ベンジャミン視点
早馬で手紙を出してから1時間後、殿下が慌ててやって来た。
単身、馬に跨り走らせて来たところを見ると、相当狼狽えているのが分かる。
執事が応接室へと殿下を案内したあと、私達夫婦は遅れて入室する事にしたのだ。
「これは殿下。そんなに慌てて如何なさいましたかな?」
私は、あえて悠長に話しかけた。
「公爵、夫人、先触の無い急な訪問、失礼する。
手紙を見た。
フェアリエルに会いたいのだが・・・」
眉を寄せて聞いては来るが、きっと本題は分かっていないのだろう。
だから私は、ストレートに伝える事にしたのだ。
「・・・それは、どうでしょう。
婚約を解消したいと、娘から聞いておりますが?」
「は?
・・・どういう事だ?」
殿下の顔から表情が消えている。
「ベティニア王女の件ですよ。お心当たりはありませんか?」
殿下は額に手を当て、少しした後『何もない』と言い出したではないか。
・・・この男は・・・。
何度エルを傷付ければ気が済むのだ。
「・・・殿下?
以前の貴方達2人が、上手く行っていない事は、知っていたのですよ。
けれど、最近は違うのでは?とそう思っていたのですがね。
・・・私の勘違いだった様です」
「いや、待ってくれ!
確かに、フェアリエルを傷付けたのは分かっている。
だが、今回は全く心当たりがないんだ!何故ベティニアが出て来るのかも分からない」
惚けているのか、本気なのかは分からないが、嘘を付いているのなら、私は許せそうにない。
だから、フェアリエルから聞いた事を確認する事にしたのだ。
「殿下はベティニア王女に想いを寄せていらっしゃるのでしょう?」
すると殿下は唖然とした顔してから、こちらに食って掛かって来たのだった。
「っない!なんだそれは!
・・・なんでそんな事に。
・・・まさか、フェアリエルが言ったのか?」
苛立たしげに歯を食いしばっているのを見ると、嘘ではないように見える。
・・・だが、ここからが本番だ。
私は更に追い打ちをかける事にした。
「ええ。
娘がそう思う程に、殿下とベティニア王女との距離が近いのではないですか?
娘の勘違いだったとしても、娘に非があるとは、私は思っておりません。
それと、娘の心に寄り添ってくれない男に、娘を預ける事は出来ないと思うのが親心です」
私は微笑みを浮かべながら、諭すように話し掛けたのだ。
・・・少しでも、殿下の心に響いてくれたらと願って。
それを聞いた殿下は項垂れていた。
だが、これで打ちのめされているようではダメなのだ。
そんな男に、フェアリエルの未来は託せない。
私は期待を込めてジッと殿下を見つめた。
すると、しばらくして、自分の中で答えが出たのだろう。
殿下の意志の強そうな瞳と目が合ったのだ。
「公爵、夫人。
私はフェアリエルを妻に、と願っている。彼女以外は考えられないんだ。
・・・2度と傷付けないと誓う。
だから、会わせて欲しい」
・・・これは。
私は息を呑んだ。
この短時間で、1人前の男の顔になっているではないか。
そう思い内心ホッとしたが、それを態度には出さずに返事をしたのだった。
「その言葉、嘘偽りなき物として聞き留めておきます。もし、次がある場合は、問答無用で婚約解消をさせてもらいますので、悪しからず。
では、フェアリエルを呼んで参りましょう」
そう伝えて、私と妻は応接室を後にしたのだ。
執事にフェアリエルを呼ぶように伝えて妻と歩き出す。
「あなた?少し言い過ぎなんじゃないかしら?」
と、ベルが心配そうに聞いて来る。
「いいや、あれでいいんだよ。フェアリエルを傷付けた罰だ。
少しくらい、お灸を据えてもいいだろう?
・・・それに、お互いが本気で向き合い、それでも結婚したいと言うのなら、私は喜んで娘を送り出すよ!」
「ふふっ。あなたの愛って、とても深いのね」
ベルが口に手を当てて可愛らしく笑っている。
「それはそうさ、君と私の子供だよ?
世界一、幸せになってもらわないと、愛する君に顔向け出来ないからね」
私は歩きながら、妻の手を取る。
「そうね。私達の子なら、どんな答えを出したとしても、必ず幸せを掴み取るわ。
信じて見守りましょう。
それと、今日のあなたは、とってもカッコよかったわよ」
そう言って、取った手を握り返してくれたのだ。
「ははっ。そうかい?
よかったら、これから一緒に庭を散歩しないか?
・・・マイレディ?」
「お誘い、有り難く頂戴するわ。マイロード?
・・・・・ふふっ」
妻の笑顔が眩しくて、出会った頃を思い出した私は、フッと目を細めたのであった。




