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母と慈善事業を終えた帰り道。
「お母様、私がいつもお土産で買って帰るケーキ屋が、この辺りにあるんです」
そう伝えると、母も何度も口にしているので話に乗って来てくれたのだ。
「まぁ!この辺りなのね。
折角だし、寄って行きましょうか?」
馬車を近くで止めてもらい、お店の扉を開けた。
すると、ピンクのカウベルが可愛らしく音を鳴らしている。
中を見ると、いつもの調子でミカさんがお出迎えをしてくれたのだ。
そして声を掛けようとすると、ミカさんの様子がおかしい。
あたふたしていて、どう見ても挙動不審だった。
「あら、やっだ!
・・・どうして?
なんで、ここに?」
少女の様に両手を口に当ててプルプルと震えている。
すると、母が静かに口を開いたのだった。
「ミカエル?
・・・・・・・あなた、何をしているの?」
・・・!?
え?母の知り合い!?
・・・そして、ミカさんの名はミカエルだと、私は初めて知ったのだった。
「うふっ。マリア姉様、お久しぶりね。今日はどうしたのかしら?」
ミカさんの挙動不審は鳴りを潜めたのか、何事もなかったかのように話し始めたのだ。
「・・・・どうしたのかしら?」
母の片眉が上がり、話し続ける。
「貴方が失踪してからと言うもの、叔父様から何度も手紙が届いているのよ。
みんな心配しているのに、あなた、一体、此処で、何を、しているの?」
一言一言区切って話す母が怖い。
冷気がこちらまで伝わって来る。
私は、巻き込まれたくはないので、空気と化す事にしたのだ。
「やーだ、見たら分かるでしょう?
ケーキ屋よ!」
やっぱり・・・。
ミカさんは火に油を遠慮なく注いだだけだった。
「ミカエル、いい加減にしなさい!
これから叔父様に手紙を書くわ。
このフリフリのスカートも、着替えなさい!」
母はミカさんのエプロンの紐を解こうと強行突破に出ている。
「あーん、いやーん!フェアリーちゃーん、助けてー!!」
とその時、母が手を止めてギロリとこちらを見たのだ。
「・・・・エル?
・・・あなた、ミカエルを知っていたの?」
ぎゃー!!お鉢がこちらに回って来た!
「・・・・。
えっと、ケーキ屋の店員さんって事だけよ」
「酷いわ!!フェアリーちゃん!違うでしょ?
あたし達は友達じゃない!!」
えー!!?
いつそうなった!?
口をパクパクしていたら、母が『・・・まぁ、いいわ』と言い、ミカさんに向き直ったのだ。
「いいわね?叔父様に迎えに来てもらうわよ」
「っいや!
姉様、それだけは止めてちょうだい!!
・・・お願いよぉ」
ミカさんは母の腰にしがみ付き縋っている。
・・・・絵面が酷すぎて直視できない。
「・・・・では、一度国へ帰りなさい。
皆、心配しているわ。
事情を説明して、ちゃんと筋を通して来るのよ!」
「・・・・。
分かったわ。
・・・はぁ。
いつも姉様には見つかっちゃう運命なのね。
あーん!
あたしも、とんだ星の下に生まれちゃったわ」
ミカさんは嘆いているが、それは自業自得だ。
失踪すれば、みんな心配するに決まっている。
私はミカさんを横目に、冷気が薄れてきた母に聞いてみたのだ。
「お母様、ミカさんとは、その、どんな関係なんですか?」
「・・・・・そう言えば、話していなかったわね。
私の従弟よ」
なんと、親戚!?
「フェアリーちゃんは、マリア姉様の娘だったの?
やだー!!あたし達、親戚じゃない!」
いつの間にか復活したミカさんが、キャピキャピと言って来る。
だが、ミカさんには悪いが、知り合いと言う距離感だから良かったのであって、親戚となると話は変わって来るのだ。
「フェアリーちゃんの親戚なら、あたしにも羽が生えて来るかしら?」
と、またメルヘンの世界へとトリップしてしまった。
そしてその後、母とミカさんは、近々必ず国へ帰る事。
ミカさんの父には手紙を書かない事で合意したのだった。
気分が浮上したミカさんは、私達に大量のケーキをお土産で持たせてくれたのだ。
母もケーキが美味しい事は知っているので、顔には出さないが、目がキラキラしていたのである。
「じゃあマリア姉様、フェアリーちゃん。
また来てねー!」
と元気に手を振り送り出してくれたのだった。
そうして馬車に揺られてすぐに、母が口を開いた。
「ねぇ、エル?
・・・・貴女、いつからフェアリーになったの?」
母はしっかりと聞いていたのだ。
「・・・・。
ミカさんが私の名前を最後まで聞いてくれなかったのよ」
『自分は妖精です!』なんて、そんな烏滸がましい事は決してしていません。
と母の目を見て伝えたのだ。
「・・・・そう。
ミカエルは、自分の好きな事だと、最後まで話を聞かないのよね。
・・・でも、エルとミカエルは馬が合いそうよね?」
そう言って、フフっと微笑む母に、私は何て言って良いか分からなかった。
ミカさんの事は好きだが、同類と言われると抵抗感がある。
私は何も言わずに、微笑みを返すだけに留めたのであった。




