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そうしてゴリラの獣人、ディアナと会う日が決まった。
私はウィルフォードと共に客室へと向かう。
部屋へ入ると、第二王子こと、フェイマス王子とディアナが寄り添うように座っていたのだ。
二人は私達に気付き、立ち上がって出迎えてくれる。
見ると、ディアナは確かに体格がいい。
フェイマス王子よりも頭2個分は大きいし、肩幅も二人分だった。
だが、そんな事はまったく問題ないのだろう。
二人を見れば、想い合っているのが分かる。
すると、フェイマス王子が声をかけてくれたのだ。
「フェアリエル嬢、久しぶりだな。
ウィルフォードと上手くいっているようで安心したよ。
それと、私の愛する人を紹介しよう。
ディアナ・バレンシアだ」
そう言って、愛おしそうにディアナを見つめている。
ディアナもそれに応えるように目を合わせ、そして、私達に目を向けて話し始めたのだった。
「お初にお目にかかります。
私の事は是非、ディアナとお呼び下さい」
そう言って、艶やかに笑ったのだ。
獣人は顔面偏差値が高いのだろうか?
アルマもだけど、ディアナもとても美しい。
ゴリラのゴの字も見当たらない。
想像を遥かに超えた瞬間だった。
それからは和やかに会話は進み、ディアナが『聞きたい事があると聞いております』と話を振ってくれたのだ。
私は先日書き出した内容を思い出し、スラスラと聞いて行く事にしたのである。
まずは、ティアラシアでの婚姻は寺院の許可が必要ないのか。
すると、楽園では寺院は存在しないとの事だった。
教会で式を挙げるだけで、婚姻したと認められるという。
私としては、寺院よりも教会の方が馴染みがあるので、なんだか不思議な感じがしたのだった。
そして次、獣人と人の婚姻はよくある事なのか。
それには、無いと答えた。
そもそも、楽園へと辿り着く人が殆どいないらしい。
人にとっては、それほどまでに過酷な道のりのようだ。
けれど、国を出た獣人が人と婚姻した可能性は捨てきれないので、調べたいのだと言う。
そして次、ティアラシアの場所はどの辺りなのか。
これはアルマの為に聞いているのだ。
何れ、帰りたいと思うかもしれない。
私は地図を広げてディアナに見せた。
すると、地図を飛び出して南を指している。
まさか、載っていないとは思ってもみなかった。
そんな未開の地があるなんて・・・。
前世の常識では考えられなかったので、これは盲点だった。
そして次は、今の会話で気になった事だ。
寺院は無いと言ったが、昔に寺院の使者がティアラシアへと辿り着いているはずだ。
なのに、何故無いのか。
これにも丁寧に答えてくれた。
遥か昔は寺院があった事。
だが、それ以降、使者が訪れる事はなく、独自の信仰が生まれ、今は教会となった事を教えてくれたのだった。
なるほど。
今までは、雲を掴むような話ばかりだったが、やっと、楽園に対して現実味が湧いて来た。
私は『色々と教えて頂き、ありがとうございます』とお礼を言ったのだった。
すると話が終わるまで待っていたのだろう。
フェイマス王子が、口を開いたのだ。
「それでだな、二人に頼みたい事があるんだ。
ラピスライト合同国へ調べに行ってもらいたいんだが、お願い出来るか?」
それを聞いた時に(何故、私達が?)と思ったのだが、ウィルフォードが了承したので、何かあると思い、私は静かに聞いていたのだった。
そして客室を出てから、ローズガーデンへと向かい、話の経緯を聞く事にする。
「フェアリエル、勝手に返事をしてしまって申し訳ない」
ウィルフォードが開口1番に謝って来たのだ。
それに対し私は『大丈夫だから、理由を教えてくれる?』と返したのである。
すると、王侯貴族が他国へ滞在する時には、幾つもの申請を出さなくてはならず、許可が下りるのが、早くても一ヶ月以上はかかると言う。
私は母の実家へ行く時に、申請なんてした事が無かったので、驚いたのだ。
私も、母に聞いたのだが、合同国は他の国とは違い、3領地に分かれ、各領主が5年スパンで王を務めるのだ。
何故、こんな事になったかと言うと、祖父の父が、兄弟三人が均等に分けられるようにと、国を三分割にしてしまったのが初まりらしい。
国名もラピスライト合同国へと変わってしまったのだが、母はモンテリアール王家の血を引く、正統な王女なのだという。
そして話を戻すが、申請の許可はラピスライト合同国だと、3領地に出さなくてはならず、色々と面倒なのだとウィルフォードが言うのだ。
そこで、母の娘である私は、そんな申請をしなくても、すぐに入国が出来るとの事で、今回、お願いされたらしい。
そして、ウィルフォードは婚約者として付いて行けば、申請不要で入国出来るそうなのだ。
私は、ラピスライト合同国しか行った事が無かったので、他国へ行くのには、色々と大変なんだなぁとしみじみ思ったのである。
でも、そうと決まれば早速、母に伝えなければならない。
ウィルフォードは、いつでも動けるとの事なので、母に聞く事にしたのだ。
そして帰宅後に経緯を話したら、とんでも無い事に巻き込まれてしまったのである。
「エル、事情は分かったわ。
では、お父様に手紙を出すから、少し時間を頂戴」
そう母から言われ、私は『よろしくお願いします』と答えたのだ。
だがほんの一瞬、母の動きが止まり、私を見つめて再度口を開いたのだった。
「ねぇ、エル?
ラピスライトへ行くのなら、ミカエルも一緒に連れて行ってくれる?
あの子、絶対、帰っていないと思うのよ」
母の顔が怖い。
笑顔なのに怖いのだ。
確か、母とミカさんが再会したのは一ヶ月前。
あのミカさんの事だ。
絶対に帰っていないだろう・・・。
そして母が、とんでもない事を言い出したのである。
「それとお願いがあるの、エルにミカエルのお目付け役を頼みたいのよ」
その瞬間、息切れ、動悸がした。
私が!?
ウソ?
無理でしょ?
そんな単語しか浮かばない。
私は母に(無理よ!だって、ミカさん、全く話しを聞かないでしょう?)と言いたかった。
でも、言える雰囲気では無い。
約束を守らないミカさんに怒っているのがヒシヒシと伝わってくる。
こういうのを静かな怒りって言うのね・・・。
と思った私は『出来る限り頑張ります』と答えるのが精一杯だったのである。




