第64話. 自分なりの戦い方
それは、双槍のライデン=セルクが兵に対し鼓舞をなした頃──
カストラム・フローソールズの要塞側からヒトに向かって勢いよく突撃するヴェスパの大群。
それを後方から追い、じっと見据える、更なる猛き魔物がいた。
「……ふむ、槍の戦士」
「かの様なか弱き者の、必死なる威嚇。死に際の精一杯の虚栄、といったところか」
進軍する“巨体”の化け物。
それは前方の下級ヴェスパとは比べ物にならない鋼の様な屈強な装甲に身を包み、更には地を這う巨大なトカゲのような姿をした魔物に騎乗している。そして、その手には、歯向かうものを軽く振るうだけで声なき者にする、大型のメイスを抱えていた。
その魔物の名は、”ガロス“。
”ヴェスパ“といえば、多くの者は下級にあたるそれを思い浮かべる一方で、この“ガロス”は、それを遥かに越える武力を有していた。
通常の武装を通さない装甲に、這いずる巨大な地竜”ヴァローネ”を自在に操る攻守、速度を兼ね揃えた連携──
それはヒトにより止められるおよそ限界を越えたところにあり、白兵戦では一方的な損害を増やし続けてしまうアルテア軍は“ガロス”に対する攻略手段の目処が立たず、苛まれていた。
その両脇には、同じく地竜を従えた側近を携えている。彼らも、ガロス程では無いにせよ、下級のヴェスパとは程遠い武力を持っていた。
「ガロス様」
「やや後方両翼より、敵の援軍が向かってきます。このままでは包囲されますが、いかがなされますか?」
側近のヴェスパに対し、ガロスは答えた。
「予定に変わりはなし」
「中央より突き抜け、脆弱なる中核をただ攻め落とすのみ。ヒト自らの弱さ脆さを理解するまで何度でも、何人でも、ただ、ただ、ただ、ただ、なぶり殺す……!」
ガロスは前方に待ち構える槍使いを見据える。
その大型のメイス“騎士殺し”を振り、当たれば、それはすぐさま悶え、動かなくなる。ヒトであればそれは誰であろうと同じ。こちらに何かを振るってきても、まず通りはしない。
それを繰り返すことにより自身の武勲はより確かなものとなる。ガロスは繰り返すうちに、弱肉強食の摂理を確かなものだと感じていた。
「では、このまま突き進むと……?」
「左様」
「この先にはヒトを教育する機関があるという」
「サリアニケス様が真っ先に潰せと申した……“学校”と呼ばれる人間の巣ですね?」
「うむ。我に言わせれば、ヒトは全員“教育不足”だ。全くもってその存在意義を成していない。我はそこへ出向き、全員にこの“騎士殺し”を叩き込む。自身はひたすらに“弱い”とその心身に刻み込み続けるのだ。“弱い”ということは何であろうとそれだけで“罪”である。それを理解するまで我は何度でもこれを振るう。それが唯一の教育だ」
「……轢き殺すぞ、弱く、己を知らぬ者どもを」
「かしこまりました」
(…)
(……ガロスさん思想強すぎるだろ。会話し辛いし、眼イッてて怖えよ)
勢いを増すヴェスパの大群。ライデン=セルクは仁王立ちで先陣に立ち、間も無くその接触が始まる──
──
「ハァっ・・・・ハァ・・・・!」
撃ったのは、二発。
……ヤツ、グレイナードさんの刀、“天鉄刀”を奪い、コリン隊長のショットガンを斬り、その命を奪おうとしているゴブリンイーターは──
化け物は尚もこちらを見下ろし、その長い刀を振りかざし、こちらへ向かってくる。
僕の放った銃弾は、敵に命中はしなかった。
“クイックシルバー”、ハンドガンにはヴェスパといえども回避しようのない十分な弾速がある。
……だが、精一杯照準を合わせようとした僕の両手は、大きく震え、その軌道は想定とは異なっていた。
残り3発。
ティリアさんが次の射撃を構えている。
──が、ヴェスパはその準備を待ってはくれない。
接近して来ている。その刀で、僕とティリアさん2人とも薙ぎ払う起動。
間に合わない──
(こんな所で、死にたくない)
荒い呼吸。混沌とした状況の一方で意識だけが研ぎ澄まされる。何故だか周囲の状況がゆっくりに感ぜられる。
振るわれる刀、体は硬直して動かない。
次の瞬間、僕は──
・・・
……
?
