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次の休みの日
試作品を作る前に、妃教育を受けるのだ。
いつもは緊張しながら王妃様の元へと向かうのだが、今日は違う。
先日、キスをされてからと言うもの、その事ばかりを考えてしまうのだ。
ウィルフォードは、私の事が好きだと言っていたが、本当なのかと疑いたくなる自分と、もし本当ならばどうすれば良いのか、と悩む事に疲れ果てていた。
今日もそんな事ばかりを考えていたら、あっという間に王妃様の部屋へ着いてしまったのである。
「王妃様、失礼致します。フェアリエルにございます」
「どうぞ、入ってらして」
そして今日も丁寧に教えてくれる。
恙無く終わり、ウィルフォードの所へ行こうとしたら、引き止められたのだ。
「ウィルフォードから、何か言われていない?」
いつもよりも眉をハの字にして、神妙な面持ちで聞いて来る王妃様に、私は好きって言われた事だとすぐに気付いた。
「・・・はい」
言い辛くて気まずい雰囲気が出てしまう。
そうしたら、王妃様が絶望した顔になり、いきなり私の手を取ったのだ。
「フェアリエルさん、何か困った事があったら相談しに来なさい。必ず力になりますからね!」
王妃様は切羽詰まった表情で伝えてくれるのだが『貴女の息子に好きだと言われて困っています』とは流石に言えない。
だから、無難に返す事にした。
「はい。ありがとうございます」
私は、親子で色々と話すぐらい、仲良しなんだな。と思い、時間となった為、再びウィルフォードの所へと向かったのだ。
【王妃視点】
ウィルフォードがフェアリエルさんに婚約解消の話をした様だ。
気まずそうにしていたわ。
・・・なんて言う不甲斐のなさ。
解消になるのなら、契約は無効だわ。
ウィルフォードへは後程、問い詰めましょう。
そう息巻く王妃であった。
【視点は戻り、その頃のフェアリエルは・・・】
私はウィルフォードの侍従に客間へと案内されていた。
どんな顔をして会えばいいのか分からない。
ウィルフォードに会うだけなのに、妙に緊張する。
と、その時。
「フェアリエル。待たせてすまない。妃教育はどうだった?」
・・・あれ?至って普通ね。
意識をし過ぎていたのかもしれないわ。
「今日も、とても丁寧に教えてくださったわ。ウィルも忙しいのに付き合ってくれてありがとう」
「俺は君に会いたいからな。今日も会えて嬉しいよ」
そう言って、愛情たっぷりの笑顔を送ってくれたのだ。
・・・意識のし過ぎじゃなかった、愛情表現がすごい。
すっかり為て遣られたわ。
私の意識の違いでそう思うのか、口調も態度もいつもより柔らかい様に感じる。
どぎまぎしている私に『早速始めようか』と言ってウィルフォードは私の隣に座ったのだ。
・・・えっ・・・隣?
近くない?
私はマジッククレーを手に取りコネコネする。
すぐ隣にウィルフォードがいる為、なかなか集中できない。
「・・・あの、ウィル?ちょっと近くない?」
「そう?この方が手伝いやすいからね」
時間を作って来てくれているのだ、ウィルフォードのしやすい方が良いだろうと思い、納得したのだった。
「そう、なのね。
・・・ごめんなさい。集中するわ」
一つ一つの工程を思い浮かべて落とし込んで行く。
火と水を組み合わせて水蒸気を作り出すのだが、今まで一つの元素しか作った事がないので、なかなか上手く行かない。
『ふぅっ』と、思わずため息が出てしまった。
「何か分からない事があったのか?」
「ええ。二つの元素が結びつかなくて。言葉では分かっていたけど、ちゃんと理解していなかったんだわ」
「そうか。
・・・少し触れるよ」
そう言って、私のマジッククレーを持つ手の上から自分の手を重ねて来たのだ。
そして肩は完全に触れ合っている。
!!?
思わず、ビックリして固まってしまった。
それなのに、ウィルフォードは何事もないように話を続ける。
「今、頭の中で浮かぶ回路が共有されているのが分かるか?
俺がこれから繋いでいくので良く見ていてほしい」
そう言って、どんどんと落とし込んで行く。
すっ、すごいわ!
私が理解していたのって、上辺だけだったのね。と再認識した。
そうしてあっという間に作り上げていく。
「ここまで来ればどうだろう。後は出来そうか?」
「ええ、ありがとう。やってみるわ」
最後の仕上げは何とか自分で作る事ができたのだ。
すぐに形に出来ると考えていた、自分の甘さが嫌になる。
あんなに大見得を切ったのに、ウィルフォードがいなければ大半は実現できない。
「私、何も理解していなかったわ。貴方がいなければ、このマジッククレーも作る事が出来なかった。本当にありがとう。自分の詰めの甘さを実感したわ」
「まぁ、確かに理解はまだ足りていないが、君の出したアイディアはとても素晴らしい物だ。
作る事は、知識と経験を積めば出来る様になるが、アイディアはそうはいかない。
君は、もっと自分を褒めてあげてもいいのではないか?」
「ありがとう。
・・・私、もっと頑張るわ」
前世の知識を使っているので、素直に喜べないが、頑張る事は私にも出来る。
もっともっと、精進しなくては。
【その日の夜】
ウィルフォードは母に呼び出された為、母の部屋へと来ていた。
部屋へ入ると不機嫌な顔を隠そうともせず、いきなり捲し立てて来たのだ。
「ウィルフォード。あなた、フェアリエルさんに解消する事、伝えたんですって?
今日、聞いたわ。
・・・とても、気まずそうにしていたわよ。
いいこと?私は、この先、フェアリエルさんに何かあったら必ず力になりますからね。
本当に嘆かわしい」
悲壮感たっぷりでハンカチを目に当て、泣いているパフォーマンスをしてくる。
・・・そう言えば、解消するって話しをしたな。と思い出し、問い掛けたのだ。
「母上、何の話ですか?」
「だから、婚約解消の話よ!伝えたのでしょう?」
ものすごい勢いで怒りをぶつけて来た。
顔を見ると、やはり涙は出ていない。
「いいえ、解消するとは話していませんし、するつもりもありませんよ」
「・・・どう言う事?
フェアリエルさんに聞いたら、すごく言い辛そうだったわ。
あなた、何を言ったの?」
「これからの事を少々。
因みに、なんて聞いたのですか?」
「何か言われていないか。と聞いたのよ。
それより、解消はしないの?」
「はい。解消するのを止めました」
「なんて事。私、てっきり解消の話をしてしまったのかと思っていたわ。
早速、マクシエル様にも、お伝えしないと」
そう言って喜び勤しんで、部屋を出る支度をしている。
俺は部屋へ戻るか、と歩き始めたら母が再度、口を開いたのだ。
「ウィルフォード、いいこと?何事も全力で取り組みなさい。やり残した事があっては、まともに後悔すらも出来ないのよ」
「はい、母上。肝に銘じます」
母からの有り難い教訓を教えてもらい、俺は退出したのであった。
その後、両陛下の心に安寧が齎されたのは言うまでもない。




