37
「お兄様が帰って来たの?」
寝支度を終えた私は、サーシャから報告を受けたのだ。
「はい。たった今、お戻りになられました。アルマさんもご一緒です」
「そうなのね。これから話すような事は言ってた?」
「いいえ。もう遅いので明日になるそうです。
ですので、お嬢様も、お休みになられて大丈夫ですよ」
「分かったわ。報告ありがとう」
アルマが戻ったと言う事は、お祖父様は、そう言う事だったのだろう。
アルマは大丈夫かしら・・・。
心配になるが、兄が付き添っているのだから、きっと、大丈夫だろう。
それに、今日見つかった日記もだけど、相手が寺院だと、どうすれば良いのかしら・・・。
この国で生きて行くのならば、人として認めてもらわなくてはならない。
アルマには、自分を卑下する事なく自由に生きて欲しい。
もし、ティアラシアを探すのなら、一度、母の出身国へ行くのもありよね。
そんな事を考えながら、眠りについたのであった。
【次の日】
すでに朝食を終えて談話室へと向かっている。
兄は昨日遅かった為、自室で朝食を取った様だ。
そして談話室へ着くと、アルマがいたのだ。
けれど、服装が使用人の物を着ている。
「おはようアルマ。その服はどうしたの?」
「おはようございます。フェアリエルお嬢様。
ボク・・・。
私はアディエル様の従者兼護衛となるべく修行中なのです。どうぞ改めまして、よろしくお願いします」
そう畏って言うアルマに『そう、なの?少しビックリしちゃって。こちらこそよろしくね』と答えたのだった。
そうして、話しをしていたら、両親と兄がやって来たのである。
兄は両親に話している様で、アルマの姿を見ても何の反応もない。
そしてみんなが席につき、父が口を開いた。
「では、時間もないので早速話そう。
改めて、アディ、アルマお帰り。
アディから聞いたが、アルマ、お祖父様の件は、残念だった」
「・・・いいえ。私が無知だったのです」
「・・・そうか。
アディの従者になりたいと聞いたが?」
「はい、私はアディエル様に救われました。一生涯お仕えしたいと考えています」
何の迷いもなく言い放つアルマを見て、父が真摯に向き合い、話し始めたのである。
「アルマ、君はまだ若い。その内、考えが変わる事もある。だからそう決め急ぐな。
だが、従者になりたいと言う気持ちは尊重するよ。もし他に、君がやりたい事を見つけたら、変えても良いんだ」
父がそう伝えると、アルマは頷き『ありがとうございます』と述べたが、その瞳には従者になる事への迷いは、全く感じられなかったのであった。
「それと、獣人達の楽園へは帰りたいか?」
「いいえ。今は考えられません。
それよりも、一人前の従者になりたいです」
アルマの気持ちを尊重すると言っていた父だ。
そう言われて、頷き、再度口を開く。
「アルマの考えは分かった。
だが、この国で生きる事は、決して生易しいものではない。
君を知らない人達から、偏見の目で見られる事もあるだろう。
その覚悟は、あるか?」
父はアルマを真剣な目で見つめている。
従者となれば、人目を避ける事は出来ない。
ジッと、アルマの答えを待っていた。
すると『はい。承知の上です』と意思の強い目で応えたのであった。
「そうか。
私達も、君が生き易いように、最大限の努力をしよう。何かあれば必ず報告しなさい」
「はい。ありがとうございます」
そう言って、アルマはサミュエルに連れられ、退出して行ったのだった。
私達、家族だけとなった談話室で、父が兄に伝えたのだ。
「アディ。昨日エルと殿下が、獣人の事が書いてある書物を見つけたんだ」
「本当ですか!?」
「ああ。200年以上前、この国は獣人を認めなかった。
さて、今回はどうなるかな?」
父は顎に手を当てながら、思案顔をしている。
そんな父を見た兄が問いかけた。
「父様が掛け合ってくれるのですか?」
「そうしたいところだが、資料が陛下の手元にある。今日は領主としての仕事がある為、王宮へは行けないが、明日は登城するので、陛下へ伺ってみるよ」
「はい。よろしくお願いします。
彼には、幸せになってもらいたい」
兄の切実な思いが伝わってくる。
「そうだな。どう見ても善良な少年だ。
私も、心からそう思うよ。
後は、私に任せなさい」
その後、両親は仕事の為、退出して行ったのだった。
私が兄を、ジッと見ていると『エル?学園は大丈夫かい?』と聞かれたので、思った事を伝えたのだ。
「大丈夫よ。それより、お兄様は、なんだか寂しそうね?」
思っても見ない事を聞かれたかの様な反応で『うん?そうかい?』と、笑顔で返して来る兄。
だから私は、少し掘り下げて『ええ。何かあったの?』と、問いかけたのだ。
「うーん、そうだね。
アルマとの旅が、思いのほか、楽しかったんだよ。弟の様に思ってしまったんだ。
だから、変わるアルマを嬉しくもあり、また寂しくも思ってしまった。
・・・それにしても、よく気が付いたね?」
それはそうよ。だって、たった2人の兄妹だもの。
だから、私は、兄を励ます事にしたのだ。
「お兄様のアルマを見る視線がね、寂しそうだったの。
それに、アルマの態度が変わっても、アルマは、アルマだわ。だから大丈夫よ」
すると、兄は、笑みが溢れた様に返してくれたのだ。
「ははっ。そうだね。ありがとうエル。君が妹で、本当に良かったよ」
「私もよ。お兄様がお兄様で嬉しいわ。
今日はゆっくり休んでね。
では、学園へ行って参ります」
「ああ。そうするよ。気を付けて行っておいで」
笑顔で送り出してくれた兄に、私は手を振り、学園へと向かったのであった。




