加護なしのダンジョン攻略
1974年、それは突然出現した。
都内某所、塾帰りの少年少女4人が河川敷を歩いていたところ、突然眩しい光が周囲一帯を真っ白に染め上げ、気づけば見た事もない広い空間にいたという。
何が起こったのか理解できなかった少年少女たちであったが、自然と今いる場所から引き返せば元の河川敷に戻れると直感で理解した。
理由は説明できないが、そういうものだとわかったのだ。
そして彼らは引き返すことなく奥へと進む。
恐怖心より好奇心が勝ったのだ。
この先に進めば獰猛で危険な未知の生物が待ち構えている、これより先は命の保証はないと、そう直感で理解していた。
それと同時に、自分たちに何か特別な未知なる力が何者かによって与えられ、扱えるようになった事も認識できた。
ならば、この摩訶不思議な体験を中断する理由はない。
小年少女4人はそのままこの未知なる空間を探検し、そして世界最初のダンジョン冒険者となった。
そう、ダンジョンである。
この日、地球にダンジョンが生まれたのだ。
そして、これは東京だけの話ではなかった。
世界中に似たような現象が同時に発生していたのだ。
そして時は流れ2030年……
「はい、どーも!!奇怪生物大好き、モンスター観察の鬼とっちゃんでーっす!!というわけで今わたくしがいるのはなんとですね!第7階層です!!うぉー!すげーぞ!!まじで天井高けー!!床急につるつるになったんだけど!?ちょっと待って、マジ大興奮なんだけど!!ヤバくね?というわけで、今回はここにどんなモンスターが生息して、普段どんな活動をしているのかじっくりと探して観察していきたいと思います!!」
ジーパンにTシャツ、ジャイアンツの野球帽を反対に被り、サングラスをかけた実に軽装なチャラい男がスマホを取り付けた自撮り棒片手にやたらテンション高く騒いでいた。
一体彼は何をしているのか?説明するまでもなく動画の撮影だ。しかもライブ生配信中ときている。
命知らずにもほどがある軽率な行為だが、最近では珍しくもない。
むしろ、ダンジョン内での動画撮影を行っていないほうがレアであろう。
自らの活躍を配信する事によって、自らの成果をアピールし、スポンサーとなってくれる企業を探す。
スポンサーが複数つかない限り、今時ダンジョン探索なんて金のかかる仕事、誰も本職であろうとボランティアであろうと、趣味であろうとしようとはしないだろう。
とはいえ、ダンジョン内で動画撮影している連中すべてがダンジョン全階層を踏破し攻略を目指す冒険者というわけではない。
その多くはダンジョン攻略に興味はなく、動画配信の視聴数による収入を目的とした配信者だ。
現に彼も、その軽装な恰好からわかる通り冒険者ではなく配信者である。
彼ら配信者はダンジョンに潜り、冒険者のようにダンジョン攻略を目指して突き進むのではなく、常に安全を確保しながら物陰から冒険者の戦闘を隠し撮りしたり、冒険者が放棄したドロップアイテムなどを拾ってレビューしたり、ダンジョン内の生態系を紹介したりする動画を配信している。
そんな彼らは絶対の安全が確保された状況でしか動画撮影をしない。
ゆえに、配信者が単独でダンジョンに潜って撮影を行うのはよくて2層までだ。それより深くとなるとそれなりに腕のある冒険者に護衛を頼んでこっそり攻略組をつけるとかでない限り、配信者が生きてダンジョンを出られる確率は低い。
そう、命の保証はないのだ。
にも関わらず、配信者の彼は護衛などつけずに7層目まで潜っている。
呆れて言葉もでない愚行だ。
とはいえ彼は本当に危険なモンスターや冒険者たちの戦闘に遭遇しない限り何とかなるだろうと甘い考えを抱いており、当然ながらそんな甘い幻想はすぐに打ち砕かれる事になる。
そう、今まさに。
「えーっと、この第7層なんですけど、まず特徴はですね……」
