第44話. 職員室呼び出し
放課後 職員室──
(これは…束縛の意思…!)
ボクは思わず子供達が書き込んだ答案用紙の上にコーヒーを吹きそうになってしまった。
なんとかとどまったが、軽くむせこんでしまう…。
ボクが風の魔法で感知したもの、それは“束縛の意思”だった──
コレは、相手に対する自身のワガママな欲求を通し、自身の所有物としてしまうような意思…。
束縛の意思が原動力となる魔法は、相手の動きや行動を封じたり、極めて高度なものだと条件を満たせば意のままに操ってしまうようなものが並ぶ…。
極端な話、相手を“ペット”として認識して強引に従わせる様な、キケン極まりない意思だ…。
(おいおい…うちの敷地でいったい何が行われているんだ!?)
(──っていうか、リリア…あの子人畜無害そうに見えて実はそんなエグい子なの!?最近の子供怖・・。逃げたい・・・自由になりたい・・・!)
予想の斜め上を行く結果に思わずボクは頭を抱える──
すると…ヒソヒソとなにか聞こえてくるではないか。
(フィルナス先生、また今日もやばそうですね)
(ほら、先生のクラスの子が最近付き合い始めたって)
(あ〜、ウワサの…?)
(しかも、結構厳しい子らしいわよ)
(厳しい…?)
(ソ・ク・バ・クよ!)
(え・・・子供でそんな事ってあり得るんですか?)
(今の子なめちゃダメよ。まーでも、毎日学校に居残ってるフィルナス先生も見習えばいいのに。しつけの問題よねきっと)
(ちょっと、本人に聞こえちゃいますよ)
(全部ボクに聞こえている!)
他人事だと思いやがって、流石にそろそろボクも見ているだけとはいかなくなった。
というか、今日はとても重要な任務がある。どのみち、関わらなくてはならない。
翌朝──
(困った…)
教室にたどり着くまでの廊下、わたしはそれ以上足を運ぶ事ができず立ちすくんでいた。
そこには、昨日自身の正体を暴いた風の魔法…ところどころに、見えづらいがいくつも設置されている。
触れればその度に正体を明かし、それを置いた主へと意思の力の情報が伝わってしまう。
「ん、ミツキじゃん。どした」
(なんだか少し元気がない?)
「あ…」
レインだ、彼は私の横に立ち止まり、暫し辺りを眺める。わたしにとってのトラップが存在する空間を・・。
「あー、昨日のやつか。先生だろうなこれは」
「・・・」
「このままじゃ教室いけなくて困るだろ。そうだな・・」
(教室・・・・・・)
彼は荷物から何やら取り出し、わたしに差し出す。
それは、透明な水晶のような宝石がつけられたアミュレットだった。
「それは…?」
「サポーター。俺みたいに魔法が苦手なやつ用の」
「わたしは・・・」
「知ってる。俺よりもずっと魔法が得意なんだろ。でも、これはたぶんミツキが隠してた種類の意思の力とは逆さまの、"自由の意思"でできている」
「自由の意思・・・」
「だから、ミツキも"自由の意思"を使って隠せばたぶん反応しない。『子供の意思はワイルドカード』、ミツキの性格は、どっちかっていうと自由だから、適性はあると思うよ。それ、つけなくっても持ってるだけでもサポーターとして効果はあるから。ためしてみなよ」
わたしはは彼からアミュレットを受け取る。
「・・・」
わたしは、それを握りしめ、彼の言われたように試してみる。今まで自分にとって当たり前だった意思が、別な意思に置き換わった。しかし、どうやらわたしの正体は隠せている。彼以外には・・・。
そして——
何事もなく通過することができた。昨日みたく、どうやら正体をさらけ出す様子はない。
「よかったじゃん。それ貸しとくから。じゃあ、またあとでな」
そういうと、彼は先へといってしまった。
(・・・)
(わたしは、いったいなにをしているんだろう)
(あの子には、もう正体をバレてしまった。人間の中で溶け込んでも、それは元に戻るわけじゃない。わたしの目的を果たすには、もうあの子を傷つけるしかなくなる…)