(硬直している……?)
(いや違う!!…これは!!)
崖の色のビーコンの色が、赤から緑へと変わっている──
(間に合った……ようやく!)
それは、一本の槍の如く突き抜ける銀焔の“線”──
縦に幾重にも連なり、“ゴブリンイーター”と僕を同時に貫通している。
”シルバー・バリケード“──
勢いづいたヴェスパの大群は、十分な地点まで引きつけらることに成功し、作戦のフェーズが次の段階へと進んでいた。
隠密魔法によりその姿を隠されていた、焔と焔を繋ぎバリケードとして機能する装置。そのひとつひとつは、魔法の機動と維持に必要な“思い入れのある素材”を内包している。
焔はある程度の高さもカバーする網の目の様な格子となり、自陣を中心として、この戦場に広範にわたって張り巡らされている。
そして、三日月の陣形と張り巡らされた網目状のバリケードは、ヴェスパの大群を銀焔の方陣として“囲い捉えた“。
……僕自身にその熱さは感じない。ただ、この焔に触れて、度重なる見知った人、僕を守ってくれてきた人を目の前で失ったどうしようもない哀しみ……寂しくて行き場のない感情に、寄り添ってくれる様な温かさを感じる。
この焔に込められた想いは……素朴で、単純。
……だけど、ひたすら奪い、殺し尽くし、ただ増える奴らにはこのキモチはきっと猛毒になる。
至近距離で動きを止め、硬直したヤツに狙いを合わせるのは容易かった。
「ティリアさん!!」
「ええ!」
間髪入れず放たれるハンドガン”クイックシルバー”とクロスボウの同時射撃。
銃声と共に急所である頭部、眉間に当たる部が真っ直ぐ撃ち抜かれ、ヤツは崩れ落ちた。
「隊長!!」
ティリアさんがコリン隊長に駆け寄る。ショットガンは斬られたが、どうやら隊長自身は無事な様だ。
網目の様に隅々まで張り巡らされたバリケードのおかげで、敵はグループごとに囲まれた形となり十分身動きが取れない。無理に動けば焼き切れるだろう。一方で、銀の焔は人には危害はなく、こちらは自由に動ける。
そして焔の線はおよそ6mほどの高さまで張られているようだ。飛び越えようとする敵は助走不十分で羽ばたく必要がある。
その無理な軌道は射撃の的になり、早速何体か撃ち落とされているようだ。
ここまで犠牲はあった……。
──が、ここまできて、戦場に余裕が生まれた。
そして僕は、この戦場において、自分に相応しい仕事をする。
灰となった化け物が手にしていた、グレイナードさんの“天鉄刀”。それをヤツの手から引き剥がし、そっと拾い上げる。血塗られた、重く、長い刀。これは僕に扱う事はできない。
だけど、グレイナードさんが肌身離さず持っていた、間違いなく“思い入れのある武器”だ。
僕は天鉄刀を握り、そっとプレート状のツールを当てる。そして、青白い光を放つと重々しいその刀剣はフッ……と姿を消し、“納められた”。
“マジックストレージ”と呼ばれるアイテム、これは戦場でどうしても嵩張ってしまうアイテムを保管したり回収するための魔法道具だ。
僕は弱い……。だけど、ここまでは生き延びている。
張り巡らされたバリケードを動かす装置にも、僕の拾った、建築物のカケラや宝石、アクセサリーなんかの素材が沢山使われている。
生きながら、戦場で主人を失った思い入れの装備や素材、アイテムを回収する事が、きっとこの狂った戦場で僕にできる役割だろう。
──これが自分なりの戦い方なんだ。
コンラッド小隊はグレイナードさんを失い、集合した。
この作戦には、まだ先がある。
傷つきながらも、倒れた人たちの想いを引き継ぎ、僕らは、ヤツらと戦わなければ──
[AI非使用]