軽装の配信者が周囲を撮影しながら歩き出したところで、突如目の前の天井が崩落した。
「おわ!?な、なんだ!?」
突然の事に驚く配信者は崩落した事によって生じた砂埃で目の前の視界が塞がれた事に焦り、慌てて後ろを振り返るが、しかし砂埃はすでにこのあたり一帯を覆い尽くしており、すでに視界はゼロの状態であった。
「ま、マジかよ……何も見えねーじゃん」
軽装の配信者はゆっくりとその場から後ずさった時だった。目の前に大きな影がうっすらと浮かび上がる。
その影は明らかに人とは違った異形であり、それを見た軽装の配信者は思わず叫びそうになった時だった。
背後から轟音が鳴り響き、それとともに空間全体が激しく振動して衝撃波のようなものが背後から押し寄せてくる。
「おわ!?こ、今度はな、なんだ!?」
背後から襲ってきた衝撃波に飛ばされ一回転して壁に激突した軽装の配信者は、それでも手放さなかったスマホが取り付けられた自撮り棒を衝撃波が襲ってきた方へと向ける。
すると、砂埃は消え、5人の男女がこちらに向かってゆっくりと歩いてきていた。
軽装の配信者は目を凝らしてその5人の顔を確認し、思わず叫んだ。
「……は!?ま、まさかSランク冒険者クラン<不動の獅子>の連中か!?うそだろ!?なんでダンジョン攻略トップランカーのクランが第7階層にいるんだよ!?」
そんな配信者を無視して現れた5人の冒険者は目の前にいる獲物を見据える。
すでに砂埃はさきほどの衝撃波で吹き飛んでおり、大きな異形の影はその姿を露わにしていた。
それを見て5人のうちの一人が口元を歪ませた。
「おいおい、マジでこの前倒し損ねたバジリスクじゃねーか!ざわざわ殺されに来るとはありがてー、探す手間が省けたってもんだ」
そんな彼の言葉に別の一人が疑問を呈する。
「まるでリベンジマッチのように言っていますが、本当に同じ個体ですか?確かに上層に逃げられましたが、これがあの個体とは限らないでしょ」
「は?何言ってやがる、わかるに決まってるだろ!ほれ見て見ろ!俺がつけた傷がやつの頬にしっかり残ってるじゃねーか!あれが何よりの証拠だ」
「あぁ、確かに」
「それにバジリスクは普通この階層にいねーだろ、ビンゴだよビンゴ!」
そう言って彼は背負っていた大剣を手に取って構えると。
「さーて、それじゃ前回殺し損ねたフラストレーションぶつけさせてもらうぜ!!今度こそ死ねや!!」
叫んで単身突っ込んで行く。
「ちょっと!?何勝手にはじめてるのよ!!」
それを見て慌てたように女性が叫び、舌打ちしながら補助魔法を全員にかけた。
そうしてSランク冒険者クラン<不動の獅子>とバジリスクとの戦闘がはじまり、その激しい戦闘の余波に配信者は巻き込まれ、彼のスマホは木っ端みじんに砕け散り、そこで彼の生配信は終わった。
「はぁ……本当にこのまま、あのクランに所属していて大丈夫なのかな?」
ダンジョンの入り口たる管理ゲート、そのすぐ横に併設してあるダンジョン管理事務所を出てきたひとりの少女がため息交じりに肩を落としながらそう言った。
見た目も格好も女子高生そのものといったその少女はSランク冒険者クランである<不動の獅子>の一員である道明寺彩花だ。
彼女は今回のクランの活動報告書を事務所に提出し、その後に待っていたクランメンバー全員での今回の反省会も終えて今まさに帰宅するところであった。
とはいえ、まだまだ消化不良なのは否めない。
何せクランメンバーのひとりの不注意によって余計な仕事をするはめになってしまい、今日はダンジョン攻略を行えていないのだ。
現在<不動の獅子>は38階層を攻略中だが、今日はその38階層に足を踏み入れてさえいない。
その間に他のクランに先越されたらどうするつもりなのか?
頭が痛くなりそうだった。
(そもそもあいつら大雑把すぎるのよ!自分の力を過信しすぎじゃない?ほんと見てて苛々してくる!)
