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【街散策当日】
こんな感じで大丈夫かしらね。
簡素なクリーム色のワンピースに、キャペリンハットを被る。
髪色が分からない様に、編み込みのアップにしてもらったのだ。
そして、ちょうど準備が終わった頃に、ウィルフォードのお忍び用の馬車がやって来たのである。
私は馬車まで行き、ウィルフォードにエスコートをしてもらい、乗り込んだのだ。
「おはようフェアリエル。待たせたか?」
「おはようウィル。そんな事ないわ。時間ピッタリよ」
ウィルフォードの服装は、簡素な白いシャツに紺色のパンツを着ていた。
いつもと違う、見慣れない格好にドキドキする。
本当はじっくりと見たいのだが、恥ずかしくて直視できない。
緊張で目が泳いでしまった。
すると、ふとウィルフォードと目が合ったのだ。
そして、私の事をジッと見ているではないか。
・・・まさか、挙動不審だと思われたのかしら?
そうして沈黙が続く中、先に口を開いたのはウィルフォードだった。
「・・・じゃあ、早速変装するとしよう。
そうだな、茶色の髪と瞳を想像してくれ。
あと、手を出してくれないか?」
私は、何も考えずに、手のひらを上に向けて差し出したのである。
「「・・・。」」
無言のまま、ジッと私の手を見ているウィルフォード。
すると、私の手を取り、クルっと反転させると、そのまま指輪を付けてくれたのだ。
これには、ときめいてしまっても仕方がない。
私は軽く深呼吸をしてから聞いてみたのである。
「この指輪はどうしたの?」
そう言う私に『見てくれるか?』と鏡を渡して来たのだ。
見ると、鏡の中には茶色い髪と瞳の私がいたのであった。
・・・え?私よね?
驚いている私に、ウィルフォードが話し始めたのである。
「これはミラージュと言って、付けた者が想像した、幻覚や幻想を見せる事が出来る物なんだ」
そんな魔道具が存在していたとは・・・。
「・・・初めて見たわ。
これは王家にしかない物なの?」
「ああ、代々受け継がれる物だ。
王族がお忍びの時には、必ず付ける物なんだよ」
それを聞いた瞬間、不安になってしまった。
私は王族じゃない。
だから、ウィルフォードに聞いたのだ。
「私が使っても良いのかしら?」
「父に許可は得て来たので大丈夫だ」
そう言ってウィルフォードも指輪を付ける。
金髪、紫眼が私と同じ茶色へと変わっていった。
「これで大丈夫だな。そろそろ中央広場に着くので、馬車を降りて歩こうか」
そして、馬車からエスコートされて降りると、そのまま手を繋がれたのだ。
「・・・ウィル?
手、繋ぐの?」
「迷子になったら困るからな。
・・・嫌か?」
「嫌じゃないわよ!嫌じゃないけど、なんか、恥ずかしいわ」
エスコート以外の触れ合いは、ほとんどないので、手汗が大丈夫か、不安になってしまう。
「ははっ、そうか。
もっと意識してくれていい」
「え?・・・!?
からかわないで頂戴!」
「悪い悪い。そんな赤い顔して、睨まないでくれ。さあ、行こうか」
クスクスと笑いながらウィルフォードが言い、私の手を引いたのだった。
「まずは、マジッククレーの店からだな!
こっちだ」
そう言って、細い路地をいくつも曲がって進んで行く。
「ウィルは、よくお忍びに来ているの?」
「うん?まあ、そうだな。
町の様子など、人に聞くより自分で見聞きする事が大事だからな。
・・・ほら、着いたぞ!」
そこは、赤いレンガの大きなお店だった。
お店に入ってみると、色々な商品が棚へ綺麗に並べられている。
商品の上には、使用用途と金額の記載があった。
・・・すごいわ!こんなに種類があるのね。
実は今日、アグネスとメルティアにあげた、掃除と加湿器のマジッククレーを何個か作って持って来ているのだ。
買い取ってくれるかしら?
私はドキドキしながら、店主に使用用途を話し査定してもらった。
すると、意外と良い金額になったのだ。
「ウィル見て!買い取ってもらえたのよ。
頑張った事が認められたみたいで、すごく嬉しいわ。
はい、半分はウィルの分ね!」
そう言って買取金額を渡そうとしたのだが・・・。
「これは君が頑張って得たものだろう?
俺はただ手伝っただけに過ぎないし、このマジッククレーは君が作ったものだ。
気持ちだけで嬉しいよ」
そう微笑みながらウィルフォードが伝えてくれる。
でも、だからと言って『はい、そうですか』とは言えない。
うーん、どうしよう。
・・・そうだわ!
「私、美味しいケーキ屋をメル達に教えてもらったのよ。
このお金で、一緒に食べに行きましょう!」
そう話し、ウィルフォードを連れて行ったのだった。
そうして連れ出したのはいいが、街に詳しくない私は、何処だか分からなくなってしまったのである。
「ウイル、ごめんね。Fancy Fancyと言うお店なんだけど、知っていたりする?」
すると、ウィルフォードは少し考えた後、思い出したように答えてくれたのであった。
「・・・ああ。
入った事はないが、知っているよ。少し遠いが、こっちだ」
ウィルフォードが手を引いて、目的地まで連れて行ってくれる。
良く考えると、この世界に転生して初めてのデートだ。
いつものお茶会より、こちらの方が断然ウィルフォードを近くに感じられる。
と、そんな事を考えていたら・・・
「着いたぞ。ここで合っているか?」
「ええ。ここだと思うわ」
見た目はログハウスの様だ。
窓枠には、フラワーボックスが付いており、オレンジや黄色の可愛らしい花が飾られている。
切り株の上に置いてある立て看板には【Fancy Fancy】と書いてあった。
想像していたより、メルヘンではなかったわね。
強いて言えば、看板の横に置いてある、ドングリを持ったリスの置物くらいかしら?
