第59話. Before Eclipse
放課後──
つい先日前まで、放課後の時間はピコラスと訓練していた俺だったが、場所を選ばず戦闘ができるマッチングバトルのオーブをじじいに貰ってからは、主にそちらを利用するようになっていた。
とはいえピコラスもあのオーブを貰っているらしく、結局ピコラスと打ち合う日もあったりはする。対戦相手は完全にランダム制というわけでもなく、指定すれば好みの相手とも試合できる仕組みになっていてありがたい。
ピコラス…あいつは意外と周りの気を使うタイプで、きっと皆で一緒に訓練する流れを作ってくれるはずだ。ヴェスパと戦うのは苦しいだろうけど、何も準備しないよりは遥かにいい。戦いを全く知らない子がほんの少し訓練に身を置くだけでも、いざという時のために行動する意識につながる。
とりあえず、放課後の時間、俺は焦って訓練場に向かう必要はなくなり、身近な人と時間を共有することができていた。
放課後の教室、ミツキとミツリは互いに親しい者に久々に会えたのが嬉しいのか、後ろの席で色々と楽しそうに話している。
ミツキによると、やはりミツリはヴェスパの女の子で、戦略・戦術に長けており、本を読むのがもの凄く早いそうだ。魔物でありながら下手すると、いや、きっとここのクラスの人間の平均よりもたくさんの本を読んでいる可能性が高いだろう。
「しっかしミツリちゃん、ここに入るの物凄く早かったけど、どうやったの?」
「ふっふっふ、人材を扱う者からすれば、相手方が信頼を得る鍵となる情報が一体何なのか把握するのは容易いっす!」
……なんだかすごい事を話している。
「もしかして」
「ウチはあのババアに殺されかけたんすよ!あまりにもムカついたから、洗いざらいぜーんぶ話してやったっす。あんなところ未練なんぞねえ!」
「なんかそれスカッとしそうね。わたしもあの⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎に未練はないかな!!」
「⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎!!ぎゃはははは!!いいっすね!!」
どえらい悪口が聞こえてくる・・。
きっと、ミツキ達がもといた場所にいた、ボスみたいな存在の奴のことだろう。
アネットさんが言っていた、数年前に突如現れ、あまりにも強大な魔法によりただ敗走するしかなかった化け物じみたヴェスパの魔女 ”サリアニケス“。アルテア王国を半壊させ城を乗っ取り、その在り方を変えた存在だ。人間にとってはまごうことなき悪魔のような存在だが、同族にとってもだいぶキツい存在らしい。
仮に、もしそいつが部下想いで見事に連携してくるような敵だったら、こうやって2人とも知り合いにはなれていない。そして、そんな状況ではアルテアの人間はまず滅ぼされるだろう。
嫌われることで新たな絆が再構築されているというのも、ちょっとした皮肉かもしれないが、巡り巡って互いに出会えた一点だけは敵に感謝かもしれないな。
昨夜、アネットさんやメルキスさんも言っていたが、とにかく、アルテア王国をなんとかするには、まず銀の焔が消えてしまう“瘴気”を吹き飛ばす必要がある。それは、絶望や哀しみ、諦めによって生じた巨大なマイナスの意思の塊、負の感情の空気……。それはどうやらアルテア城を中心に広がっている。
だから、リリアが危険な目に遭わなくてよくするためには、その瘴気の大元を見抜いて断つ重要となる。
瘴気の元凶がひとつに集約されている場合ならば、まずはシンプルにそいつを叩けばいい。
この場合、その必須条件は、誰も倒せない暴力の塊のような存在……”月を落とす魔女 サリアニケス“を討伐することだ。
それによって、リリアの銀の焔が通れば、上手くいけばもう、あいつ自ら危険な戦場にしょっちゅう駆り出されなくて済むようになるかもしれない。
敵のボス討伐のため、現在、貢献度が特に突出している冒険者のパーティーと軍の猛者を交えた討伐部隊が編成されたところだという。
”アルテア現最強の冒険者“。俺はその称号を聞くだけでもワクワクして、どんな人なのかとても興味があったから、尋ねてみたら、少しだけ教えてくれた。
アルテア最強の1人、その名を”ライデン=セルク“。
迅雷双槍の異名を持つその目にも止まらぬ槍捌きは、ヴェスパにも通用する見事なものだという。
俺の武器は剣だけど、やっぱり最強というのはカッコよくって、憧れてしまう。
きっとマッチングバトルの遥か上にも居るんだと思うけど、それとは別に直接会ってみたい。
力を持つことは、誰かを遠ざけたりもするし会ったことのない誰かを惹きつけたりもするようだ。
「あの、レイン殿!」
「?」
声をかけて来たのはミツリ、リリアとミツキがぴくりと反応する。
俺に対するミツリのその様子はどこかよそよそしい気配があった。
(俺、この子に何かしたっけ?)
……殆ど初対面に近いし、無理もないか。
「あ、あのっ」
ミツリの話して来た内容。それはアルテアの軍師に会ってみたいという内容だった。
何故俺に?そんなツテがあるとでも思われているのだろうか。
だが、とりあえず、繋がりのありそうな人物は知っていて、リリアを保護するために丁度学校に滞在している。
昨日は会えなかったが、アルテアの現軍師であるその人物の事もしきりに話していた。アリクス、という名の人物を──
俺はその後の判断はアネットさんに委ねることとし、ミツリを彼女に紹介する事とした。そういえば、丁度この子が喜びそうな軍のお土産も持っていたので、分けてあげた。
「あ…ありがとっす!なんと親切な殿方!」
ミツリは目を輝かせながら言う。
人類を滅ぼすヴェスパから守るために滞在している軍の人に、ヴェスパの子を紹介するという行為。一見、あり得ない構図だが、信頼によってそのあり得ないことがどうやら成り立っている。
武具で戦うだけでなく、ミツリにとっての戦略家としての同業者への憧れもきっとあるに違いない。その気持ちは俺自身のアルテア最強の冒険者だとか、シルベニア最強の剣士への想いと重なり、疑いようがなかった。
自分の居場所に、自分の力を認めてくれる人がいるかどうかはきっと物凄く重要だ。きっと彼女は行き着くべき場所に、行き着くだろう──
そんな想いでミツリをアネットさんへ紹介すると、この子は物凄い情報量を持っており、あっという間に打ち解けてしまった。おそらく剣士が実力を示すためにその太刀筋を見せるようなもので、その言葉は計略家にとっての実力を示すということなのだろう。
そして、またまた軍のお土産をどっさりもらい、4人でそれをわけた。
俺は寮へ帰宅すると日課のマッチングバトルをこなし、武器の手入れを済ませ、身を整えた後、床に就く。
窓からは、満月の月明かりがほんのりと差し込み、そっと包み込むように照らしていた。
最近は人間関係や状況が目まぐるしく変わる。ふとしたはずみで、明日には違う日常になっているかもしれない…そんな気配すらする。
もし、身近な人に何かあれば、受け入れられるかどうかに関わらず全力で戦わなければならなくなるだろう。その時は自分の持っているものを信じ、つき進むしかない。
誰かを失うのは凄く怖いけど……その気持ちはきっと1人じゃなく、助け合うことだって出来るはずだ。結局、見る者は見ていて、そう悪いことばかりでもないだろう。
だから、自分を高めてくれる存在。そういう人たちに、もっと出逢いたい。……心から願えばきっと逢える。
不安がよぎる一方で、そう思うと不思議と胸が昂る気がした──
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