クランメンバーの事を考えていると段々腹が立ってきた彩花だったが、そんな時彼女は一人の少年とすれ違った。
その少年は学生服に身を包んだ高校生で学ランの前を開けてその下にフードつきのパーカーを着こんでいて、ウエストポーチを腰につけている以外は手ぶらであった。
そんな彼は彩花とすれ違うとそのまま彩花が今歩いてきた方向、そうダンジョンの入り口たる管理ゲートへと歩いていく。
思わず彩花は振り返って少年に声をかけた。
「ちょっとあなた!もしかして今からダンジョンに向かうつもり?」
声をかけられた少年はダルそうに振り返ると。
「そうだけど、それが何か?」
めんどくさそうに答えた。
そんな彼を見て、彩花は余計なお節介だと自分でもわかっていながらも尋ねる。
「もしかしてひとりで?」
「だからそれが何か?」
「いや、無謀でしょ!だってあなた加護なしでしょ?」
その言葉に少年は忌々しそうに舌打ちする。
「っち!これだから冒険者は……あーはい、そうですけど、それが何か?別段加護なしでもダンジョンに潜ってる連中山ほどいますけど何か?」
「危険よ!!配信の広告収入が目当てなにかもしれないけど、命に代えられるような稼ぎにはならないでしょ?思い直して!!」
彩花は今回巻き込んでしまった配信者の事を思い出してそう訴えた。
1974年にダンジョンが世界各地に出現して以降、人々の中にはダンジョンの中だけで使える特別な力に目覚める者が現れだした。
その特別な力はダンジョンを攻略する上でなくてはならない力であり、逆に言えばその特別な力に目覚めなければ、ダンジョンに潜ったとて階層を突破する事は難しいのだ。
特に10階層より下の階層ともなれば、特別な力なしでは生き残れないとも言われている。
そして誰が言ったが、その特別な力はいつしかダンジョンから授けられし加護と呼ばれ、ダンジョンに挑むことを認められた選ばれし者が加護を持つという空気が形成されていく。
そして、加護なき者にダンジョンの深淵に挑む資格なしというのが世間の常識となっていった。
「あーはいはい、そうですね?確かに俺は加護なしだ。そりゃ危険かもな?でもそれは加護があろうと同じだろ?冒険者が命を落とすなんて珍しい事じゃねー。加護があろうがなかろうがダンジョンは平等に入ってきた人間を殺す!だったら、あとは自己責任だろ?ほっとけ」
少年のその言葉に彩花はカチンときた。
なので感情が理性を上回ってヒートアップしてしまう。
「ほっとけるわけないでしょ!」
「なんでだよ?」
「なんでも!」
「だったらどうするつもりだ?力づくで止めるのか?ここで?ダンジョンでもないのに?どんな加護を持ってるか知らないが、ダンジョンの外じゃそんなの意味ないぞ」
そう言って少年は何かしらの格闘術であろう構えを取る。
加護なしがダンジョンに潜る以上は最低限の護身術は身につけているはずだ。
つまりはそれなりに戦えるというわけである。
一方で少年が指摘した通り、加護はダンジョンの中でしか発揮できない。
つまりはこの場においては、彩花のSランク冒険者クランである<不動の獅子>の一員という肩書きはあまり意味を成さないだろう。
何せ彩花は護身術の心得はなく、本当にダンジョンの外においては非力なのだから。
だからこそ彩花は両手を挙げて交戦の意思がない事を示し。
「別に止めたりしないよ。そしてここで争うつもりもない。あなたの言う通り、私ここじゃ確かに負けるだろうしね」
そう言って一息ついてから。
「だから私もついていく。それなら問題ないでしょ?」
そう宣言した。
これには少年も目を丸くする。
「は?おま、何言って……」
「どこまで潜るつもりかは知らないけど、冒険者が一緒にいるなら危険はそれなりに減るしね?それなら問題ないでしょ」
「バカか大ありだ!!何人の邪魔しようとしてるんだよ!」
「私が一緒に潜って何か問題でもあるの?やましい事でもしようとしてたわけ?」
「……」
「どうなの?」