そうして中へ入ると、音が鳴った。
見るとドアにピンクの可愛らしいカウベルが付いている。
店内は、木の温もりを感じさせる空間が広がっていた。
「いらっしゃいませ!ご注文が決まりましたら、お声を掛けてください」
可愛らしい女性の店員さんが出迎えてくれた。
このお店の制服なのか、水色のワンピースに白いエプロン、花をモチーフにした、ヘッドドレスを付けている。
とても可愛い。
そして、ショーケースには目を見張る程の艶やかで、キラキラとしたケーキが並んでいた。
全てのケーキに、妖精や花を模ったカラフルなデザインチョコが飾られている。
二人が言っていた通り、本当に可愛いケーキだわ。
私は目で追って行くと、ある事に気付いたのだ。
【妖精さんたちが舞い踊る闇夜に輝くダークチェリーパイ】
【ニンフさんのわくわくドキドキ甘酸っぱい恋の味ブーケデコレーション】
なんか、ネーミングセンスがすごすぎる。
・・・これ、頼みにくいわよね?
そんな事を思っていたら、目の前にサーモンピンク色のカーテンが現れたのだ。
何、かしら・・・?
視線を上げると、サーモンピンクのワンピースに、白いふりふりエプロン。
頭にはリボンのカチューシャをしたゴツイ男の人がいた。
!!!?
驚きすぎて、目が点になる。
「いらっしゃい!何が良いか迷っちゃったのかしら?どれも、とっても美味しいのよ!
店主のあたしが言うのだから、間違いないわ!
・・・あら、やだ。
ビックリさせちゃった?
それにしてもあなた達、美男美女のカップルさんねー!
とっておきの席を用意してあげるわね!」
弾丸トークで返事をする隙も無い。
まさかとは思うが、先日のメルの間は、これだったのかと思い返したのだった。
・・・確かに、変な店ではない。
だが、変な人が出て来てしまった・・・。
私は気を取り直して、ショーケースを見る。
「あの、ではこの赤いハートのケーキをお願いします」
そう頼むと・・・。
「【真っ赤な炎は愛の予感?サラマンダーさんが愛を込めたハートムース】ね!
良いチョイスよ!」
・・・恥ずかし過ぎる!
私はデカい声で話す店員さんへ『あの。おじさん』と話し掛けた瞬間に、言葉を遮られたのだ。
「ストーップ(野太い声)!!
・・・あら、失礼。
はしたなかったわね?ごめんなさい?
私の事は、ミカさんって、呼んでちょうだい」
「あ、はい」
「其方の美男さんは決まったかしら?」
ウィルフォードは衝撃が強すぎたのか、目が半目となっている。
そして、一言『・・・・。コーヒーで』と告げたのだ。
すると、ミカさんの様子がおかしい・・・。
何故か、絶望した顔をしているのだ。
「なんて事なの・・・。
コーヒーですって?
それはケーキでは、なくってよ?」
そして、半目のウィルフォードをジッと見ている・・・。
「・・・分かったわ。
私の負けよ。だから、オマケしちゃう!
本当に、乙女心を揺さぶるのが上手ね!
どれが良いかしら?
シャイな貴方には、コレなんてどう?」
ウィルフォードは面倒くさくなったのか、コクリと頷いたのであった。
「分かったわ!
【ノームさんが掘り出したキャラメルチップを添えてショコラーヌ】ね!
美女さん、飲み物は何が良いかしら?」
「あの、ミカさん?美女さんはちょっと・・・」
「あら、そう?ではお名前は?」
「・・・フェアリエルです」
偽名を使うのも、どうだろうと考えていたら、本名が口から出てしまっていたのだ。
「えっ・・・?
・・・フェアリーちゃん!?
貴女、妖精と同じ名前なんて素敵じゃない!」
エルが聞こえなかったのかしら?
・・・何故だろう。
妖精と呼ばれる運命なのだろうか・・・。
否定する気力も無くなったので、そのまま、話しを合わせる事にしたのだった。
「では改めまして、フェアリーちゃんは何が良いのかしら?」
「紅茶でお願いします」
「分かったわ!では、すぐに準備するので、席にご案内するわね!」
そうしてやっと、ミカさんが案内をしてくれる。
とっておきの席とは、一番奥のカップルシートだったのだ。
背もたれがハートの二人掛けソファが置いてある。
「では、ごゆっくり」
私とウィルフォードはソファに腰を下ろした。
なんだろう・・・。
すごく強烈過ぎて、ウィルフォードがすぐ隣にいるのにも関わらず、ドキドキする余裕すらない。
「お待たせしました!
あらやだ。どーしたの?
疲れた顔しちゃって。
やっぱり、疲れた時には甘い物よね!ケーキを食べたら元気いっぱいよ!」
そう言い、ケーキを置いてミカさんは去って行ったのであった。
私達は無言でケーキを一口食べた。
・・・あ!美味しい。
すると、ウィルフォードが『美味いな』と、一言呟いたのだ。
「ええ。とても美味しいわ」
そして思わず、顔を見合わせて笑ってしまった。
その後は自然と会話が弾み、気が付いたら結構な時間を滞在してしまったのである。
すごい衝撃を受けたけれど、ケーキは美味しかったし、なんだかんだで居心地が良かったので、また来ようと思うフェアリエルであった。




