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今日は久々に学園へと行く日
1カ月ぶりのネイトピア王国は、秋が深まっていた。
今日のお昼は、久しぶりにアグネスとメルティアと食べようと思い、お弁当を用意して来たのである。
それをウィルフォード達三人に伝えると、快く送り出してくれた。
そしてCクラスへ着くと、メルティアが知らない男子に言い寄られていたのだ。
私が来た事に気付いたアグネスが、こちらへとやって来たので聞いたのである。
「・・・あれ、なに?」
すると、アグネスが悩ましげに話し始めた。
「卒業パーティーのエスコート役をさせて欲しいって言う申し込みよ。
メルも困っているみたいなんだけど、無下にも出来ないから、大変みたいなの」
と頬に手を当てている。
え!?
兄はどーした?
真っ先に浮かんだのはソレだった。
すると、メルティアが男子を何とか振り切り、こちらへとやって来たので、いつもの温室へと向かったのであった。
そして早速、先程の事を聞いてみた。
「メル?エスコートは、お兄様に頼まないの?」
すると、メルティアから兄の婚約者候補に名乗り出た事、今は返答待ちだから頼めないのだと言うではないか。
何も知らなかった私は、唖然としてしまった。
そんな私を他所に、メルティアは続けて口を開いたのである。
「手紙のやり取りや、二人で会ったりはしているのよ。けど、まだ返事を貰えていないの」
と伏し目がちで、寂しそうにしているではないか。
そして仕舞いには『ダメならダメと、言ってくれれば、諦めも付くんだけどね』
と微笑んだのだ。
兄は一体、何をやっているのだろうか・・・。
モヤモヤしながら帰宅すると、兄が出掛けるのか、丁度歩いて来たので、さり気なく聞いてみたのだ。
「お兄様、ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。
久々の学園はどうだった?」
何も知らない兄に、私は頬に手を当てて、困っているのよ。とアピールしながら伝えたのだ。
「ええ。みんな元気でしたわ。
それより、そろそろ卒業パーティーでしょう?
私はウィルにパートナーをしてもらうからいいけど、メルがね・・・。
色々な男性に申し込まれて大変そうなのよ」
『ふう』っとトドメのため息もついてやった。
すると兄のにこやかだった顔が、真顔になっていたのだ。
ゴリ押しをし過ぎたかしら・・・?
と少し不安になっていると、兄が静かに口を開いたのである。
「メルティア嬢からは何も聞いていないが、本当か?」
・・・めっちゃ怒ってる。
どうしようと、まごまごしていたら『いや、いい。本人に聞く』と言い残して去って行ったのだった。
もしかして、まずい事をしてしまったのかもしれない。
と思い、慌てて兄の後を追ったのであった。
【アディエル視点】
メルティア嬢は何故そんな大事な事を僕に言わないのか。
もしかして、遠慮しているのか?
最近は、色々と話してくれるようになったと思っていたが、そうでは無かったのかもしれない。
それよりも、卒業パーティーで、他の男と踊るつもりだったのか?
そう考えると、苛立ちが収まらない。
すぐに馬車へと乗り込み出発する。
行き先はメルティア嬢のペントハウスへと変更するように御者へ伝えた。
うちからペントハウスまでは、そう遠くない。
考え事をしていたら、すぐに到着したのであった。
そして、先触のない訪問の為、少し待たされたが、なんとか会う事が出来たのだ。
メイドに案内されてゲストルームへと通されると、そこには目を丸くしたメルティア嬢が居たのだった。
「あの、アディエル様?
どうかなさったのですか?」
いつもは、優しくしなくては、と心がけているが、そんな余裕が今は無い。
僕は単刀直入に聞いた。
「突然、申し訳ない。
エルから聞いたが、卒業パーティーのエスコート役をどうして僕には話さなかった?」
すると、メルティア嬢の息を呑む音が聞こえ、動揺している。
その姿に、どうしようもなくイライラする。
「僕に話さないって事は、他の男と参加するつもりだったのか?」
そう伝えると、焦る様に返してきたのだ。
「いいえ!違いますわ!」
「では、なんで?
君は、僕の事が好きなんだろう?」
感情に任せて口走ってからハッとした。
メルティア嬢が泣いていたからだ。
僕は駆け寄り、彼女の手を握ろうとしたら、その手を叩かれたのだった。
そして、彼女が泣きながら口を開いたのである。
「私は、アディエル様が好きです。
けれど、そんな風に言われたくないわ。
私が言えなかったのは、アディエル様からの返事を頂けて無いからです。
それに、私にだってプライドはあります。
返事がない方に、執拗に何かをお願いする事など、出来るはずがありません」
そう言って真っ直ぐに僕を見たのだ。
その瞬間、学園の友人の言葉が頭を過ぎる。
・・・そうか。
僕は、我を忘れる程に、メルティア嬢が好きなんだと分かったのだった。
「メルティア嬢、ごめんね」
そう言って僕は彼女を抱きしめたのだ。
その時、欠けていた何かが、埋まるような気がした。
そして、驚いて固まる彼女の耳元で話しかけたのだ。
「僕は今まで、恋というものが分からなくて、ずっと考えていたんだ。
それでも、よく分からなくてね。
仕舞いには、エルに聞けば分かるかもしれないなんて、恥ずかしくも、そう思った事があったんだよ」
と苦笑しながら言い、深呼吸をして続ける。
「けど、今、やっと分かった。
メルティア嬢、遅くなってしまい申し訳ない。
是非、僕と婚約してくれないだろうか?」
するとメルティア嬢は目にいっぱい涙を浮かべて聞いて来たのだ。
「それは、私の事が好きと言う意味ですか?」
僕は彼女が可愛くて、抱き締める力が強くなってしまった。
「ああ。君が大好きだよ」
そう伝えると、メルティア嬢も力一杯に僕を抱き締めてくれたのだ。
すごく幸せだなと感じていたら【バン!!】
と音がして振り返ると、エルが扉を押し開き、飛び込んで来たのである。
すると、メルティア嬢が僕から離れてしまったのだ。
邪魔された事に文句を言おうとエルの顔を見ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「お、お兄様?
まさか?まさか!?
メルに何か・・・む、無体な事をされたんですか!!?」
妹の頭の中の僕は、一体どんな奴なんだろう。
と一瞬考えてしまったが、それよりも言わなくてはいけない事がある。
「エル。ノック無しに入るのはダメだよ。
それと、僕が大切な女性に無体をする訳ないだろう?」
エルは僕とメルティア嬢の顔を見ると『えっと、ごめんなさい。私、邪魔しちゃったみたいだわ』と言い残して退出して行ったのだった。
そうして再び静かになった部屋で、僕はメルティア嬢に「結婚してくれるかい?」と問いかけると、笑顔で頷いてくれたのだ。
その嬉しそうに、はにかんで笑う彼女の笑顔を、僕は一生守り続けたいと思い、フッと目を細めたのであった。