「……」
「返答がないって事はそうなのね?」
「……ノーコメントだ」
少年はそう言うと大きくため息をつき。
「勝手にしろ」
そう言ってダンジョンの入り口ゲートに向かって歩き出した。
そんな彼の背中を見て、彩花も彼の後に続いて歩き出す。
「じゃあそうさせてもらう。ところであなた名前は?あ、私は道明寺彩花。よろしくね」
歩きながらそう名乗った彩花のほうを振り返らず少年は。
「知ってるよ、あんた<不動の獅子>の一員だろ?動画で見た事ある」
そう興味なさそうに言ってから。
「紀田陸斗」
振り返る事無く名乗った。
そんな少年を見て彩花はニヤニヤしながら早歩きで彼の隣まで来ると。
「ふーん、りくと君ね?よろしく。というか私の事知ってたんだ」
そう言ってからかうような表情で顔を覗き込む、その事に陸斗は大きくため息をついた。
「知ってるも何も、有名人だろあんた。自覚ないのか?というか、有名人が護衛もつけずに一人で帰宅とか危機意識なさすぎだろ」
「へー、心配してくれるんだ?」
「別に?常識を言ったまでだが?」
「まぁ、そういう事にしておくよ」
「こいつ……」
「というかちゃんと名前で呼んでほしいんだけど?さすがに知り合ったばかりで彼氏でもないのに下の名前では呼んでほしくないけどね」
「なら俺の事も下の名で呼ぶな」
「やだよーん」
「こいつ……」
そんな会話をしているうちにダンジョンの入り口ゲートへとたどり着いた。
第1階層。加護なしであっても問題はない、もっとも安全な階層であるが、かといって危険が潜んでいないわけではない。
ごく稀にレアなモンスターも出現するし、何より初心者の冒険者に目をつけて、彼らから装備品やドロップアイテム、所持金を巻き上げるガラの悪い冒険者や半グレ反社の加護なしグループもいる。
だからこそ、加護なし1人で潜るなど言語道断なのだが、しかし慣れてしまった加護なしの配信者などは単独でよく潜る。
そして帰らぬ人となる……
彩花は陸斗もそうならないようにしないと!と意気込むが、しかしここで予想外の事が起こった。
陸斗が彩花がまったく知らない隠し通路を突き進みだしたのだ。
その未知の通路に彩花は思わず困惑してしまう。
(え?何ここ、こんな通路知らないんだけど?というか第1層にこんな場所あったっけ?はい?)
Sランク冒険者クランである<不動の獅子>の一員であるにも関わらず、彩花はキョロキョロしながら先を歩く陸斗の後に続いていた。
そんな様子を他の者が見れば、どっちが冒険者かわからなくなるだろう。
しかし、これは仕方がない事なのだ。
Sランク冒険者クランである<不動の獅子>はいうなればダンジョン攻略の最前線で活躍する集団だ。
そんな攻略組は日々ダンジョンの最下層を目指す事に集中しており、討伐中のモンスターに上の階層に逃げられたというさきほどの例外でもない限り、基本的に新たな次の階層へとどんどん突き進んでいく。
つまりは攻略した階層を再び探索するという行為をしないのだ。
だからまだ踏破していないエリアがその階層に残っていても、次の階層に進めるようになったら無視して次へと進んでしまう。
そうして、まったく足を踏み入れたことがないエリアが各階層に多く存在する事になるのである。
(とはいえ、所詮は第1階層。未知の脅威となりえるようなモンスターが潜んでいる事はまずないでしょ……だって第1階層なんだし)
彩花は困惑しながらもそう思って動揺を抑える事にした。
しかし、そんな淡い幻想はすぐに打ち砕かれる。
そう、そんなフラグが立つような事を考えていると、物事はすぐにそのフラグを回収しにくるのだ。
なので……
「いや、ありえないでしょ……」
思わずそんな声を彩花は発していた。
未知の通路を進んだ先、広い空洞の空間に出たと思ったら、その空間の真ん中にとんでもないモンスターがいたのだ。
本来、第1階層にいてはいけないはずのモンスターが。
