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ヒトの骨格を持つ蝿の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ/GQもん
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第52話. 親しい者と共にありたいという願い

アルテア王国領 アパノイア砦──


 (いよいよ、といったところか)


 私は奇跡的に奪還された砦の配備確認を一通り済ませ、次なる軍事戦略会議を目前に控えていた。

 会場の中央前方のタクティカル・プラットフォームを操作し、今後想定される幾多のパターンがシミュレートされる。

 戦局は現在、極めて重要な状況にある。


 つい昨日、学校がステルスタイプのヴェスパの1個体に襲撃されるという、不測の自体があった。

 それを聞いた際は正直言って肝を冷やした。

 確かに、それらしいタイミングの際は、銀の焔は一時的に急激に、著しく火力を弱めた時間があった。


──が、幸いにも彼女は無事に守られている。

 そして、焔を見る限り反動をつけるようにしてこれまでになく出力が向上していた。

 

 そして、戦局の方は予想よりも好転していた。敵の致命的な戦略ミス。そして戦略的な誤りを認めないかのような感情的な繰り返し、これは指揮官としては絶対に行ってはならないタブーだ。敵は無惨で雑な戦略によりその余りあるステータスを活かせず自滅している。


 こちらが感知しうる情報からすれば、着実に数を減らしている。城から要塞に兵力の補充が必要なほどに。


 このような事態となった理由──銀焔の魔導士だけでなく、ミツキ=ディアナに固執しているのだろう。連中にとってそれ程までに重要な意味をもつ存在、ということだ。


──現在私が来ているアパノイア砦は、ブールターグ要塞と城を挟んで、オシウス砦、エオルーン魔導学校の反対側に位置する。

 通常の移動で訪れることはヴェスパによりリスクがあるが、1人ずつならば優れた風の魔導士がいれば、転送は可能だ。そしてある程度の配備が完了し、ここには十分な兵力がある。

 どうやらこちらの方面では、優秀な冒険者のパーティーが複数集い、出力の向上・安定した銀の焔を用いた武器を駆使し、素晴らしい連携を遂げてくれたらしい。その戦力・功績は軍の精鋭に決して劣らない。

 

 アルテアはまだ、戦える。


 戦況は現在、いよいよこちらから攻めるタイミングに来ていた。

 その一連の戦略で、このアパノイアは極めて重要な拠点となる。

 うまくいけば、敵の背後から城を突ける。

 それを可能にする条件は、銀焔の魔導士が健在であることは大前提として、敵の指揮官が”このまま“であることと、そして敵の上級クラスをいかに征するかだ。それには、今の装備では難がある──


“ピピッ”


通信──


「やあアリクス」


「メルキス、お前戦略会議前だぞ」


「だからこそだよ、ミツキくんの能力が判明した」

「!」

 飄々とした声色だが、極めて重要な内容をサラッと言う。彼の平常運転だ。


「とりあえず、見れるようにしといたから映像を確認しといてくれ」


「映像?」


「ヴェスパの巣になった城の映像を配信しようとしてくれた者がいるんだ」


「城……“正気”か?」

(城に彼女が……いや本来居るべき場所ではあるだろうが)


「ああ、“瘴気”だ。そいつのせいで画質や音声も崩れて見れたもんじゃなかったが、限界まで情報を抽出させてもらった」


(その情報が、私の元へ届けられた……)

私は通信を保ったままその動画を確認する。


「彼女は、ジョーカーにしてパラダイムシフターだ。些細なことでいろんな事がひっくり返る。……極めて慎重に扱う必要がある」


 これは……。にわかには信じがたい映像と会話内容が撮られている。彼女自身の強い意思の力が、端末越しにも伝わってくる。


「彼女の意思を、尊重する必要がある」

「…ああ」


「しかし、このままだと彼女を取り巻く環境は変わってしまうだろう。最悪、学校に居られなくなる可能性もある」

「学校へのヴェスパの襲撃のことか?」


「そうだね、僕の“ナナホシ”もその討伐される瞬間までを撮影している」

 “ナナホシ”とはメルキスの開発した、てんとう虫の姿をした撮影装置のことだ。コイツは何機もそれを学校に忍ばせているらしい。子供には悪いが、ヴェスパ発見に一役買ってくれている。が、完全なものではない。


「完全に迂闊だった。僕が作った感知センサーを潜り抜けたタイプだ」


(・・・)


 敵からオシウス砦、学校側への一点突破が行われた際、別経路を進む特殊なタイプのヴェスパが報告された。話を聞くに、感知を掻い潜ってくる”ステルスタイプ“だ。


 正面突破でこちらを勢力を引きつけておいて、背後に別動隊を忍ばせる。よくある戦法だが、センサーに依存しているようであれば、不注意であればかかりうる。

 私はその可能性に注意を運ばせ何体か撃破させたはずだが、その生き残りが漏れ、学校が襲撃された形だろう。


「例えば、だ」

 メルキスは真剣だった声色から急に上段めいた声になる。


「僕はユースタシアの人間だが、別なユースタシアの者が君のよく冷えたカスタード・プディングを盗んだとしよう」


「君は僕を責める?」


「するわけないだろ。関係がない」

(襲撃をプディング泥棒に例えるのはどうかと思うが)


「もし関係があったら?」


「……まずいったいどういう関係か問い詰める」


「ありがとう、友人の冷静な判断に感謝するよ」


「ところが、実際はそれを確かめることが出来ない事が殆どだろう」


「──だから、もし関係があったらどうするかの判断や推測には個人の感情、意思が絡み、渦巻く。この場合、ユースタシア人という括りに対し、深い怨みを持っている者からすると、その限りではなくなる。という事だ」


