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ヒトの骨格を持つ蝿の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ/GQもん
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意

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第45話. ようこそエオルーンへ

 3年前、アストリアにおいてその一国”シルベニア“を拠点としたとされる、ヒト型のハエの魔物”ヴェスパ“

 そいつらは瞬く間に繁殖・侵略し、アストリアの13の城はヤツらによって陥落させられた

 しかし、今のところアストリア全体が完全に滅びきったわけではなく、末端の町や村はなんとか生き残っている国も少なくない。


 それは、リリアの魔法により生み出すヴェスパの特攻となる”銀の焔“の存在と、瘴気が充満する土地を除くアストリアの各地に火種がなんとか届けられたからだ。


 授業によれば、武と剣の国、屈強なシルベニアをたった一晩で陥落させたという程の魔物だ。リリアの銀の焔がなければ、アストリアの人々は3年も保たずに一方的に滅ぼされているらしい。

 

 火種を各地に届けるのは、命懸けの仕事になる。虫と戦う覚悟と強さがなければ、激戦区となっているであろう場所に届けるなど到底できない。だから、ヤツらと戦えるようなバケモノ級に強い戦士や魔導士がその役割を担う。


 そして、その功績の頂点の1人が、いま俺たちの目の前にいる。

 ゼルディッシュ=レオングラム──じいちゃんは”剣聖“と呼ばれ、アストリア中に孤児院や教育施設を持ち、大切な人がいない、あるいは失ってしまった子供達が暮らし、教わる場を与えてくれている。


「元気にしとったかの?」

「うん!おじいちゃん!」

 リリアは元気よく張り切った笑顔で返事をする。


「あとで火種の方、頼むの」

「まかせて!」


「それで・・・じゃ」

 じいちゃんは俺とミツキの方に目をやる。

 優しく微笑んでいるが、俺は知っている。


 じいちゃんには、隠し事が一切通用しない。


 人が持つ複雑な意思の力を、まるで透き通った清水の如く、正確に見透かす。


「レイン、お前気づいておったな?」

 白い髭から覗く口元がニイッと笑みを浮かべる。


「『気づいていた』…とはいったい…」

 フィルナス先生は心配そうな表情で俺たちに目を向ける。何のことを言っているのかは、わかった…。じいちゃんには、もうこの時点で全部見透かされている。


「フォッフォッ、そうかまえんでもええよ」

 じいちゃんは、柔らかい表情と声で、明るく笑ってみせる。かなり勘の鋭いミツキも、なんのことかは理解した様だ。しかし、その様子は恐れや強張り、敵対というよりも、俺と初めて会った時の様な、きょとんとした表情をしていた。


 じいちゃんは、ミツキの対面に座り、目線を合わせる。

「ミツキくん、初めまして、じゃな」

「・・・はじめ・・まして」

「わしはゼルディッシュ=レオングラム。ここの子供達を見守っておる、ただのジジイじゃ」


「レインくんは、キミのことを知っていながら、キミを信じておったようじゃの」

 彼女は、まっすぐにじいちゃんの瞳を見つめている。


「“誰かを認めて信じ抜くチカラ“──コレは今は亡きワシの親友にして弟子のチカラじゃが、肉体は死んだとて、意思は誰かに受け継がれる」


「そしてソレはレインくんの剣にも生きておる。どうやらキミにもその意思がどこかで伝わった様じゃな」


 ミツキは不思議そうな表情をしつつ、俺の方を向く。試合の時、いろんな技を使った気がするが、その中には元々じいちゃん自身の技ではないのも含まれている。


「安心するが良い、ミツキくん。わしらはみな、家族じゃ」


(家族・・・)


(・・・)


