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先日、私が誤解した件を話そうとウィルフォード言われ、ベティニアと私は王宮の客室へと来ていた。
「ウィルフォードに聞いたが、全く気が付かなかった。本当に申し訳ない。私の事情を話す事なら構わないよ」
そう言って微笑むベティニアの手が少し震えていた。
「ベティ?話したくないのなら、私は大丈夫よ。
聞かれたくない事は、誰にだって少なからずあると思うの」
「いいや、是非聞いて欲しい。
この話を聞いて、エルの私を見る目が変わったとしてもだ。
私は偽りではなく、本当の自分をエルに知ってもらいたいと思ったのだよ。
・・・だから、大丈夫だ」
ベティニアの気持ちが決まったのか『逃げる事も出来る選択肢をくれて、ありがとう』と言い、目尻を下げたのである。
「では、先日の話だが、ウィルフォード、頼む」
まさか、自分が話すとは思ってもみなかったウィルフォードは一瞬驚き、ベティニアに問いかけている。
「・・・俺がか?」
「他に誰が知っていると言うんだ?
・・・私はもう忘れた。
だから、件の詳細を追って説明して欲しい」
「・・・はぁ。分かった。
ではフェアリエル。これから話す事は他言無用だ。
秘匿とされている今、知られたら国を動かし兼ねない内容だからな」
ウィルフォードが怖い事を言う。
その言葉に、喉の奥がゴクリと鳴った。
今更、聞きたくないとは言えない。
ベティニアだって知られる事が怖くても、私に話すと言ってくれたのだ。
その気持ちを無下にする事は出来ない。
私は姿勢を正し、二人に目を向けたのであった。
すると、ウィルフォードが思い出しながら、先日の事を事細かく話して行く。
「あの日は、フェアリエル達が移動教室の片付けの為、俺とベティニアは先に中庭へ来ていたんだ・・・・・」
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ベンチに二人で腰掛け他愛の無い話をしていると、ふと気になる事があったので問いかけてみた。
「何故、うちの国へ来たんだ?」
すると、ベティニアは白けた顔で『結婚相手を探せと言われているんだよ』と言った事に俺は驚き、『結婚相手?』と復唱してしまったのだ。
「そうだ。
・・・無理な事を押し付けられているだろう?」
「・・・ああ。そうだな」
そして、ベティニアは苦笑しながら言い放ったのだった。
「私が、男と結婚出来るはずないのにな!」
そう、ベティニアには特殊な好みがある。
人には言えないが、俺は以前、偶然にも知ってしまったのだ。
「両陛下には伝えないのか?」
「伝えられる訳なかろう?親だから言えないんだよ」
「だが、言わなければ強制的に結婚させられるんじゃないか?」
俺の言葉に歯を食いしばり、気持ちを飲み込もうとしているのか、諦めた顔で告げて来たのだった。
「それは、致し方ないのかもしれないな。結婚は出来ても、子は産まれないだろう。考えただけでも虫唾が走る。
・・・それに私はな、誰にも文句を言われないように、国の為、努力をして来たんだ。
私が男ではなく、女が好きだと伝えたら、今までの功績は全部崩れ去ってしまう。
お主みたいに理解を示してくれる奴は、そうそういないんだよ」
儚く笑うベティニアに『何か出来る事はあるか?』と問いかけた。
ベティニアは自分の両手を握り締めて『いいや、大丈夫だ。お主はエルの事だけを考えれば良い』
と光を失った瞳で伝えてくる。
「だが、俺達は友人だろう?」
「・・・そうだな。
じゃあ、少しだけ愚痴を聞いてくれるか?」
俺は『もちろんだ』と返答し、深呼吸をする彼女の声に耳を傾けた。
「女が好きと言うのが悪い事なのだろうか?
それだけで、私の全てが否定されてしまうのか?
私だって、普通に生まれたかったよ。
こんな困難な状況でも、前を向いて頑張ろうとしているのに、結婚結婚と言われ逃げ場も無い。
親に話したところで、拒絶されるのが落ちだ。
そんな仕打ちをされる事を考えるだけで、心が、痛い」
声が震えていた。
悲痛な心の叫びが聞こえるようだ。
そしてベティニアは、黄金色の瞳からポロポロと涙が頬を伝っているにも関わらず、拭いもしない。
俺は彼女の前に移動して膝をつき、座るベティニアの両手を掬い上げ、下から見上げるように話し掛けた。
「ベティニア、俺は『大丈夫だ』なんて安易な事は言えないが、お前が頑張っているのを知っている。
全てを含めてのお前であって、唯一無二の存在だと思っているよ。
友人として、いつも応援している事を忘れないでいてほしい」
気持ちが伝わって欲しいと思い、握る手が強くなってしまった。
そして少し緩めると、今度はベティニアが握り返して来たのだ。
「ああ、ありがとう。持つべきものは友だな」
そう言って涙を拭い、笑顔を見せてくれたのだ。
俺はホッとして気を抜くと、ベティニアが『・・・なぁ、エルをくれんか?』と調子に乗って来たので『やらん!』と断ると、『お主は本当に揺るがぬな』とそう言って、自信溢れる笑みを浮かべる、いつものベティニアが、そこには居たのだった。
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「エル?私の事が気持ち悪いか?」
ベティニアは緊張しているのか、硬い声で聞いて来た。
私はそれに、なんて答えて良いのか分からなくなってしまった。
前世は多様性の時代だったので、同性愛がある事は知っていたし、特に珍しくもなかったからだ。
「いいえ。
その、悩んでいるベティに、こんな言い方をしていいのか分からないけれど、そんなに、いけない事なのかしら?」
するとベティニアは『ははっ』と笑い、口を開いたのである。
「ウィルフォード、聞いたか?
大した事ではないだと。
エルは相当な胆力の持ち主だな。
・・・はぁ、やはりエルはいいな。
ウィルフォードの相手でなければと思うと、とても残念でならない」
「ベティニア。フェアリエルに手を出すなよ」
ウィルフォードは本気で言っているのか真顔だ。
「分かっておる。
・・・そんな怖い顔で睨むでない」
そう言ってウィルフォードに、しっしっと手を振っていた。
「ベティはずっと悩んでいたの?」
私が聞くと、ベティニアはこちらに向き直り、深呼吸をしてから話し始めた。
「あぁ。
・・・気付いてからは、ずっとだ。
どうせ変わる事が出来ないのなら、自分自身を殺して生きて行くしかないと思っていたのだよ。
だが、エルに大した事ないと言われて、胸が空く思いがした。
ウィルフォードも、全てを含めて私だと言ってくれる。
・・・こんな嬉しい事はない。
自分を理解してくれる友がいる私は、とても果報者だな」
そう言ったベティニアは、太陽のようにニカッと笑ってくれたのだった。
彼女は卒業後に国へ帰り、この事を両親に話すと言う。
きっと、容易い道ではないのだろう。
だが、それでも自分らしく生きる為に頑張ろうとする彼女が輝いて見えたのだ。
私達も、もちろん応援している。
何かあれば、必ず力になる事を約束したのであった。