「なんでニーズヘッグがここにいるのよ!!27階層にいるはずでしょうが!!」
思わず叫んだ彩花の大声に反応するようにニーズヘッグがその口を大きく開いて咆哮した。
そんなニーズヘッグを前にして陸斗はニヤリと笑うと。
「さて、今日こそその硬質な皮、絶対に剥いでやるぜ!!」
そう言って腰のウエストポーチに手をかけ、その中から日本刀を引き抜いた。
その事に彩花が驚きの声を上げる。
「りくと君!それってまさかマジックポーチ!?」
「だったら何だ!?ただの拾いもんだ!!」
「でしょうね!協会が加護なしに販売するわけないし!けど日本刀なんて協会は売ってないはずだけど」
「これも拾いもんで非売品だ!協会の売店じゃまずお目にかかれねーよ!!」
陸斗はそう叫ぶと鞘から日本刀を引き抜き構える。
それを見てニーズヘッグが陸斗を交戦すべき相手と定め突撃の姿勢を取る。
そして次の瞬間、ものすごいスピードで突撃してきた。
これを陸斗は真横に飛んで回避、そして起き上がる動作と同時に日本刀で振るって横を通り過ぎたニーズヘッグの脇腹を斬った。
だが、あまりに皮が硬いため日本刀では傷つけられない。
それを見て陸斗は舌打ちし。
「っち!やっぱこれじゃダメだな」
そこら辺に捨てた鞘を探して広い、素早く日本刀を鞘に納めてマジックポーチにしまう。
そして次に着ていた学ランとパーカーを素早く脱ぎ捨てTシュツ姿となる。
だが、ただのTシャツ姿ではない。胸の横あたりに拳銃が収められているホルスターがついたサスペンダーのTシャツ姿なのだ。
陸斗は素早くホルスターから拳銃を引き抜き、両手で構えると、こちらに切り返し、再び突進してきたニーズヘッグに向かって銃撃を開始する。
そんな陸斗を見て彩花が驚きの声を上げる。
「いや、りくと君!あなた何ちゅうもん持ってるの!?」
これに対し、陸斗は冷静に銃撃を続けながら。
「ただのチャカだが何か?」
何度もないという具合に言ってから、銃撃を止めて真横へと飛んで突進してきたニーズヘッグを回避し、起き上がると同時に拳銃をスライドさせ、再び銃撃を開始する。
そんな陸斗に彩花がツッコんだ。
「いやおかしいだろ!!さっきの日本刀といい普通に銃刀法違反なんだけど!?」
そんな彩花に陸斗は呆れながら。
「そんな事より、いい加減冒険者なら何かしら加護のひとつやふたつ見せてほしいところなんだけど?」
そう口にすると彩花は少しむっとした表情となり。
「何よ、結局加護に頼る気じゃない!けど、あいつ本当にニーズヘッグ?なんか違和感があるんだけど、もしかして特殊個体の亜種かな?」
そう言いながらも彩花は加護によって得た水の魔法を放つ。
「これでどう!?」
強力な水圧のレーザーが彩花はかざした手のひらの先から放たれ、それを浴びたニーズヘッグが一瞬たじろぐ。
「さすがSランク冒険者のエリートさま!」
それを見て陸斗が好機だと言わんばかりにホルスターに拳銃をすばやくしまい、反対側のサスペンダーのホルスターにしまっていたサバイバルナイフを引き抜いて、ニーズヘッグに向かって一気に駆ける。
そして、その目玉をサバイバルナイフで斬りつけた。
ニーズヘッグはたまらず悲鳴をあげて全身をばたつかせる。
そんなニーズヘッグの真横を通り抜けて陸斗は壁際を目指す。
巨大な空洞となっているこの空間だが、しかし形はまるで四角い箱のようになっている。
そんな空間の箱へと勢いよく走っていき、そして陸斗は力強く地面を蹴って飛び上がり、空間の端の壁を蹴ってすぐ横の壁に飛び上がり、またその壁も蹴って真横の壁に飛び上がり、また同じくその壁を蹴って反対の壁へと飛び上がるという行為を繰り返し、あっと言う間に1メートル近くの壁を登ってしまった。
それはまさに壁を走る熟練のパルクールの技であり、一瞬の出来事であったにも関わらず彩花は目を奪われてしまった。
