第35話. 王道の剣技
ミツキ…アイツは調子に乗っている
熟練した構えのように見えるが…。くるくるとレイピアを回しはじめて、まるでオモチャのように扱っている。その動きに緊張感や剣技に対するリスペクトは感じられない。
大方なまじ器用で曲芸みたいな動きが出来るからって、自信を持ってしまったのだろうか。だが俺は実際に毎日一対一の戦闘に明け暮れている。経験も信念もこちらが上…のハズだ。
コイツには悪いが、こういう奴には多少なりとも現実を知って痛い目に遭ってもらった方がいいのかもしれない。
負けるわけには、いかない。神聖な訓練場をこれ以上汚染されないためにも──
とりあえず審判はピコラスがしてくれることになった。
そしてリリアは…頬を膨らませて座りながらいじけている。アイツのことは暫く放っておこう…いま触れると、暴走しそうだ。あんまし刺激すると何をしでかすかわからない。
試合開始の合図とともに、俺は速攻を決めるべく向かっていく。こんな茶番劇は1秒でも早く終わらせるに限る。
──が
(こいつ、めちゃくちゃ速い!)
悉く宙を切る俺のショートソード…“アルタイルエッジ”。
ミツキに攻撃の意思はないのか、向こうからは攻撃はせず、絶妙な間合いを取り、彼女がいた場所に攻撃を当てようとするとひらりとかわされる。
俺が追いつく頃には先にいて、無限に追いつけない感覚を味合わされそうになっている。
しかも、逃げられている、というよりも、見切られているという感覚に近い。
「レインくんに、何をお願いしよっかな〜〜?」
そう言いながらちらりといじけるリリアを見るミツキ。コイツはなかなかいい性格をしている。頼むからコレ以上彼女を刺激するのはやめて差し上げろ。
「ぜって〜逃がさん!」
「ふっふっふ〜、キミにできるかな〜?」
ミツキはにやにや笑いながら、余裕の表情を浮かべる。挑発も戦いのうち、ブチ切れて冷静さを失った方が負けだ。悔しいが、正直いってこの回避性能は認めざるを得ない。
…とは言え、このままじゃ剣技の試合じゃなく、おにごっこだ。
ミツキを制する手っ取り早い方法は──
「む」
そろそろ身を躱すパターンが読めて来た俺はミツキの動きを逆手に取り角に追い込む、そして──
“グランストライク!!”
コレはゼルディッシュ爺ちゃんに教わった技の一つ。
要するに俺の踏み込み含めたリーチ限界までカバーする、力一杯込めた広範囲の薙ぎなのだが、この状況では反撃しなければ負け確定だ。
というか、ここまで華麗に躱すなら、そろそろミツキの剣技も見てみたいという好奇心もあった。
(さぁ、これで逃げらんねー!みせてみろ!!)
「…」
(こいつ!!!)
俺は目を疑った。いや、自分の身体を──
俺のショートソードよりずっと剣身の細いレイピアで角度をつけて受けられている。が、やわらかい。
俺の力に呼応するように、吸収されるようにエネルギーをしなやかに殺されていく…。自信のあった俺の技は、“受け流された”。
自分が信じられなかった、上でミツキを追い込める位置。ムキになって連撃を撃ち込もうとするが──
(来る!)
俺よりほんの早いタイミングで炸裂する、ミツキによる真っ直ぐブレのない、正統派な2連撃。
それには十分な勢いと力が込められている…正統派で理想的な型。
俺はたまらず間合いをとってしまう。が、ミツキの脚の長さを利用した瞬時の詰め寄りがすでにこちらに届いていた。
(まずい…!)
俺は今までピコラスと培った経験を限界まで発揮させて対応する。追い詰めていたハズなのに、ギリギリで、あと一歩で制される限界まで達しようとしている。
ミツキは…はじめて剣を握ったからなのか、なぜ最初からそれを見せなかったのかはわからない…でも。
俺は、夕暮れに重なるその剣捌きをみて、“美しい”──と思ってしまった。
最初に舐めた動きはあったが、それ以外は極めて洗練されている。
まるで王宮に使える騎士のような、長い時をかけて歴代受け継がれ洗練されて来たかのような、正統派の、王道の剣技…。
俺の今までやっていた、我流が入った訓練が遊びだと思われても仕方ないような、本物の、あたらしい世界。
これを見ているともっと強くなれるような感覚がした。
だが、見惚れていると、負ける。
俺は、完全な我流ではない。この動きの更に上を、俺は知っている。
(じいちゃんほどじゃ、ない!)
ほんの一瞬、地に足がつき踏ん張れる瞬間、俺は無駄なチカラを抜き、余計なキモチを沈め、力を込める。
そして、真っ直ぐ目の前で一閃を浴びせようとしてくるミツキの、攻撃のはじまりを見定め──
“百烈剣!!!!”
ゼルディッシュ爺ちゃんが教えてくれた、奥義のひとつ。
教えてくれた本人のホンモノには及ばないが、目にも止まらぬ速さで無数の剣撃を浴びせる技。
のハズだが──
「えっちょっ!?」
(おい!無理な避け方するな!)
ミツキは身体を逸らし、互いに間合いが近すぎたこともあってか、俺も勢い余ってしまう。
俺とミツキは、2人して派手にころんでしまった──
勝敗はナシ…。俺は彼女の連撃をギリギリ耐えた反動と奥義の直後で暫く動けないでいると、誰かに腕を引っ捕まえられた。
「もう行こ…」
リリアの声、試合の最中はみてやるどころじゃなかったが、彼女は涙目になっていて流石に可哀想な感じがした。俺は、何処かへと連行されていく…。
まぁ、いろいろあったが、今日は戦場に呼ばれなかったようで、それはよかったと思う…。
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