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「お嬢様、お目覚めになられたのですね。お加減はいかがですか?」
無表情で淡々と話してくる彼女は、専属侍女のサーシャだ。
あまり口数は多くはないが、仕事ぶりはまさに、かゆいところに手が届くような感じで私はとても気に入っている。
私は身体をお越し『もう大丈夫よ』とサーシャに伝えた。
「ご無事で何よりです。
お医者様からは、脳震盪との事でした。
念のため、また明日いらっしゃるそうです」
「分かったわ・・・」
転んだ事がお母さまにバレたら大変だから、お医者様には口止めしなきゃいけない。
「そろそろ、旦那様と奥様がお戻りになるかと思いますので、安静にしていてください。レモン水をお持ちしましたが、他に何か御入用な物はございますか?」
私はにっこりと微笑みながら『ありがとう。特に無いわ』と伝えたのだった。
サーシャがサイドテーブルに飲み物を置いてから、再度、口を開く。
「目覚めて、すぐで申し訳ないのですが、先ほど、王宮の使いの者から、ウィルフォード殿下のお手紙をお預かりしております。こちらもサイドテーブルに置いておきますので、後ほどご確認ください。それでは失礼致します」
サーシャは胸に手を当てながら頭を下げて挨拶をし、退出して行ったのだ。
そうして、私は冷たいレモン水を飲みながら、手紙を手に取る。
思わず、『ふぅっ』とため息が出てしまった。
そう、先ほど思い出した婚約者だ。
彼はウィルフォード・ネイトピア。
この国の第三王子である。
話に聞くと、国王からの強い打診で、お互いが3歳の時に婚約を結んだそうだ。
そして、私が前世を思い出すきっかけとなったお茶会の相手。
何故ため息が出たかと言うと、前世を思い出して気付いてしまったのだ。
彼が私の事を良く思っていない事に。
さぁここで、いつものお茶会の様子を説明させてほしい。
笑顔で話しかける私に、しかめ面のウィルフォード様。
返事はしてくれるが、話題はいつも私からだ。
前世を思い出した私には、とても耐え難い状況だった。
これだけの、そぶりをされて気が付かないなんて、今までの私は、ある意味只者ではないのかもしれない。
けど。
・・・そう言えば、3年前に一度だけプレゼントを貰ったことがあった。
『あげる、あけてみて』ってぶっきら棒に言われたけど、そんなの気にしない私は、ワクワクしながらプレゼントを開けたのだ。
そうして、出てきたのはフレームが赤いメガネだった。
?
なんでメガネ?私、目が悪くないのに。
・・・でもウィルフォード様がくれたのだから、特別なメガネなんだわ。
そう思い、私は置いてあるメガネをジーっと見ていたのだ。
それから、暫くすると、目の前のウィルフォード様が指を握りしめて伏し目がちにソワソワとしているではないか。
これはきっと、メガネの効果を聞きたいのね!
そう思った私は早速、手に取り掛けてみたのだった。
すると・・・。
あれ?掛けても何ともないよ。
・・・壊れてるのかな?
でも、あげたものが壊れてるなんて知ったら、ウィルフォード様が傷ついちゃう。
だから私は笑顔で告げたのだった。
「ウィルフォードさま、ありがとうございます。たいせつにします」と。
一応、自宅へ帰り、調べてみると何の変哲もない伊達メガネだったのだ。
メガネを掛けた私を見てウィルフォード様はなんだか残念そうな顔をしていたけれど、今思えば、あのメガネは何だったのか。
謎は謎のまま、現在進行中である。




