アルマ視点
今日は、寺院の方とお会いする日だ。
お忙しい中、ボクの為に旦那様も付き添ってくださる。
申し訳ないと思う反面、嬉しくもあるんだ。
じいちゃんが亡くなった事で、誰もボクの事を考えてくれる人がいなくなる。
この世界で、要らない存在になるのではないか。
・・・そう考えると、すごく怖かった。
けど、公爵邸へ来て、アディエル様はもちろん、みんな良くしてくれる。
・・・とても嬉しい。
寺院が獣人を認めなくても、ボクは十分に幸せ者だ。
だから気張る事はせず、ありのままのボクで、面会に臨もうと思う。
そう考えていたら寺院へと到着したんだ。
「アルマ、行けるか?」
旦那様が心配そうに聞いてくれる。
「はい。大丈夫です」
「嫌な事には答えなくていいからな」
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
そうして、ボク達は神官長室へと案内された。
「ようこそ、おいでくださいました。クリーヴランド公爵閣下。
私達の希望を聞き入れてくださり、ありがとうございます。
どうぞ、こちらに」
旦那様とボクは、椅子に座る様に言われ、腰掛けたのだ。
そして、旦那様が『ああ。くれぐれも言動には気を付けてくれ』とボクを気遣ってくれる。
「はい。心得ています。
早速ではございますが、私は神官長を務めさせていただいております。
オリーヴァと申します。お名前をお聞きしても、よろしいですか?」
旦那様からの話しだと、もっとすごい態度を取られるのかと思っていたのに、至って普通だったんだ。
なので、ボクは笑顔で返した。
「はい。私はアルマ・ニコネスと申します」
「ご挨拶、ありがとうございます。
是非よろしければ、その帽子を取っては頂けませんか?」
「これでよろしいですか?」
ボクは帽子を取って見せた。
すると、オリーヴァさんは興奮気味に『おお!これが獣人なのですね。絵では見ましたが、実物はなんとも・・・。
その、触れても、よろしいでしょうか?』と話して来たのだ。
と、その時、旦那様が不機嫌そうに『おい』とオリーヴァさんに言うので、ボクは旦那様に『大丈夫です』と伝えたのだった。
そして、オリーヴァさんに向き直り『触れるとは、どこにでしょうか?』と問いかけたんだ。
「はい。出来れば、耳に触れてみたいです」
「申し訳ないのですが、それは出来かねます。他の獣人は分かりませんが、私は信頼した方でないと、耳も尻尾も触れて欲しくはありません」
そう伝えると、オリーヴァさんは残念そうにしていた。
「そうなのですね。不躾なお願いをしてしまい申し訳ない。
では、質問をさせてください。
貴方は人と同じ、権利が欲しいですか?」
ボクは、よくよく考えてみる。
ボク自身は、それほど権利が欲しいとは思ってはいない。
けれどこの先、ボクの願いを叶える為には―――。
「そうですね・・・。
私は今、とても幸せです。
これ以上望む事は、バチが当たるのではないか、とも思いました。
ですが、公爵邸の方は、皆さん良くしてくれます。
・・・それに応えたい。
私は将来、クリーヴランド公爵家ご嫡男の、アディエル様に生涯お仕えする所存です。
その為には、人と同じ権利が必要なのです」
オリーヴァさんがジッとボクの話に耳を傾けてくれている。
そして、静かに口を開いたのだった。
「そうですか。良く分かりました。答えて頂きありがとうございます。
公爵閣下、先日の件のご返答をさせて頂きます。
寺院は、獣人を人と同じ権利を有する者と認めます。
こちらが、その書類となります。恐れ入りますが、陛下へお渡し頂ければと存じます」
オリーヴァさんは旦那様に1枚の書類を渡している。
「そうか。では、こちらは預からせて頂く」
「はい。それとニコネス様、私は貴方様に会う事ができ、今までの考えが間違えであったのだ、と気付きました。
本日はお越しいただき、本当にありがとうございます」