そんな彩花の反応など気にする事なく、壁を登った陸斗はマジックポーチからすばやく杭を取り出し壁に突き刺して持ち手とし、その場に留まると、杭を持っていない方の手でホルスターから再び拳銃を引き抜き、口で加えてスライドさせ、眼下のニーズヘッグに向かって銃撃する。
上空からの銃撃で敵が上にいると気付いたニーズヘッグは陸斗のいる方向に顔をあげる。
それを見た陸斗は待ってたと言わんばかりに天井の一部、崩落しそうになっている箇所を拳銃で撃ちつける。
数発撃った時点で天井の一部からそれなり大きな岩石がニーズヘッグに向かって落下した。
これに驚いたニーズヘッグが回避行動を取った瞬間を陸斗は見逃さず彩花に叫ぶ。
「道明寺!!さっきの頼む!!」
これを聞いた彩花はここで我に返り。
「せめてさんづけしないさいよ!!」
そう叫びながら高水圧のレーザーをニーズヘッグへと放った。
これを横っ腹に受けたニーズヘッグは口を大きく開けてたまらず横転。
そんなニーズヘッグ目掛けて陸斗が杭を手放して壁を蹴って宙を舞い、空中でマジックポーチから警察の機動隊が装備している透明のポリカーボネート製の防護盾を取り出し、それでまるでスケボーするかのように足に敷いて落下し、そのままニーズヘッグの大きく開けた口へと叩きつけて着地、素早く腰のベルトに吊るしていた手りゅう弾を引き抜いてニーズヘッグの口の中に放り投げて、そのまま防護盾をスケボー代わりにして地面を滑り、そして勢いを殺した後素早く地面を転がって身を屈め、防護盾で全身を隠す。
それと同時にニーズヘッグの口の中に放り投げた手りゅう弾が爆発、ニーズヘッグは悲痛な声を上げて顔の半分を吹き飛んだ。
その直後、陸斗は防護盾を真横に蹴って起き上がるとマジックポーチからまるで第2次大戦時に使われていたようなボルドアクションのライフル小銃を取り出し構え、そして顔半分が吹き飛んで内側の肉が見えている箇所目掛けて引き金を引いた。
「さて、これで終わりだ。あばよ化け物」
空間全体に銃声が響き渡り、そしてニーズヘッグは断末魔の叫び声をあげてその場に倒れ込んだのだった。
「どうだ見たかこんちくしょう!!」
陸斗はそう言うとボルドアクションのライフル小銃を構えたままニーズヘッグのほうへと歩いていく。
そんな陸斗を見て彩花は。
「うそ……加護なしがニーズヘッグを倒すなんて……」
そう口にして、そして小さく笑っていた。
「はは……何これ?ひょっとして、もしかして本当にもしかして……私が組むべき相手って……」
そして彩花は決心した。
自分の目的を果たすために組むべき相手が誰なのか。
Sランクのクランにいても果たせそうにないその目的を果たしてくれそうな相手が誰なのか。
「りくと君……あなただったらきっと……」
「ど、どういう事だい道明寺!?<不動の獅子>を抜けるなんてそんな突然!!」
翌日、彩花はSランク冒険者クラン<不動の獅子>を抜ける事をメンバーに伝えた。
当然、クランメンバーは動揺し、誰もが彼女を引き留めたが、しかし彩花の意思は固かった。
確かに<不動の獅子>は攻略最前線のクランだが、もはやこのクランに期待できる事はない。
どれだけ待遇面の話をされても頭には入ってこなかった。
何せ自分の目的とはまったく違うのだから。
自分はダンジョンを攻略したいのではない。
ダンジョンの秘密を解き明かしたいのだ。
そのためにはダンジョンの最下層にたどり着くのが一番だと考えていたが、もはやダンジョン攻略に意味はない気がしてきた。
そう、加護なしが攻略組が知らないモンスターを加護なしで狩っている。
この事に何か意味があるのではないか?
そう思えてしまったからだ。
だからこそ彩花はSランク冒険者クラン<不動の獅子>を去り、ある少年の元へと向かう。
加護なしの少年、紀田陸斗の元へと……
これは加護なしの少年、紀田陸斗とダンジョンから強力な水の加護を授かった少女、道明寺彩花による世界の秘密を解き明かす冒険譚である。
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