第65話. 騎士殺しのご乱心
「ふむ、小さき槍の戦士よ、身のほどを思い知るがよい………!」
"ゴオォッ!"
巨体の地竜を駆り、仁王立ちで待ち構える者に向かうヴェスパの将ガロスとその側近。
その勢いのまま彼らは戦場の深くまで突き抜けんとした、その矢先だった。
白金の槍使い、ライデン=セルクが笑みを浮かべると、姿を隠していた焔の障壁"シルバー・バリケード"が起動し、格子状に張り巡らされる
──その頂点は分離しドローンの様に浮かび、焔は背丈をゆうに超える高さまで広がり、それぞれが焔の線で繋がっている。
その巨体が仇となり、ヴェスパの将、そして大群は捕らえられた形となった。
そのまま突き抜ければ身を焦がし、焼かれることとなる。
「ム、何が起こっている!?」
ガロスはその異変に進軍を止め、辺りを見回す。そして、焦る側近は応えた。
「罠です!!おそらく此方を引き付け捕える敵の計略………閉じ込められました!」
(これは・・・マズい・・・身動きが取れない・・・!進みすぎてしまった部隊は前にも後ろにも行けず、飛び越えようとすると無理な軌道になり奴らの射撃に狙い撃ちにされる!)
「ガロス様、後方の者だけでもなんとか、ここは一旦退かせましょう!」
「なんだ貴様、こうなる前に言いたまえ。そもそも、力と数で圧倒的に劣る敵相手に、今更背を向け退くなどあり得るか!」
「我は笑いものにはならぬ!ただひたすらに突破するのみ、蹴散らすのみぞ!」
(また同じ過ちを・・・サリアニケス様の命令で逆らうわけにはいかなかったが、一点突破は別の部隊で既に失敗を繰り返している。指揮官がいなければこんなものなのか・・・!)
「ガロス様・・・落ち着いてください!い、一体何故そこまで・・・?」
(冷静になってください・・・!)
「ぬ?『落ち着け』であると?その言動は失礼であるぞ。我はいたって冷静だ!!無論、言うまでもないことである・・・!よいか、いくぞ?」
ガロスは天を仰いだ。
そして、大きく息を吸い込むと、渾身の声量で高らかにそれを絶叫した。
「ミツキさまーーーーーーー!!!!このガロス、ただ今あなたのもとへ参ります!!!!」
(……うわ……)
「我は邪悪なニンゲンどもの巣である"ガッコウ”と、教育不足なたわけ共をこの騎士殺しで粉微塵に叩き潰し、全員殺してあなたをお助けいたします!!!待っていてくだされ!!!ミツキさまーーーーーーー!!!!」
その声量は戦場の両陣営後方に至るまで響く勢いであった。
(だ、ダメだこの上司……。私は従える相手を間違えてしまった)
(いくら一体一体が猛々しくとも、やはり我々を導いてくださるのは戦術……!軍師であるミツリ様がいなくては。あのえげつない、ニンゲンどもを塵のように蹴散らせるような、迅速に敵をハメ殺す戦術があればこの場は好転するだろうに。こんな時にミツリ様は一体どこへ行かれたのだ……!?)
…
戦場であるカストラム・フローソールズ。
その地形はバリケードや野営を除けば基本的に障害物の少ない平野。そしてその両端は崖となる。
その崖上には、浮遊するビーコン、戦車。
そして——
佇み、絶叫する将を見下ろす、一人の"影"。
(うう、寒気が……なんかわたしの名前を叫んでる……やめてほしいなぁ……)
"彼女"は紫色に輝く結晶を一対の翼の如き弓の形へと変える。
(アイツ、わたしを触ろうとしたのよね……。ああ、思い出してきた。もう、とっとと済ませよ……)
(束縛——!)
「ぬっ!!?」
「あが・・ぐ・・・・」
(体が・・・動かぬ・・・!)
「如何なさいましたか!?」
(………さっきから発作と奇行が多いなこの上司)
次の瞬間——
硬直した将。その鎧の隙間を、どこからか飛来した結晶の矢が射抜く。
その矢は輝きと共に光の粒子となり、その能力が発動する——
"束縛せし紫水晶の鎖"——!
「・・・・・・」
将ガロスは突如俯き沈黙する。側近にはその様子がいつも以上に不気味に思えた。
「ガロ・・・ス・・・様・・・?」
「貴様、何をしておるか」
側近が語り掛けると、その者は"くい"と顔を上げ、目を見開き、叱る。
「は?」
「は?ではなかろう!側近でありながら、なぜワタシと一緒に声をあげない!?」
「・・・はあ~~?」
「なんだその態度は!?そんな事では士気が上がらぬ!!!我が軍が弱くなろうが!!!」
"ドゴンッ!!"
「がふアッ——!?」
ガロスが数々の兵を恐怖に陥れてきた大型メイス"騎士殺し"。
地竜に騎乗し放たれ、強烈な威力を持ち畏れられるそれは、この戦場において、先ずその側近に炸裂した。
直撃を食らった魔物は、勢いよく地竜の上から吹き飛ばされる。
「弱い!!貴様も!!!」
"ドゴンッ!!!"
「おゴッ!!」
続けて、反対側の側近が薙ぎ払われ、勢いよく吹き飛ぶ。
「"弱い"!!まったくもって"弱い"ッ!!!弱きことは罪ッッ!!!」
絶叫するガロス。そして咆哮し駆ける地竜ヴァローネ。
彼は有り余ったその力を開放させ、自陣営の中で存分に暴れ狂い始めた。
その力の塊を止められるヴェスパはそうはいない。
「た、大変だ!!ガロス様がご乱心を起こされた!!!」
銀の焔に大きな体を焼かれながらも、虫の大群は次々と怒り狂うガロスの振り回す"騎士殺し"に吹き飛ばされていく——
…
(うーん、ダメだ……アイツの雑なメンタルじゃ、大雑把な制御しかできないや……わたしも、もっと練習しなきゃ)
ミツキの能力、"束縛せし紫水晶の鎖"——!
それは、その者が蓄積してきた"好意"に比例した効果を発揮する。
動きを拘束で封じた後、固有の結晶武器"アトラデネブ"が命中すると、心身の主導権を得ることができる能力だ。
(とりあえず、これで学校のみんなを守れるはず……!)
AI非使用




