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何だったのかしら?
王族同士、交流がある事は知っている。
顔見知りなのかと思ったが、それ以上に仲が良く見えた。
ウィルフォードの態度が、私に対してよりも、アリステリアス様への気安さを感じて不安になる・・・。
それにしても、アリステリアス様は、ものすごく美人だった。
黒い巻き髪に、ラウルより濃い金の眼。
夜の女神の様に妖艶な方だった。
トボトボとクラスを出て歩いていたら、メルティアとアグネスが前から歩いて来たのだ。
私に気付いたメルティアが、片眉を動かし『元気ないじゃない。大丈夫?』と声を掛けてくれた。
そしてアグネスも、『クラスが離れてしまったわね』と寂しそうに言ってくれる。
そうなのだ。
メルティアとアグネスはCクラスで離れてしまったのだ。
・・・それも凄く寂しい。
今まで、とても恵まれていたのが分かる。
「クラスが違くても、私の事、忘れないでね」
思わず弱気になって、ポロッと出てしまった。
すると『何言ってるのよ。クラスが違ったって、学園がなくなったって私達は友達よ』とメルティアが、『そうよ。エル?気を確かに持って。何かあれば、いつでもC組に来ればいいわ』とアグネスが励ましてくれたのだ。
すごく嬉しい。
友達がいて本当に良かったと、改めて思ったのである。
そうして私は、二人からエールをもらい図書室へと向かったのだ。
その後、少ししたらウィルフォードが慌ててやって来たのである。
「フェアリエル、待たせてすまない。
・・・その、混乱させたよな?」
「ウィルはアリステリアス様と仲が良いのね?」
「ああ、なんだかんだで付き合いは長いからな」
ウィルフォードは、あたかも友人だと言う。
そして、ばつが悪そうに口を開いたのだった。
「それと、父からベティニアの事を頼まれているから、当分図書室へ来れそうに無いんだ」
申し訳無さそうに言うウィルフォードに、私は『分かったわ』と言うのが精一杯だった。
それから、ウィルフォードはすぐに帰らなければならないとの事なので、私一人で図書室に残ったのである。
・・・なんだか、今日は一日色々あってすごく疲れたな。
私もそろそろ帰ろうと席を立ち帰宅する事にしたのだった。
馬車乗り場へと向かう道すがら、ちょうど帰る途中のラウルと会った。
「妖精ちゃん!さっきはドタバタで挨拶出来なかったけど、これからもよろしくね!」
そう言えば、ラウルも巻き込まれていたなと思い出したのだ。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします」
すると、ラウルは私の顔をジッと見ている。
何だろうと思い『何かしら?』と聞いたのだ。
「・・・いや、何でも無い。
ただ、久しぶりだし、元気かなと思って見ていただけだよ!
じゃあ帰り道、気をつけてね!」
そう言って去って行ったのだった。
その後、馬車乗り場へ行くと、すでに迎えが来ていたので馬車へと乗り込み、早々に帰宅したのであった。
【ラウル視点】
アリステリアス王国はベディニア王女とマティニア王子がいる。
二人は双子なのだ。
容姿はそっくりの二人だが、性格は全く違う。
カリスマ性のあるベティニア王女、凡庸なマティニア王子。
『二人の性格が、逆であれば良かったのに』と僕の父はよく言っている。
父はベティニア王女が王配を設け、女王として君臨する事が国の繁栄に繋がると考えているのだ。
ネフタリア公爵家はベティニア王女を支持している。
以前ベティニア王女の婚約者を決める為、国内、周辺諸国で公爵家以上の者を選抜したが、どれも上手くいかなかった。
そこで、国王が目を付けたのが、ウィルフォードだったのだ。
王族の交流会で仲良く話している二人を思い出し、引き合わせる為に僕をネイトピア王国へと留学させたのである。
ベティニア王女より早く留学する事で地盤を固めて、王女がより早く馴染めるように遣わされたのだ。
