第46話. 女勇者 ルミーシャ
──その後、ミツキのことは爺ちゃんから学校の教員に話がつけられたようだった。
彼女はヴェスパで、爺ちゃんが言うには、もし彼女が本気で俺たちと戦ったら、リリアとじいちゃん以外間違いなく全滅しているそうだ。それほどまでに、女性のヴェスパは皆強大な力を持っているという。しかし、ミツキは“今現在”俺たちと戦う意思を失っている。
“アストリアを壊滅させ人類を滅ぼそうとしている魔物が、大人しくなり一緒に過ごしている”というのは、特に彼女を知らない者からすれば信じがたい事実だろう。しかし、どんなに隠そうとしても相手の意思を全て見通す爺ちゃんが言うことは、良いことも悪いことも含めこれまで全て当たって来ている。大人たちはこの事態を“極めて稀で奇妙な事実”として受け入れた。
そして、重要なのはこれからのことだ。改めて彼女の意向を尊重することとし、その上でミツキは自分自身の意思で、ここで過ごすことを選択した。いったい何のためかだとか、みんな突っ込んで聞いたりはしない。それは彼女自身が望んだこと、それに対して爺ちゃんや大人たちは、相応のものを与えることを約束した。
ひとまずは、明日からもこれまでと同じ様な日々を過ごしたいという彼女の願いを皆は受け入れ、ミツキが心の底から喜ぶその気持ちは俺にも伝わった。
だけど、これでめでたしとはいかない。彼女はこれまで完全に独りで生きて来たわけではなく、きっと誰かと繋がっている。だから、相当な覚悟と決意があっての決断だろう。これから起こりうる事態に向け緊張は高まっており、俺も更に強くなる必要がある。
通信端末には、ピコラスから職員室で怒られたのかと心配してくるメッセージ。…フィルナス先生からではないが92才のジジイに怒られは、した。
今日は訓練はまだ出来ていない。毎日来い、と爺ちゃんは言った。それは今日も含まれているだろう。
俺は自室で、爺ちゃんに貰った、掌に収まるくらいの、輝く水晶玉のようなオーブを握りしめる。
直感が告げている。この先はきっと、戦闘になる──
──
“ゴオオオオオオ”
(なっ!!!)
──辿り着いた先、俺を待ち受けていたのは豪速球で飛んでくる炎の大玉だった。
「あぶねっっ!!」
幸い高度があり、飛び込む様にギリギリで回避する。
「!!!!」
何者かが凄まじいスピードで接近し、俺が飛び込んだ先に辿り着くと、それは即座に得物を振りかぶる。
疾風の様に流れる様な動き、力を漏らさず目一杯対象に伝える理想的なフォーム。ただひたすらに磨き、美しく鍛え上げられた、屈強な剣と…俺のまだ知らない境地に居る“意思の力”──
俺は、回避した直後で身動きが取れない。
「むっ!?」
俺を真っ二つにする寸前、その者は動きを止める。
「えっと、子ども!?」
そこに立ち、剣を下ろし俺を覗き込むのは、幾度の戦いを乗り越えて来た鎧と盾、マントに身を包む女性。体格はかなり良く、装備越しでも無数の戦いを詰み身が引き締められてるのがわかる。その姿は、何かひとつ相応しい単語を選ぶとすれば“勇者”という言葉が相応しかった
多分、俺とは別なガチな存在と戦闘しようとしていたとろ、突然俺みたいな子どもが出てきて面食らったというとこだろう。突っ伏したままなのも悪いので、俺は立ち上がる。
巨大で開けた闘技場の様な場所。構造はドーム状になっているが、大きく開いた天井からは夜空が見える。
「えと・・・」
立ち上がり、対峙すると結構な身長差だ。
その女性は屈みながら俺に目線を合わせようとする」
「えっと、キミいくつ?」
「…12歳」
「え〜〜〜〜っと。12歳って、けっこう子どもだよな?」
(俺にきくな!)
「や、やあ、こんばんは!キミはここは初めてかなっ!?」
(何だこのヒト・・・)
恥じらいながら普段しないであろう無理な表情と声で話す。多分この人は俺くらいの子どもと接した経験があまりなく、対応の仕方に困りぎこちない妙な振る舞いになってしまっている。
昔、フィルナス先生が同じ様な、無理した子ども目線な振る舞いを見せた事があったが、たしか数回やった後二度としなくなった。
「あ、あの…普通でいいですよ」
(無理な子ども目線はやりにくいし、こっちにまで”羞恥の意思“が伝わってしまう)
「へ・・・そうか!?ん・・・そうだなっよし!」
彼女は軽く咳払いをする。
「アタシはルミーシャ。ルミーシャ=レオングラムだ!キミも普通に話していいぜ」
(!)
