アディエル視点
「アディエル様、お仕事中に失礼致します。マルティネス譲より、お手紙が届いております」
「ありがとうアルマ」
領地の仕事にも慣れて来た今日この頃。
ちょうど息抜きをしたいと思っていたので早速、手紙を確認する事にした。
何かの相談だろうか・・・。
メルティア譲とは長い付き合いになるが、今まで手紙のやり取りをした事がない。
エルの友達だから、妹のように思っている事は内緒だ。
ペーパーナイフで封を切り確認すると、そこには2人で出かけたいと書いてあったのだ。
こんな事は初めてなので少し驚いた。
メルティア譲と話す時は、大体がエルの事なので、エルと何かあったのだろうか・・・?
もしそうなら、エルには聞けないな。
「アルマ、返事を書きたいので、準備をお願いできるかい?」
「はい。すぐにご用意致します」
アルマは、この短期間で見違える程に成長した。
この間『まだ甘えても良い年ではないか?』とサミュエルに言ったのだが、『やる気を削がないで下さい』と逆に言われてしまったのだ。
アルマはサミュエルに、お爺さんの面影を重ねているのか、とても良好な関係を築けているようだ。
それだけでも、山から連れて来て良かったと思う。
「アディエル様、準備が整いました」
「ああ。ありがとう」
メルティア譲の候補日が書いてあったので、予定の無い一番早い日にする。
場所はお任せするとの事なので、気遣わず話が出来そうな王立公園を提案する事にした。
この王立公園はとても広く、植物園も併設されている。
そこまで人が多い訳ではないから、悩み事を聞くのには、いいだろうと判断したのだ。
「アルマ、この手紙をメルティア譲のペントハウスへ届けて欲しい」
「はい。かしこまりました。では、お預かり致します」
【そうして約束日当日】
エントランスへ向かおうと歩いていたら、前から父が歩いて来た。
「今日は何処かへ出掛けるのか?」
「はい。メルティア譲と約束がありまして」
すると、父は感心する様に返して来たのだ。
「そうか。アディもそろそろ婚約者を決めないといけないからな。メルティア譲なら安心だ」
「・・・父様。
そう言うのではありませんよ」
僕はそんな事を考えた事も無かったので、すぐに否定したのだ。
それに、メルティア譲だって、僕の事を異性として見ているはずがない。
「そうなのか?
だが、違うとしても、婚約者を決めないといけない事は変わらない。
後で話そうと思っていたが、婚約の打診が相当数、来ているぞ。
メルティア譲ではないのなら、その中から選んでも構わないよ」
「・・・。
まだ考えられません」
「すぐに。と言う訳ではない。
この1年で良く考えてみなさい。
あまりにも身分差があるとかでなければ、反対はしないから、良い人がいたら連れて来なさい」
「・・・はい。分かりました」
「では、行っておいで。
メルティア譲によろしくな」
そうして僕は馬車へと乗り込んだのだ。
婚約者か・・・。
今まで意識して来なかったが、僕も19歳だ。
はあ。面倒くさいな・・・。
そう思うと、ため息が出てしまった。
ほどなくして、王立公園の入り口に着いた。
待ち合わせ10分前なのに、すでに、メルティア譲が待っていたのだ。
「待たせてしまって申し訳ない」
僕は焦り、馬車から降りて駆け足でメルティア嬢の前まで行った。
「大丈夫です。私が早く着いてしまったのです。本日は、お時間をくださりありがとうございます」
僕は『大丈夫だよ』と伝えて、メルティア譲をエスコートしながら歩き出した。
そう言えば、メルティア嬢と2人で出掛けるのは初めてだな。
と考えながら他愛無い話をしていると、ガゼボが見えて来たのだ。
周辺には色とりどりのフリージアが咲いている。
僕は、此処で話す事を提案して向かい合わせに腰掛けたのだった。
「今日は何か話したい事があったのかな?」
「あの・・・。
アディエル様と親しくなれればと思いまして」
エルとの悩み事だと思っていた僕は、拍子抜けしてしまった。
思わず『エルの事ではないんだね』と呟いてしまったのだ。
すると、『エルの事ですか?』と首を傾げて問いかけて来たので『いいや。何でもないんだ。ごめんね』と返事をしたのだった。
「あの。
・・・ごめんなさい。少し緊張してしまって」
何故かメルティア嬢の顔が強張っている。
「言いづらい事でもあるのかい?
遠慮なく言ってくれて大丈夫だよ」
そう伝えると、意を決する様に口を開いたのだ。
「あ、はい。
その、アディエル様は気になる女性とかは、いらっしゃいますか?」
なんだ、そんな事か。
だから、僕は『あまり考えた事がないな』と本音を伝えた。
「そうなんですね。婚約者候補はいらっしゃるんですか?」
もしかして、メルティア嬢は、父から僕の婚約の件を聞いているのかもしれない。
だから、心配してくれているのだろう。
「候補はいないが、1年の間に決めなくてはならないかな、とは思っているよ」
なるべく、安心させるように笑顔で答えたのだ。
すると、メルティア嬢が真剣な目で見つめて来た。
「・・・私、立候補してもよろしいでしょうか?」
「・・・え?婚約者に?」
一瞬、聞き間違いかと思い、聞き返したら、『はい』と頷いたのである。
「えーっと。
・・・それは、何か親に言われてきたのかな?」
「いいえ。
・・・私、ずっと前からアディエル様をお慕いしております。
私ではダメでしょうか?」
予期せぬ出来事に、どう返せば良いのかが分からない・・・。
今まで、女性からのアプローチは軽く流していたが、メルティア嬢にそれをするのは憚れる。
だから、今の正直な気持ちを伝える事にした。
「・・・・・。
ごめんね。少し考える時間をもらえないだろうか」
すると、静かに『はい』と返して来たのだった。
妹のように思っていたが、妹ではないのだ。
今も緊張しているのか少し震えている。
僕は、彼女の気持ちに真剣に向き合わなくてはならない。
「メルティア譲。気持ちを伝えてくれてありがとう」
「はい。聞いてくださり、ありがとうございます」
そう言って、メルティア譲は笑ったのだ。
その笑顔が、とても美しく見えた。
【メルティア視点】
長年言えずにいた気持ちを伝える事が出来た。
アディエル様はすごく驚かれていたわ。
私は、かなり一方的だったのかもしれない。
けれど、このまま言えずにズルズルといくよりは、いいと思ったのよ。
気持ちを受け入れてもらえなかったとしても、悔いのないようにしたい。
アディエル様が『伝えてくれてありがとう』と言ってくれた。
私の気持ちを、真剣に聞いてくれた。
・・・それだけで、すごく嬉しい。
嬉し過ぎて、はしたなくも、歯を見せて笑ってしまった。
その後は緊張する事もなく、お話しする事ができたわ。
私が好きだと本人が知っているんだもの。
恥ずかしさなんて、吹っ切れてしまったわ。
この想いが上手く行くのかは分からないけれど、私の気分は、とても晴れやかだったのだ。




