第58話. ヴェスパ2体が往く!エオルーン魔導学校探検
お昼休み──
エオルーン魔導学校に途中入学したヴェスパの女の子"ミツリ"。彼女はお昼休みの時間を利用し、学校の案内を友達の"ミツキ"にお願いしていた。この2人は、今現在人を滅ぼそうとする意思は失っているが、人を超えるステータスを有する虫の魔物“ヴェスパ”であることを除けば、見た目は人間の女の子だ。見られば一発でバレてしまう最大の特徴である触角は魔法で隠している。
2人は意気投合し、ヴェスパさながらのスピードを活かし、舞うように学校中を駆け巡る──
図書館──!
「おお!学校の中にダンジョン様式の図書館っす!!こ、これはテンション上がるっす!!!」
おそらく、ダンジョン好きな者がこだわりを込めて作った図書館。その内部構造は入り組んでおり、もちろん子供にはたまらない隠し部屋もあったりする。だが、子供たちの秘密基地が実質的に秘密ではなくなるように、図書館の隠し部屋に特定の生徒が居座る事態が発生した過去があり、開かずの間になった。
そして、その後はオカルト好きにはたまらない、ミステリアスな一室としてますます逸話を助長させたという。
「禁書庫はもっと凄いわよ!」
エオルーン魔導学校の禁書庫、そこにはアルテアや、アストリア各所の極めて貴重かつ重要な書物が保管されており、立ち入ることが出来る者は極めて限られている。
「禁書庫…行けるっすか?」
「特別許可のある人か、王家の血筋があればいけるみたいね」
「王家の血筋……ゴクリ」
立ち入る者は殆どいない。ミツキはこっそりと禁書庫に出入りすることがある。借りることはできないが、幾つかの書物について、その内容には目を通している。
「レイン君は連れ込めないのが残念かな」
「えあっ!?」
(仮にできたとしても、誰かに焼かれるのがオチだけど)
「考えてみるだけならタダ⭐︎」
保健室──!
日当たりの良い静かな部屋に、ベッドと観葉植物。そして壁際にはさまざまな薬草の鉢植えが並んでいる。
「落ち着く雰囲気っす。応急処置に必要なものと、基本的な薬は一通り揃っているみたいっすね。薬草の種類が渋いっすね。ここの先生は?」
「会ったことはまだないかな?」
校医のジロー先生は医師不足の国に緊急で駆り出され、現実出張中である。が、流石に子供たちを待たせすぎるわけにもいかない。役目を果たせばじきに戻ってくるだろう。治癒が可能な人材はこの世界では極めて貴重で、替えが効かない。
職員室──!
2人はそーっと覗き込む。
ここのところ色々あって、業務と忙しさが倍増しているらしい。そこには人間でないこの2人の影響も大いにある。
「お〜、忙しそーだけど、仕事仲間がいるって素晴らしいっすね」
「たまーに遊びに行くと、お菓子を貰えたりするよ」
忙しくしていても、基本的に子供には優しい。
ただし、この場所は夜になると程よい瘴気のようなものが立ち込め始めるという噂がある。その時間、子供達が近づけないのは幸いだ。
食堂にパン屋──!
穀粒派や麺類は食堂、パン派は「えいゆうパン」へ。
2人はもちろん、圧倒的パン派だ。ここのアルテア黄金パンは、手に入れるのに癖のあるクエストをこなさなければならないが、この2人の反射神経とスピードの前では造作もないことだった。
2人はダンジョンのように入り組んだ列に正しく並ぶ。そして、20分以内に食した場合のみ伝説級の効力を発揮するとされる特別な食料“アルテア黄金パン”を手に入れた!
「こ、これは──!!!」
「生まれてきてよかった……!そんな味っす!」
(買ってきてもらうと、また特別な味がするのよね…)
校舎前──!
玄関から外に出てみると、エオルーン魔導学校のモチーフである“夜明けの太陽”、“暁”を模ったシンボルが校舎の上方に掲げられ、彩られている。
そして、校舎等の正面には……
ゴール・J・ローの金ピカ像!
薪を背負い、本を読みながら膝に矢が刺さっているその少年の像は子供達に“ながら歩き”の危険性を伝える子供向けの教育話として有名だ。
「ミツリちゃんも、ながら読書はほどほどにしないとね?」
「ぎくっ」
「えっ」
「今朝、早速ぶつかりそうになっちゃったっす。てへっ」
ヴェスパのながら歩きは通常の戦闘タイプであれば避けるのは造作もない。が、ミツリは戦いが苦手で、しかも運動不足気味だ。
訓練場に運動場──!
ここはさまざまな武器種で相手を傷つけない形でのバトルが可能だ。
「うおおおお!!これが噂の!」
「ミツリちゃんも試してみる?」
「ウチは戦うのは苦手!でもこの技術は素直に凄いっす!遊ぶながら兵を育てることが出来るなんて…!」
片手杖のような棒をぶんぶん振ってみるミツリ。
(戦いながら仲良くなるって、よく考えたら不思議よね)
庭園──!
手入れの行き届いた、調和の取れたアストリアの草木に花々、そして澄んだ池泉、穏やかな水の流れはその場に清らかな雰囲気を生み出す。そこは学生にとって憩いの場でもある。
ただ、昨日ヴェスパによる襲撃があり、無事に討伐された。そして現在、警備兵による厳重な警戒態勢が敷かれている。尚、今日は強力な個体が2体もきているぞ!もっとも魔法で触角を隠すと人間の女の子にしか見えない容姿のため、警備兵に気付かれることはないが。
「あ゛〜〜」
「大丈夫?ミツリちゃん」
「これまでのいろんな感情が、ここに居ると浄化されるっす」
「わかるわ〜」
「結構広いっすね〜、眺めて回るだけでも癒されるっす」
「・・・ん?こんなところにシャレオツな空間が──」
そ〜〜
「あ、お昼休みの時間は“そっち”はやめた方が・・」
「あ゛」
“”ピシッ“”
ミツリは何かを目撃してしまい、脳を破壊された……。
休み時間、いい雰囲気の場所には仲睦まじいカップルがいる可能性が高いので気をつけよう。
「う゛あ〜〜!別に大してそんなに気にかけてもないけど一応顔と名前を見知った男子が、知ってる女子とイイ感じのトコロを見せられると、ミョーにモヤモヤしてくるっす!見るんじゃなかった!アレは見る事で食らう情報毒っす!記憶を消したい!脳の奥がかゆいっす〜!」
「大丈夫…そうやってきっと大人になるのよ…!そんな時は、炭酸が脳を癒してくれる!」
ミツキは温度を保つ魔法の水筒でキンキンに冷えた葡萄の炭酸ジュースを蓋に注ぐと、ミツリに分け与える。
「コレは!ぐちゃぐちゃになりそうだった脳が応急で修復される感じがするっす!」
「でしょ?」
(わたしは見ていないけど、情報による脳へのダメージを少しばかりもらってしまった!……きっと普通に雑談していただけなんだろうけど)
ミツキのここのところ悩みの種だった、突然訪れる“悪意のない心への負荷”。ヴェスパが食らい続けると生命の危険を伴うが、痛みを分けることでその衝撃は幾らか軽減されることに気づいたのだった。
AI非使用




