第34話. 仲良くして!リリアちゃんとミツキちゃん
昨日、リリアはふらついて顔色もやばくって、体調がよくない状態でも無理して戦場に行こうとしていた。
いくらヴェスパへの特攻魔法が使えるとはいえ、危険な状態。敵にその隙を突かれたら、瞬間的に形勢が逆転してアウトだ。正直、彼女は経験はあっても戦闘のプロって感じはあんましなくって、みていて危なっかしい。
「ひょっとしたら、あのまま無理して戦場に行ってたらお前が帰ってこなくなるんじゃないかって、心配したよ」
「・・・」
「・・じゃー『お前』って呼ぶのやめてくださーい」
(あ?)
「・・・・ごめん」
…急な発言にちょっと驚いたが、ここは喧嘩をおっぱじめるような雰囲気ではない。こちらはあまり気にせず呼んでいたつもりだったけど、向こうからすると『お前』呼ばわりは結構、気に触っていたのかも。
「ふふ、冗談」
すると今度はくすくす笑い始める彼女。
(なんだこいつ…急に態度が)
…なんだかリリアの情緒がわからなくて薄気味悪くなってきた。
二人で黄金パンを黙々と食べる。食べたのはけっこー久しぶりだったけど、こんなに美味しかったっけか。賞味期限内なら伝説級の食料と謳われるだけはある。
リリアの機嫌は良さそうだ。昨日よりか顔色も随分マシになっている。
——もう、俺の役目は果たしただろう。そろそろ行かねば。いい加減ピコラスが待っている…。
「じゃー俺そろそろ・・」
俺は立ち上がり、その場を去ろうとした。
——と、
(なんだ?)
なんかリリアが立ち去ろうとする俺の袖を掴んでいる。
そして、さっき座っていたベンチを片手でぽんぽん、と軽く叩き始めた。
(お、おれは犬か何かか)
仕方なく、俺はそこに座る。
お互いにパンを食べ終えたが、会話はなく、辺りには小鳥のさえずりと、穏やかに風が木々を揺らす音が響く・・。
そして——
やけに気配が静かすぎると思ったら、いつのまにかリリアは居眠りしてしまっていた。
(どんだけ疲れてたんだよ…なんか、徐々に俺の方に倒れてくるし)
いくらなんでも、無防備すぎる。こんなんじゃ、ヴェスパじゃない野良犬にもやられてしまいそうだ。
これまでは、こうやって休むこともままならなかったんだろうか…。
とりあえず昨日はラッキーで戦場にいかなくても良くなったとしても、問題の根本的な構造がよくなったわけじゃない。際限なく増えまくる奴らをなんとかしないと、また同じことの繰り返し。やがて限界が訪れリリアは危険な目に遭うリスクが高まる。もし彼女が危険な目に遭えば、今度こそ人類に勝ち目はない。
(・・・)
目の前には銀色に輝きを放つ焔が揺らめく灯火がある。ここにはこれがあちこちにあり、ここを守ってくれている。最も彼女の心が平生に保てているコトが前提の話だが。
(もしも、俺があの虫どもと戦えたなら・・・)
俺は、銀の灯火から、革の鞘に収められた、自身のショートソード"…アルタイルエッジ"に目を移す。
ここは魔導学校だが・・俺は魔法の適性はギリギリあるにはあるらしいが、それを使うのに必須な”血筋“の素養が魔法に優れているわけではないらしかった。
そういう子もここには少ないわけではない。この学校は、苦手の強要はせず、それぞれの長所や好きな技術を磨くことを、ゼルディッシュじいちゃんの意向で良しとしてくれていた。
俺も毎日剣技を磨いているつもりではあるが、その剣は、圧倒的らしいヴェスパのステータスにいつか届くんだろうか。
やつらは戦闘中にほんの一瞬の隙を突いて、俺たちの武器を奪うという。剣や盾を奪われて、身近な人…大切な人が自分の武器で危険に晒されるなら、いっそ訓練するのなんか無駄だと、武器を置いてしまったやつも沢山いる。本来なら昨日の訓練場も、もっと人がいて良かったはずだ。
それでも、俺は決して自分の腕を磨き続けることが、無駄だなんて思って諦めたくは、ない。
願いの力、魔法を信じているっていうより、毎日の訓練をやめないことが、俺が俺自身たる姿だと思っていたいからだ…。俺の親友、ピコラスだってそう思っている。
最近はみんな悲観的になってしまっていて、もっと色んな人に俺の願いが届いて欲しいが、現実・・・通信端末に毎日届く戦死者や被害のニュースに、皆それどころじゃなくなっている…。
そんな中でも、リリアは凄惨な戦場をその目でみながら、絶望せず、意思の力を絶やさないでいる。
こうして隣で眠っていると、魔法が使える以外は、普通の女の子にしか見えないのに。
リリアは俺の方に体を預けながらすっかり寝息を立てている。
よだれがたれているので紙ナプキンで拭いてあげた。
(あ・・・しまった)
遅れるとだけ伝えて、ピコラスを放置してしまっていた!
放課後——
(さて、訓練に行くか・・)
「レインくん」
「レーイーンーくんっ」
(!?)
