第56話. この後、俺達はめちゃめちゃ楽しんだ
「君がレイン=レグナス君ね?」
「お話はこの子から聞いてるわよ。はじめましてね、私はアネット=ヒリング。リリアを守ってくれて、心から感謝するわ」
「はじめ…まして、アネットさん」
差し出すその手は、暖かくも力強い。
──ヴェスパとはまた異なる、学校の中では異質な雰囲気。
それはこの人・・アネットさんもリリアと同じように、沢山の戦場で実際に戦っているからだろうか。
教師とは違う。間違いなく、鍛え抜かれた軍人の魔導師だ。
(この人・・とんでもなく格上だ。当たり前だけど)
その佇まい、表情は優しくはあるけれど、戦闘としての隙はない。この人がいれば、半端な下級ヴェスパは手の出しようがないのはよくわかる。
最近こもっているマッチングバトルで相手をする連中とは完全に別格。
結局俺はまだFランクから抜け出せないでいるが、どうやらあのランク帯には、銀焔のなんちゃらとかいうリリアの焔のオリジナルを騙るニセモノだとか、間違えて違う世界からきてひたすら泣いているおっさんだとか (ちなみにこの場合は負け扱いにはなってしまうが、流石に可哀想なので戦わずに出る)、そういう相手が多い。誰にでもオーブを配るな92歳の◯◯ジジイ、とも思うが・・・そんなイロモノ連中と決して比べてはいけない。
アネットさんは、俺なんかよりもずーっと上のランクの人だ。
この人はホンモノ・・これくらいにならないと、リリアを守れる身にはなれない。安定してヴェスパとは・・戦えない。
(なるほどね、この子がリリアの……)
(……フィルナスは『やんちゃな男の子』って言ってたけど、わりとフツーッぽい子ね。いやむしろ、好きな子が出来て丸くなったありがちなパターンかなこれは。でも、役目はしっかり果たしてくれているわね。・・ありがとう、本当に)
(……?なんか俺をじっとみている)
「はい!リリアのヒーローにおみやげ!」
「うおっ」
眼の前にアルテア軍からのどでかいお土産がどさっと手渡される。
(結構豪快なひとだ)
「クラスのみんなでわけてね♪」
(これは・・!)
アルテア軍本部限定、まんげつチーズタルトだ!普通は手に入らないけど、めちゃめちゃうまいらしい。
こっちはアルテア軍階級章チョコレートクッキー!軍曹、伍長、曹長・・課長、部長、余計なものまでちゃんとある!しかも階級章のレプリカがランダムでひとつ入っている。
(すげ~)
「リリア、調子はどう?」
「ばっちりだいじょーぶ!」
襲われた直後は一時放心状態だったリリアだが、それを吹き飛ばすかのような、はりきった元気な返事をしてみせる。
アネットさんは、にっこり笑うと、ふと俺の方を見て、こちらに目で合図を送ってくれた気がした。
「ジロー先生は?」
「今日は出張だよ」
"ジロー先生"はここ、エオルーン魔導学校 初等部の校医。いつもは保健室にいるのだが、現在は出張中だ。
いまは一時的にアストリア13国の一国、医術と癒しの国“ラピオス”に滞在中である。
人を治したり、癒やしたりは誰にもできるわけではなく、ものすごく高度な技術がいる。リリアやゼルディッシュ爺さんとはまた別に、ラピオスという国がなかったら、アストリアはとっくに滅んでいるだろう。
現在はヒトの骨格を持つ蝿の魔物ヴェスパに城を陥落され、重要な機能を奪われているが、それでも傷ついた人がひっきりなしに運び込まれているという。ラピオスは、全く人手が足りていないのだ。
「──そっか。レイン君、リリアのことちょっと借りるわね」
アネットさんはそう言うと、リリアを連れて部屋の外へ出ていってしまった。
(・・って、俺が保健室に残って、ふつー逆じゃないか?)
気を遣ってくれたのかな。彼女は、確かに今は元気そうではあるから、それは安心したけど。
・・・
女性二人で何か話している。
なんとなく、あまり聞かないほうがいい予感がするが・・・
意思にかかわらず、俺はその声を拾い上げてしまった。
(あのひと私にばっかり聞いてきてずるい!)
(やりそ〜)
(あ、あのひと・・・?)
おそらく、俺とリリアでさっき話したことを言っているのだろう・・。
自分が思っていることも少し話したつもりだったけど──確かに言われてみれば、俺は彼女に自分自身の1番の願いを伝えていない。リリアがさっき言った『願いについていきたい』というのは、聞く前にそっちから教えろという意味だったのかな。
うーん、俺自身の、"流れ星に届くほどの強い願い"か。
たしかに、急に聞かれると難しいよな。
どうも、俺はリリアを困らせてしまっていたようだ。
しばらく考え込んでいると──
「お待たせ!」
二人がなにやらニヤニヤしながら入って来る。
なんだ?
「お肉食べにいくわよ!!」
「おお!!」
「おにく!!!」
この人、本当に豪快だ。
学校に軍の人が来ていると緊張せざるを得ないが、これは気持ちの良い権利の使い方、思わずテンションが上がってしまう。
「フィルナス先生も?」
「アイツはここに拘束されるくらい忙しいんじゃない?さっきウチから山のように書類がいったみたいだし」
「あとアイツ軍のこときらってるしね〜」
(だろうな・・)
先生は遅くまで居残っていると聞く。それは、リリアの担任である関係上、軍から毎日膨大な書類が届けられるためだそうだ。しかも、今日あった出来事からすると、多分とんでもないことになるだろう・・。
「無視も悪いし突撃しにいってやろうかしら?」
(せ、先生・・かわいそう。仲がいいのか?)
他人に居残りの邪魔をされたら間違いなくフィルナス先生はブチ切れるだろうが、なぜだかこの人の冗談は大人しく受け入れそうな予感がする。
ていうか、フィルナス先生は別な人と同棲していたような?うーん、大人はよくわからない。
アネットさんは、部屋を出て行ってしまった。しばらくはこの学校に出入りすることになるらしい。ひとまずは安心だろう。
・・・アネットさんが実際に戦って、いったいどんな魔法を使うのか、どうやってリリアを守っているのか、すごく見てみたいと思った。
誰かを守ろうとする意思は、俺にも馴染みそうな気がする。
「・・・リリア」
「?」
「自分自身の、一番の願い。──俺もしっかり考えておくよ」
「!」
「うん、待ってるね!」
この後、俺達はめちゃめちゃ楽しんだ。
軍から風変わりな別な人も来て、色々と根掘り葉掘り聞かれまくりなんだか丸裸にされた気分だ・・・。
でも、先入観というか、イメージが変わるくらいには楽しかった。フィルナス先生も来ればよかったのに。そして、できればミツキも・・・。
あいつ、今日は休みだったみたいけど、明日は元気に学校に来るだろうか?
AI非使用




