44
辛い事があっても、朝は毎日やって来る。
特に今日は朝日が目に染みて痛い。
ズル休みをしたいと弱い心が囁くが、ここで誘惑に負けてしまえば、二度と学園へと行けそうにない。
昨日散々悩んで泣いたじゃない。
だから、大丈夫よ。
そう自分に言い聞かせて家を出た。
クラスに着くとウィルフォードとベティニアがこちらにやって来たのだ。
「体調はもう平気なのか?」
二人は心配そうに問いかけてくれる。
私は居た堪れない気持ちを隠すように『昨日はごめんなさい。もう大丈夫よ』と笑顔で伝えたのだ。
二人のいつもと変わらない優しい対応に心が痛い。
私はちゃんと、笑えているのだろうか?
二人にしてあげられる事は、一つしかないと分かっているのに、ズルい私は、決断をする事がなかなか出来ないでいる。
二人は他愛のない話で盛り上がっており、時折、気を使って私に話を振ってくれるが、そんな2人を見るのが辛くて、顔が強張らない様に笑顔を張り付けた。
「妖精ちゃん、大丈夫?」
すると、ラウルの声が聞こえた。
ラウルがやって来た事にも気が付かない程、心に余裕がなかったのだ。
そして、彼が聞いているのは、体調ではなく、精神の方だとすぐに分かった。
ラウルは2人に『もう授業が始まるし、席に戻って』と言い、自分の席に着く。
私が参っている事を知っているので、2人を遠ざけてくれたのだろう。
分かってはいたが、これ以上仲の良い2人を見る事が限界だった為、ラウルには感謝しかない。
そして、前の席から振り向いて小声で問いかけて来たのだ。
「・・・ねぇ、妖精ちゃん。嫌なら嫌って言わないと、心が疲れちゃうよ。
それに、我慢する必要はないんじゃない?」
「どう、して?」
喉の奥が詰まり、声が震えてしまう。
「だって、君は悪くないだろう?
僕はね、君を傷付けた事にも気が付かない二人に、とても腹が立つよ」
・・・それは反則だ。
感情が昂り、不覚にも涙が出そうになる。
昨日からずっと、邪魔者だと否定していた自分を誰かに肯定されるなんて思ってもみなかったのだ。
その言葉が、私の死にそうな心を奮い立たせる。
いつまでもウジウジしていてはダメだ。
「ありがとう。私はもう、大丈夫よ」
作り笑顔ではなく、そう素直に答える事が出来たのだ。
そして、私に出来る事を早急に進めようと決意をし、前へ進む事を選んだのである。
【ウィルフォード視点】
フェアリエルの様子がおかしい。
様子を探ろうとすると、ラウルに邪魔をされて近づくことすら、ままならない。
いい加減、イライラした俺はラウルを呼び出したのだ。
「なんで、邪魔をするんだ?」
「あのさ、よくそんな事が言えるよね?
自分の胸に手を当てて考えてみたら?」
いつも穏やかなラウルが、眉を寄せて怒っている事に驚いた。
何かしただろうか?
と考えるが、何一つ思い浮かばない。
「・・・特にないが」
「は?・・・それ本気で言ってんの?」
ラウルの顔から表情が抜けた。
一体何なんだ。全く意味が分からない。
「分かるように説明をしてくれないか?
それに、フェアリエルは俺の婚約者だ」
そう言うと、ラウルは冷笑した顔で口を開いたのだ。
「ふーん、婚約者ねぇ。
よく、そんな事を堂々と言えるもんだ。
じゃあ、彼女が誰のせいで傷付いているのかも、婚約者なら当然、分かるよね?」
「それは、どう言う意味だ?」
「そのままの意味だよ。
じゃあ、僕はもう帰るから。
それと、妖精ちゃんなら早々に帰って行ったよ」
ラウルはにこやかに手を振り、俺を残して帰って行った。
俺は、フェアリエルに会いに行こうと決めて王宮へ帰ると、ステファンが手紙を持って来たのだ。
そこには、クリーヴランド公爵家の蝋印が押されている。
嫌な予感がして、すぐに中身を確認すると、フェアリエルの事で話したい件があるので、連絡が欲しいと言う内容が書いてあった。
ステファンに聞くと、手紙が到着して、すでに30分は経っていると言う。
俺は先触を出す事も、馬車を準備させる事さえも時間が惜しいと思い、そのまま1人、馬に跨りクリーヴランド公爵邸へと向かったのであった。