笑顔で伝えてくれるオリーヴァさんに、僕も笑顔で答えたのだ。
「いいえ、認めてくださり、ありがとうございます」
そうして握手を交わし、面会は終了した。
そして、公爵邸へ帰るとアディエル様に呼ばれたのだ。
「ただいま戻りました。
お待たせしてしまい申し訳ありません」
「面会はどうだった?嫌な事はされなかったかい?」
アディエル様が気遣う様に聞いてくれる。だからボクは笑顔で伝えたんだ。
「はい。恙無く終わりました」
「そうか。何もなくて良かったよ。何かあれば必ずいう事。いいね?」
「はい。ご心配をおかけ致しました」
ボクの事を本気で心配してくれる。
そんな優しいアディエル様が、とても大好きだ。
だからボクは、認めて頂いた権利を十分に生かし、アディエル様を支えて行く事を胸の中で誓ったのであった。
【ベンジャミン視点】
私は寺院から預かった書類を読み返す。
・・・寺院が認めた。
200年以上前の考えが覆ったのだ。
何とも言えない感動が胸の中を占める。
この事は陛下にはもちろん、家族にも報告しなくてはならない。
まずは陛下へ謁見の申し込みをする為に筆を執った。
そうして夕食後、家族に談話室へと集まってもらう。
「みんなへ報告がある。今日アルマを連れて寺院へ行って来た。
神官長と話し合い、獣人は人と同等の権利を有すると認められたのだ。
陛下へ報告をしてから、国民へ周知する流れとなるだろう」
すると、アディエルが『父様ありがとうございます』と喜び顔で言って来た。
「ああ。まだ公になってはいないので、周知があるまでは、他言無用でよろしく頼むよ」
とその時、ドアをノックする音が聞こえたのだ。
【トントントン】
「ご歓談中、失礼致します。
旦那様、陛下からお手紙が届いております」
「ありがとう。では、私は陛下からの手紙を読む事にしよう。
他に質問はあるか?」
その時、フェアリエルが、小さく手を上げて問いかけて来たのだ。
「お父様、メル達にも獣人の事を話したいのですが、公表後なら大丈夫ですか?」
私は『ああ。大丈夫だ』と答え、他に質問はないかと、みんなの顔を見る。
すると、アディエルが問いかけて来た。
「僕からも、一ついいですか?
公表後は、アルマを変装させずに外出させても大丈夫でしょうか?」
「そうだな。変装しなくても大丈夫だが、奇異の目で見られる可能性はある。
その事をアルマに話してみて、どうするのかは、彼の意見を尊重しなさい」
アディエルは真剣な顔で頷き『分かりました』と返してきたのだ。
「以上であれば、これで話し合いは終わりだ。
みんな、部屋へと戻って大丈夫だぞ」
その後、家族が退出して行き、私は手紙をペーパーナイフで開封した。
・・・ふむ。
明日、朝一の謁見が許されたので、早めに出ないとな。
そうして、明日は早い為、ベンジャミンは就寝の準備をするのであった。
【そして翌日】
私は、すでに謁見室で陛下を待っていた。
すると・・・。
「ベンジャミン、朝早くからすまんのう。手紙は読んだぞ。
・・・勝ち取って来たんじゃな?」
神妙な顔で聞いて来る陛下に、笑顔で伝えたのだ。
「はい、恙無く。
こちらが寺院から預かりました書類です」
それを見た陛下が、興奮気味に書類を掲げ、大きい声で、返して来たのだ。
「そうか!良くやった!
これで、ご先祖様が残した物を公表出来るな!
これから各領地へ通達をして、告示する事としよう」
陛下は仕事が早い。
これで、すぐに周知されるだろう。
「はい。それでよろしいかと存じます」
「うむ。ベンジャミン、本当にご苦労であった」
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
そうして、陛下への報告は終わった。
もちろん、使用しなかった武器の返却も忘れずに済ませたのだ。
その後、陛下の手際の良さで、すぐに通達が行き、公表されたのは言うまでも無い。




