第38話. 運命の席替え
ダーツでひとしきりフラストレーションを発散したボクらは、BARのカウンターで一息ついていた。
カラフルなボトルが立ち並び、そこから選ぶものも、お気に入りがある。
"カンノッキアーレ"
フルーツの添えられた黄金色のノンアルコールカクテル。
甘いけど自己主張はなく、スッキリさっぱりしている。ただし、カラボラという希少なフルーツが必要で、いつでも口にできるわけではない。いろいろと水に流したい今の気分にも、あっている。
「——それはそうと」
アネットが切り出した。
(来た・・・)
「うまくいったの?この間のことは」
先輩は、心配そうに、こちらを見つめる。
(・・・)
ボクは俯き、暫く沈黙してしまう。
言葉がみつからない。吹っ切ろうとするかのように、カクテルを飲み干す。
("庇護の意思"・・・最初は大嫌いだった。でも今は——)
「もう・・いいんです」
「・・・・・・フィルナス?」
(全くもって、痛感させられる)
「全くもう、先輩はボクまで退場に持ち込む気ですか」
「いえ、そういうつもりは無かったのだけれど…。あなた、あの子と住んでもう長いし」
("庇護の意思"に生きる人は・・・)
「…いくら気持ちを伝えようとしても、どうにもならない相手はいる──と言うことです」
「フィルナス、あなた・・・」
(とことんお節介焼きで、そして——)
「『子供の運命は子供達が決める』…そしてそれはボクら自身も同じ、自由な意思に従います」
(優しすぎる)
「・・・」
「──そろそろ、行きましょうか」
──
エオルーン魔導学校 初等部 第三教室──
「それでは、順番に並んで、1人ずつお願いします」
フィルナス先生の前には、三角に折り閉じられた沢山の小さな紙が大きなカプセル状のケースの中に舞っている。
これは、"くじ引き"の機械。その奥には、席の並びと、それに対応する番号がずらり。
俺たちの運命を変えてしまうかもしれないイベント——席替えだ。
俺たちは並びながら、一人づつくじを取っていく。
そして——
(前とおんなじ場所かよ!)
俺はとっとと戻り、もといた窓際の後ろの方の机に腰掛けた。別に何かを期待したわけではないが、いろいろと手間が省ける。
歓喜のマナに絶望のマナ、皆が席替えの結果に一喜一憂している間、窓から外を眺めていると──
俺の後ろから、声。
「レイン君…!」
「お、リリア」
後ろを振り返ると、杖を抱えながらくじの紙をはらりと落とすリリアの姿。その表情は…嬉しさが溢れているのがわかって、俺も照れくさかった。
席が隣だとわかってこんなにもわかりやすく喜んでくれるのは、こっちも素直に嬉しくなる。
(…いやちょっとまて、流石に出来すぎだろ。露骨に"やった"な?フィルナス先生)
表情には出さない先生…。朝日を返し光る眼鏡の奥で、なんとなくほんの一瞬だけ目があった気がする。
「レイン君!えっと・・あの・・!」
言葉を探しているのだろうか、彼女はなにやらドギマギしている…。
しかしそんな時間もほんの束の間だった。
「はろ〜♪」
「あ゛・・・・・・」
「よう、ミツキ」
「きちゃった♪」
俺の背後の席は、ミツキ=ディアナだ。リリアは茫然としている。人生そう何もかもは、うまくはいかない…なんとかやっていくしかない。
だけど、この位置なら俺がフォローに入ってやれる。この二人は延々と喧嘩しっぱなしというわけにはいかなくなるだろう。
とりあえず、仲良くなることを願う・・。
そして——
「わぁ♪」
「・・・あの、よろしく・・・おねがいします・・」
ミツキの隣には、俺よりもやや小柄で女子みたいな顔をしたマッシュショートの男子が、なんだか小動物みたいにちぢこまっている。彼はルドルス=アドル。素直で優しい、良い奴だ。
「よろしくねっ」
「・・・!」
ミツキは握手するやいなや、ルドルスの頭を撫でている・・。彼女は全体的に、いろいろと距離が近い。
そして、なにやら羨む目でルドルスに向けられる視線。どうも、ミツキは他人を集め束ねるカリスマのようなものがあるらしい。"お姫様のよう"なのは、ひょっとすると容姿だけではないのかも。
彼女にとっては絡む相手が増えたようだが、ルドルスは学校内の戦いにおいては戦闘タイプではない。いじめるようならきっちり止めなきゃな…。
「わ~、ルドくんじょ〜ず♪」
「あともう少しです・・!」
早速、ミツキがルドルスになにかさせている・・。
(・・?これは)
「できましたっ!」
ルドルスは自身の大作を披露して見せる。
(おい、何描かせてるんだ!!)
「じゃ~~~ん」
ルドルスが披露したもの、それはノートに描かれた、ミツキと俺の色つきのイラスト・・。そういえば、彼は絵が上手かったっけか。題材はともかく、かなり上手い
ミツキをお姫様っぽく描いてるのは、性格はアレだがそう感じているのはやはり俺だけじゃなかったか。そして、俺の方は、剣を掲げて勇者っぽく描いてくれていて、素直に嬉しい。
「・・・!」
リリアがそれをみて絶句している。彼の力作はどうにもできないだろう。
「私のも描いて!!レインくんとのやつ!」
「わかりましたっ!」
えっと、俺の承諾は・・。
——
お昼休み。ここ最近、そして今日もだが、俺とリリアは庭園のあの場所で過ごすようにしていた。ピコラスには申し訳ないが、彼はそれをよしとしてくれた・・。
新しい必殺技なんかの話ができるわけもなく、そこまで会話が弾むわけでもない。
でも、とりあえず、傍にいるということがリリアにとっては嬉しいみたいだった。いつの間にか、戦場に呼ばれるまで一緒にいるのが当たり前みたいになってきている。
「リリア?」
「・・・」
また、居眠りしている・・。
だが・・・この日々は、いずれまた限界が訪れるのは目に見えている。
俺は、毎日訓練しているというだけで満足に終わることがしたいわけではなく、ヴェスパと戦って、倒せるくらいには強くならなきゃいけない。
身寄りのなかった俺を育ててくれた、この環境に生きるみんなを、いざという時に守れる存在になりたい。
そのためには、強い奴と打ち合うのが手っ取り早いか・・。
放課後——
「ミツキ、ちょっとつきあってくんね~」
「ん~?どうしたのかな?」
AI非使用