「レインくん」

 暫くの間の後、ミツキは静かに立ち上がった。


「これ、ありがとう」

 そう言うと、彼女はアミュレットを俺に手渡した。

 自身の正体を隠すためのサポーターとして機能する道具を──


 そして──


 ミツキは自分の意思で、自身の正体、一対の触角を露わにした。


「・・・!」


 俺は知っている。じいちゃんも知っている。その正体を。

 リリアは手で口元を覆い、フィルナス先生は絶句している。


「剣聖様、いったい…!」

「ヴェスパ、じゃな。女の子の」


 じいちゃんは立ち上がると、ミツキの側へとゆっくりと足を運ぶ。


「じゃが、そのヴェスパとしての“本能”は、今やほぼ瀕死に近い状態。わしらと戦う意思も、どうやらほとんど残っていないようじゃ」

 相手の意思を見透かすじいちゃんは、ミツキのことも見抜いている…。


「瀕死・・・」


「女の子のヴェスパはみんな、優れた魔導士の素質を持つ」


「じゃが、それだけに、その脳と心は極めて繊細そのものじゃ」


「なにかのショックでアタマやココロに負荷を負い続けると、異常な繁殖の本能から解放されるようじゃ」


「彼女は…傷ついておる。そこの“デリカシーのないクソガキ”のせいでな。コイツは後でワシがシメる」


 じいちゃんは笑顔で微笑み、ミツキの頭にポンと手を添えた。そして俺の方へと悪戯っぽい表情をしつつ、顔を向ける。


(…やべえ)


「ようこそ、エオルーンへ」

 ミツキとじいちゃんは握手を交わす。2人の表情は穏やかで、その眼差しは朝日の様な希望と輝きに満ちている。

 そして、先ほどまで驚き絶句していたリリアとフィルナス先生も、いつの間にか和やかに微笑んでいた。


──


「おいクソガキ」


”ドンッ“

「いでっ!」

 俺は92歳のジジイに壁ドンされた。


 近い、そして息が荒い。

 いつも優しく微笑む目は大きく開眼し、刺し貫くような眼光で俺の目を見てくる。これは…マジな時のじいちゃんだ。


「あまり女の子を悲しませるんじゃねえ」


「じいちゃん・・」


「いいか、2人きりの時に延々と別な子の話をするのは女の子は嫌がる!そして好きとか言いながらわざわざ直後に”いいヤツ“呼ばわりも相手を傷つける!」


 “風のウワサ”という言葉が頭をよぎる。

 うっかり忘れていたが、じいちゃんは顔がとても広く、精霊のような存在とも親しい。だから、フィルナス先生の風を通して様々な情報を得ている。

 いわば、究極の地獄耳だ…。


「ミツキくんは優しいが、これ以上カスみてえなムーブ続けてるとマジでいつか八つ裂きにされるぞてめえ。あまり女の子を舐めるな」


「ご、ごめんなさい・・」

 じいちゃんが言うと何故か凄まじい説得力…。思わず俺は謝る、ていうかそれしか選択肢がない。

 あの時、リリアの話のきっかけはミツキだったような気もするが、しかし途中からリリアの話を俺自身がし続けていたのは、否定できない。それも見越してじいちゃんはブチぎれている。言い訳したら、俺は“ホンモノの百烈剣”を食らうことになる。


「ふん」

 謝ったのち、俺は解放される。


「しかしレインよ」


「お前さん、鍛錬がぜんっぜん足りんの。そのくせ一丁前にふんぞりかえっとりゃせんか?」


「え・・・」


 強くなるための訓練──

 ピコラスと毎日練習を重ね、最近はミツキとも練習をしているが、それでも足りないようだ。


「こいつをやろう」


 じいちゃんは、俺にオーブのようなモノを手渡す。コレは魔法道具だ。どこか決まった場所に転送されるタイプ、移動できるものだろう。


「今のお前さんはFランク、それもダブルマイナス!やる気があんなら毎日来いや」


「ワシの弟子には、お前さんより100万倍つえーヤツがゴロゴロおるぞ?」


 そう言うと、じいちゃんは背を向け、皆の方へと去っていった。コレがどこに行けるものなのかは、何となく察した。

 とにかくひたすら誰かと戦って強くなれと、そういうことだ。

AI非使用

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