いい加減ピコラスに悪いので訓練場に行こうとすると、リリアとミツキが同時に眼の前に現れ、俺を呼び、そしてふたりともフリーズする。
"二人で"用があるわけじゃなく、それぞれが呼んで衝突した形だろう・・。
(・・・)
リリアとミツキが俺の目の前で向かい合い、対峙──そして沈黙。お互いを真顔で見つめ合っている。
メンチを切るというやつか?・・・とりあえず良い雰囲気ではないのは、わかる。
知り合いというよりこれは——
フォローの言葉も見つからず、だるいので、俺はその場を離れようとした。
──が、
「ねね、わたしもついてってもいい?」
と目を輝かせながら訊いてくるミツキ。リリアの方は許可もなくすたすた無言でついてくる…顔は笑っていない。
しかもその様子を皆が好奇の目で見ていて、穴があったら入りたいような地獄のような空気が形成されている。俺はただ、訓練がしたいだけなのに・・・。
(や、やりづれえ・・・)
──
「昼はすまん、ピコラス」
昼食の時間放置して、先に訓練場に着いていたピコラスに俺は謝罪した。
「レイン!?お、おまえ・・・!!」
稲妻にでも打たれたかのような様子のピコラス。
俺の後ろには、目を輝かせご機嫌そうなミツキと、その反対っぽいじとーっとしたリリア。と野次馬の生徒たち。何が起こっているのか、どうしてこうなったのか、わからないんだ・・・。それでも俺は自身の訓練だけは続けなきゃいけない。
「もう、何も、気にしないでくれ。始めるぞ」
相手を傷つけずに訓練をするためのアタッチメントを剣に装着し、俺は構える。
「あ、ああ・・・」
が、無理だった。戦っている間、ピコラスは顔だけは俺の方を向いているが、眼はミツキの方を、ずっと見ている。いったい彼女のどこを見てるのかわからんが、何かのバッドステータスにでもかかったように、全く集中できていない。
「お前真面目にやれよ!!」
「うん・・・」
ミツキは笑顔でピコラスにひらひらと手を振っている。
もう、こいつは完全に腑抜けだ。これでは困る・・マジで訓練にならん。
このままではヴェスパに対抗するどころの話ではない。妨害にきたのかこいつらは。
どうしようもないのでいったん休憩することにした。
「ね~レインくん」
「あ?」
ミツキ・・またお前か、そろそろ俺はキレちまいそうだ。
「このボトルの蓋かたくってぇ〜あかなくって…、レインくんに、あけてほしいな~?」
「・・・。わかった、貸し──」
ミツキが水の入ったボトルをこちらに差し出そうとしたその瞬間。
「・・・ふんっ!」
無言でリリアがそのボトルを奪い取って、力任せに蓋を開けた。
(・・・)
(・・・)
呆然とするミツキ、そりゃそうなるわ。
「あの、リリア、なんか怒ってる?」
「べつに?」
明らかに不機嫌そうに見えるが・・。お昼休みはあんなに機嫌が良さそうだったのに何故…。
「リリアちゃん、仲良くしようよ。よくないよ?そーゆーの。ね?レインくん」
仲良くして欲しいのは本当に思うが、なんか俺もミツキの側にまわってしまうような気がして返答に困る。
ミツキの言葉に、リリアは、すぅ〜っと息を吸い込むと──
「レイン君に、馴・れ・馴・れ・し・く、しないで!!」
ちょっと叫び気味に、彼女から初めて聞くぐらいの音量でリリアは告げる。
空気がヤバい、不穏な雰囲気により瘴気が立ち込めはじめそうだ。
「へぇ〜、あなた、彼の何なのかな?」
「私は──」
「レイン君と、結婚するの!!!」
急に俺の腕を取り、リリアはミツキを睨みながら叫ぶ。
(なんかもう……幼稚園児のケンカかなにかかな…この瘴気みたいな空気で急にそんなこといわれても)
ミツキは呆然とし、辺りの野次馬たちは時が止まったように空気が凍りつく。
“ピシッ”
(なんだ…?)
ミツキが急に片手で頭を抱えている。痛いのか?
「おい、ミツキ…大丈夫か?」
「……………」
するとミツキは、無言ですたすたと歩き始める。彼女は訓練場の、一対一で戦う空間に落ちている剣、レイピアタイプの剣に近づき片足で蹴り上げると、クルクルと回転しながら宙を巻い、片手でパシッとキャッチする。ちょっとした曲芸のようだ。
(結構やるな、あいつ)
相手を傷つけないための訓練用のアタッチメントは取り付けられており、所持すると同時に自動起動──作動する。
「レイン君、わたしと剣で勝負しない?」
「ん?別にいーけど、ミツキは剣使ったことあるのか?」
「はじめて持った」
(は…?)
今見せた芸当は、初めてのものじゃない。この構え。持ち方も、熟練した剣士の佇まいだ。だが何故かウソは言っていないようにも思えた。
「訓練に集中できなくってめんどーだって、思ってたでしょ?」
(ああ、大体お前のせいでな)
「あなた剣が好きなんだよね。じゃ、これでスッキリさせよっか?」
「わたしが勝ったら、なんでも一つ、言うことを聞いて。あなたが勝ったら、わたしも言うことを聞く。どう?」
「いいぜ、臨むところだ」
わかりやすい。訳のわからん一連の流れで溜まったフラストレーションを、発散させるにはいい機会だ。俺は自身のショートソードでそれに応じるべく、対戦場へと足を運んだ。
AI非使用