話している二人は恋ではないが、信頼関係が見て取れる。
結婚するには十分な要素だと思った。
ただ、僕の仕事は二人を会わせるまでだ。
それと、気掛かりなのが妖精ちゃんだった。
ウィルフォードの態度を見て傷付いていないだろうか・・・。
ウィルフォードは気付いていないが、誰が見ても王女と仲が良く見える。妖精ちゃんも気が付いているはずだ。
僕としては、妖精ちゃんがウィルフォードを諦めてくれたら嬉しい。
だが、だからと言って彼女に傷付いて欲しい訳じゃない。
なんとも複雑な気持ちになる。
でも、ウィルフォードが妖精ちゃんを傷付ける様なら、僕は・・・。
そう考えた時、僕は、彼女の心を守りたいと思ったのだった。
【次の日】
クラスへ行くと、すでにウィルフォードとベティニアが話しをしていた。
・・・一緒に来たのだろうか。
そう思っていたら、こちらに気付いたベティニアが手を振ってくれたのだ。
「フェアリエルは今日も愛らしいな」
と目を細めてベティニアが言ってくれた。
ベティニアは美女なのだが、言葉使いや仕草で、とても中性的に見える。
女子校にいたらモテるタイプだろう。
すると、ウィルフォードがしかめ面で口を開いたのだ。
「ベティニア、フェアリエルにちょっかいを出すな」
それに対し、呆れ顔のベティニアが『お主は本当に心が狭いな。なあ、フェアリエル?私の事はベティと呼んでおくれ』とウィルフォードを無視して話しかけてくる。
「おい!聞いてるのか!?」
「煩い!お主は黙れ。
・・・で、フェアリエル?呼んでくれるか?」
二人はコントでもしている様な、テンポの良い会話をしている。
私は何だか面白くて笑ってしまった。
もちろん、不安は拭えていないが、ウィルフォードが友人だと言う言葉を信じる事にしたのだ。
それからの私達はグッと距離が近づき、私、ウィルフォード、ベティニア、ラウルの4人は、いつも一緒にいる様になったのである。
席替えではラウルが私の前になり、ウィルフォードとベティニアは離れてしまったのが残念だった。
そして、早くも始業日から2ヶ月が過ぎようとしている。
今日のお昼は4人で食堂へ行く事になった。
メルティア達に話したら、クラスの交流を大事にした方が良いと言われたのだ。
大分、日が経ってしまったが、今日こそはカレーのリベンジをしたい。
私は迷わずC定食を頼んだ。
初夏の日差しを感じるテラス席に座り、みんなで他愛ない話をする。
そんなひと時がずっと続くと思っていた・・・。
「なぁ、エル?
偶には女子二人で何処かへ行かないか?」
「ええ。是非行きましょう。
ベティは何処か行きたい所はある?」
そんな話をしていただけなのに。
「二人で行くのはダメだ」
え・・・?
ウィルフォードが怒っている。
ベティニアも呆れ顔で『お主も話に水を差すな』と言うが『お前には言っていない』と返し、私に向き直り、眉間に皺を寄せながら口を開いたのだ。
「フェアリエル、ベティニアにあまり近づくな」
私は言葉を失った。
すごい剣幕だったからだ。
「な、んで?」
一言言うのがやっとだった。
すると、不機嫌さを隠す事もせずに、一方的に言い放ったのだ。
「何でもだ。いいな」
それを見兼ねたラウルが口を挟む。
「ウィルフォード、それじゃ分からないよ。
ちゃんと説明してよ」
すると、『ラウルには関係ない』と、ぶった斬ったのである。
とても険悪な雰囲気になってしまった・・・。
とその時、眉を寄せながら、ベティニアが口を開いたのだった。
「ウィルフォードの心は、猫の額よりも狭いからな。
いつか広くなる事があれば二人で出かけよう」
そう言うと、私を見つめてウインクをして来たのだ。
そして、なんとかベティニアのおかげで場の空気は持ち直したが、ラウルは釈然としていないようで、終始、ウィルフォードを見ていたのであった。
私も、どうして怒られたのかが分からず、気持ちがモヤモヤする・・・。
そうして、この出来事が、私の心に黒いシミを残したのであった。