(怨み……)


 彼女は“ヴェスパ”だ。その括り自体はほぼ全員が怨んでいるといっていい。女性タイプのヴェスパという立場上、『今回襲撃した個体と関係がある可能性が高い』と想像されても仕方がない。


 もし、今回の襲撃の感情がミツキ=ディアナにぶつけられれば・・・。


「つまり、ヴェスパであることを受け入れられた矢先に、別の個体が潜入したことで、彼女に対する扱い、周囲の目が変わってしまうということか……」


 配信映像から伝わった彼女の意思──それはきっと、『親しい者と共にある事』。


 シンプルで、純粋な彼女の願いだ。しかし、身近にそれをよしとしない者がいた場合、影響を受けるだろう。子供で繊細な気質の優秀な魔導士であれば、その空気(マナ)を敏感に感じとるはずだ。


 ソレを未然にできる限り防ぐ必要があるな


「出来るならばなんとかしてあげたいけど、僕は変人だ」


「……」

(知ってる)


「だから、君のチカラを貸して欲しい」


「……やってみせるさ、メルキス」

 最近はどうも軍事と直接関係ないミッションが舞い込んでくる。だけど、幸い私たちはその適任と繋がっている。そして、熱い意思を伝える手段がある。


 乗り越えたその先にあるのはきっと──


「あ、君の好きな軍事に関係ある事もお願いしていいかな」


 好き?平和である方が私は嬉しい


「どーぞ」


「“思い入れのこもった武器や防具”がありったけ欲しい。そういった木材や鉄塊、鉱石なんかの素材なんかでも構わない」

 新しい兵装に関する事だと、私は直感した。


「思い入れ?」


「学校を襲撃したヴェスパが討伐される瞬間を観測した時、ナナホシを通して面白いものを見たんだ。できそうかい?」


 これまでの銀の焔を用いた一般兵装への武器は、使い捨てだった。だから、素早いヴェスパ相手に外してしまった場合、予備が尽きてしまうと危機に陥ることになる。


 メルキスによれば、銀の焔は意思の器となりうる、思い入れのこもった武具に宿すことが出来る。銀焔の魔導士、リリアを守った男の子、レイン=レグナスがそれを見せたようだ。


「やってみる価値はあるな」


 兵に探させる、という手もあるが──ここはより効率的にしよう。

 

 軍には、ヴェスパとの戦闘を恐れて、軍を辞退する者、作戦自体を拒否する者は少なくない。敵の脅威的なステータスからすれば無理もないことだ。


 そういった兵は、生活するために多くの場合“冒険者”になる。日常的に軍やギルドが定めたクエストをこなす事になるが、そこに“思い入れのある武具や素材”の収集クエストを定めるのは、きっとアリだ。こちらの把握しているヴェスパの情報を提供すれば、戦場跡地や廃墟に多く転がっているだろう。


 銀の焔の安定した出力の増強に加えて継戦能力が得られれば、きっと──


 思い描いたコトは実現させてしまう、それがユースタシアだ。


「あ、そうそう。この場でついでに謝ろうと思うんだけど」

「?」


「3年前、うっかり君のカスタード・プディングをうっかり食べてしまったのは、僕だ」

「おい」

 ただ、優秀であるが故に、欲が入ると厄介なのが、たまに心配でもある。



──



エオルーン魔導学校 職員室──


(か、帰りたい)


 目の前の書類が、倍増している!


 放課後の時間、ボクは効率的なやり方を身につけ、自由になり風の魔法で早く帰宅する事を実現しかけた矢先にこれだ。

 とはいえ、生徒……リリアが助けられたことに比べれば、些細なこととも言えるかもしれない。そこには正直ボクの落ち度もある。

 あの話を聞いた際、内心終わったかと思ったが、心の底から無事で良かったと思う。


 だから、今だけは受け入れてやろう。勝てばこのクソな残業もきっと──


 ボクはオリジナルのブレンドコーヒー”リベルタ“を啜ると、仕事に向き合うべく、伸びをする。


「きゃっ」

(!?)


 何かに、当たった。


「うわあああ!!」

(ボクの背後に、黒い影が聳え立っている!!!)


「いやヴェスパでも見たような顔しないでよ失礼ね。トラウマになりすぎでしょ」

「せ、先輩!?来る時は言ってくださいよ!」

 アネット、普段は軍にいて、戦場でリリアの鉄壁の盾となり、サポートをしている保護者役の魔導士で大学の先輩でもある。おそらく別な魔導士が目印となり軍から転送してきたか。


「えっと──」

「しばらくは、リリアの保護よ」


 ヴェスパ襲撃のあと、彼女を1人にするわけにはいかない。あの時は一体だったが、ここは安全な場所ではないかもしれない、という不安は1ミリでも和らげてやる必要がある……とい理由でここに出入りしているらしい。


「そう、ですか……」

「でも、あの子、カレシといる方が嬉しいみたいね。悔しいけど」


(……)

 あの時は守ってやれたのは、彼しかいなかった。歯車が狂えば、全てが終わっていた。本来ならば、リリアは大人たちの元で厳重に管理され、ひたすら銀の焔を生み出すような扱いを受けかねない。


 でも、学校の”親しい者と共にある事“──守りながら彼女の願いに応えてやることは、剣聖様の意向でもあった。その健全な精神が、アストリアを支えている。


「それで、フィルナスに要件なんだけど」

「なんですか?」

「ミツキちゃんのこと」


 やはり、と思った。これはもう、ボク1人ではどうにもできないレベルまで来ている。ここは大人しく、先輩のチカラを借りよう。

AI非使用

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