「俺は、レイン=レグナス…」
「さっきは悪かったな、別なヤツかとおもってよ。アレだろ?ゼルディッシュのジジイに、ここに来いって言われたクチだろ?」
俺は頷く。
「一応、アタシはゼルディッシュの孫なんだけど、別に気い遣わなくていいからな!こっちも緊張するし!」
するとルミーシャは手を差し出してくる。百戦錬磨の手だが、その手つきからは強き者だからこその、優しさが垣間見える。
俺たちは互いに握手を交わした。
「よろしくな!アタシは案内をジジイに頼まれてるんだけど、12の子供だとは聞いていなかったぜ!んじゃ、説明するな」
ルミーシャの説明によれば、この場所は、"アストリア・マッチングバトルドーム"。
このオーブではここにだけ来ることができ、これを所持し同じタイミングで使用したアストリア中の猛者と、張り巡らされた魔法により"相手を傷つけない戦闘"ができるという。この場所はアストリア内の何処か、らしいがどうやら同じ場所に見えても、マッチングした相手としか出会えない不思議な空間のようだ。
そして対峙する相手は自分の実力にふさわしい、相応の相手に限られる。確かに戦闘のトレーニングにはうってつけだ。
尚、俺はFダブルマイナスのランクから始まる。
今回は特別に案内役のルミーシャに当たった。彼女は遥か格上のSランクらしい。その中で、次元の違う相手と頂点を競っている。ここで強くなればなるほど、色んな人と出会うことができる。
「ざっと、こんなとこかな?」
「ありがとう、ルミーシャさん」
「"ルミーシャ"でいいぜ」
表裏のない爽やかな笑顔、そして確かな強さ。この人は信頼できると皆きっと思うはずだ。彼女はきっと大勢の人々を導き、どこかでヴェスパと戦っている。
「あの・・ルミーシャ」
「ん?」
「ルミーシャのいるところは、その・・ヴェスパは・・・」
彼女は笑顔のまま、どこか遠くを眺めるような目をする。
「あたしのいるところは、シルベニアだ」
(・・・!)
"シルベニア"・・アストリアでヴェスパの侵略が始まった場所・・。
「シルベニア・・この国は、まだギリギリ生きている」
最も戦闘が厳しい地、最高レベルの激戦区になっている事に違いはないだろう。
この人くらいでないと、生き残れないほどに・・・。それでも、その地はまだ人々が生きている。諦めず、戦い続けている。
「意思を磨いて、キミが強くなってくれることを願うよ。そして、死ぬなよ」
ルミーシャは、そう告げると、俺を出口まで送り届けてくれた。
俺は元通りの自室に戻る。彼女やその仲間たちは、実践に加えてこれで修行を積み、国を守り抜いてきたのだろう。時間経過にだけは注意が必要だが・・・。
とりあえず、今日は仕様はわかったが、消化不良なのは否めない。
もう一度入れば自分に相応しい相手にマッチングするらしいが・・・。
(ちょっと試してみるか・・・)
とりあえず体を動かしたかった俺は、もう一度オーブを握りしめる。
(さぁ、誰だろーとぶっ倒してやる!)
ドームに着き、俺は足を進める。そして、対峙する最初の相手。"先手必勝"という言葉が頭をよぎる。
俺は駆けていく——そして、足を止めた。
目の前にいるのは、左右に分け束ねた銀色の髪に、桜色のリボン。
青いチュニックに、白のローブ。そしてその手はきゅっと杖を握りしめている。
「あ・・・」
「えっと・・・」
リリアだ・・・。
(あのじじい、俺以外にもいろんなやつにドームに来れるオーブを配ってたな…?)
「も、戻ろうか」
「うん・・・」
この空間はたぶん、92才のジジイに盗聴されている。余計なことは喋らずに出よう。
「レインくん」
「ん?」
出口に向かう途中、リリアが語り掛ける。
「ミツキちゃんのこと」
(!)
「私、大切な友達だって思ってるから!」
「ああ!」
曇りのない笑顔。無数のヴェスパと戦い続けたであろう彼女だが、その中でも例外・・特別な存在ができた。
その想いは確かなものに違いはなかった——
AI非使用




