頼まれてな。
それに、ほらっ!ラウルもミレットがいた方が楽しかろう?」
「はい?
そんな事、一言も申し上げておりませんが」
作り物みたいな笑顔で言うラウルが怖い。
「けど、今更なかった事には出来ないからな。
・・・まぁ、なんだ。
取り敢えず、そう言う事だから、仲良くするんだよ」
そう締め括ったベティニアを横目に、ラウルが溜め息をついたのだった。
そして、話も落ち着いたようなので、問いかけてみた。
「ミレットさん。家は大丈夫なの?」
「はい。うちは男爵家で、継ぐ領地がないので大丈夫です。
ベティニア王女の侍女として箔が付いたら、ラウルさんのお嫁さんになりたいんです!」
と嬉しそうに言うミレット。
もちろん、それに反応したのはラウルだ。
「いやいやいや。
本当、何言ってんの?
もう、解放してくれない?」と嘆いた。
だが、ここまで来ると、一生解放されないような気がする。
そして最後には、押しかけ女房となるのではなかろうか。
そんな事が頭を過るのであった。
そうして感動的な別れになる事もなく、3人は馬車へと乗り込む。
あっ、そうだ!餞別!
私はベティニアとラウルにそれぞれ渡したのだ。
「これは、私とウィルが作ったマジッククレーなの。
使い方はメモに書いてあるから、良かったら使ってね」
すると2人は嬉しそうに受け取り『ありがとう。また会おう』と言い残して馬車は出発したのであった。
ウィルフォードと2人、手を振って見送る。
「行ってしまったな。だが、また会えるよ」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれたのだ。
気付けば、私の瞳からはポロポロと涙が溢れていた。
・・・やっぱり、寂しいものは寂しい。
私はそのまま、ウィルフォードに寄り掛かり、我慢せずに泣いたのであった。