(わたしの目的…わたし自身の居場所…)
わたしは昨日、彼に言われた言葉を思い出す。
(人間に"好き"だなんて、初めて言われた。しかも正体がバレていながら…)
(もう一度・・・言ってほしい。”いいヤツ”なんかじゃなくって、ちゃんと・・・)
教室──
「レインくん、なんか雰囲気変わった?」
「・・そうか?」
俺の隣でリリアが釘を刺すように。彼女は昨晩は好調だったみたいだ。いつも通りの姿に安心させられる、がマナを読み取る能力も冴えわたっているのか、空気からなにやら感じ取っているようだ。
そして、いつもは明るくちょっかいをかけてくるミツキが今日はやけに朝から大人しい。今度はまた違った本"アルテア王国史"を読んでいる。あと炭酸飲料が増えているような…いったいどうした。
「別にいつも通りだと思うけど?ね、レインくん」
ミツキがリリアに対し、本に目を通しながらポツリとつぶやいたように言う。
「あ゛〜〜!?」
(こらこら、銀の焔にさらっと油を投げ込むな)
「まぁまぁ落ち着いて。ルドくんにかっこよく描いてもらうために雰囲気イメチェンしたんじゃないの?」
ミツキは本を置いて、隣で間もなく出来上がる次の大作に目をやる。
「できましたっ」
「!!」
(上手い・・・!)
それは、以前依頼された、俺とリリアの絵だった。これは随分と気合が入っている。彼女は機嫌を反転しキラキラと目を輝かせていた。おそらく、絵にも意思の力は宿るのだろう。彼はしかるべき環境で修行すれば、そういう方向性の魔導士も目指せそうだ。ヴェスパが蔓延っているのが残念だが、アストリアのどこかには、きっとそういう場もあるだろう・・。
(・・・)
(あの子たち、仲がいいのか悪いのか・・・)
その休み時間中、教室の奥で沸き合う4人の様子を、若草色のローブを来た教師、フィルナスが眼鏡越しに遠目で観察していた。
(あの気質なら仲良くよろしくやっていけると信じてはいる。ただ、こうしてみると、感情の波が大きそうで、ボクも少し責任を感じてしまう)
(まぁ、今日は、彼らの関係を確かめるいい機会だろう)
そして放課後——
「あの、レイン君。フィルナス先生が3人とも職員室に来なさいって」
「え゛・・・」
エオルーン魔導学校 初等部 職員室 応接間──
——リリアとミツキ、そして俺は、突然フィルナス先生に呼び出されてしまった。
職員室の奥、応接間に待機するように言われ、俺たちは立ちながら先生が来るのを待っている。
豪華な応接間だ…古の勇者が討伐したらしい、ドラゴンのような大きな魔物の骨に、大きく切り出したごつい宝石。煌びやかなインテリアの数々だが、ここで怒られると、けっこうへこむだろう。
(・・・!)
扉が開き、入ってくる。フィルナス先生だ。
「座りなさい」
そう言いながら、先生はお菓子と飲み物を運び、差し出してくる。これは、ミルクいっぱいのコーヒーだ・・・。そして与えられた者が思わず特別であることを感じさせられるという噂の、もらえるとちょっと嬉しいお菓子・・。
(・・・?)
先生・・なんか、俺たちの様子をみているような・・。
リリアとミツキは、笑いながらお菓子を分け合っている、この二人はしばしば喧嘩しているように見えて実はなんだかんだで仲は良いのだろうか。
(・・・この3人からは"束縛の意思"は感じない)
(——さて、本題に入るか)
「今日は、君たち3人に会いたいという方がいます」
そう告げると、フィルナス先生は、俺たちに向かい滅多に見せない笑顔を見せた。
先生は扉を開け、その者を丁寧に招き入れる——
圧倒的な、異様な気配・・・。
(まさか——)
現れたのは、白髪の小柄な老人だった。その腰には、俺と同じ種類の武器、"ショートソード"を携えている。俺のものよりも遥かに研磨された、最強に相応しい"ショートソード"だ。
「久しぶりじゃの」
「じいちゃん!!?」
無邪気に、朗らかに微笑む老人は"ゼルディッシュ=レオングラム。俺を拾ってくれた人だった。
AI非使用




