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ヒトの骨格を持つ蝿の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ/GQもん
第1章. The Resolve of Freedom’s Amethyst/自由なる紫水晶の決意
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第33話. 学校の中の戦場

翌日——


朝から通信端末には先日の戦死者や先の戦いの追悼のニュースが届けられていた。"いつものことであるべきではない"、いつものこと・・。

 遠くのことだと感覚が麻痺してしまいそうになるが、リリアにとっては肌身で体験している出来事。昨日の出来事もちょっとした歯車がずれるだけで俺達も他人事ではなくなっていた可能性がある。


複雑な想いを胸に、教室へと向かう。


「今日から途中入学することになったミツキくんだ、皆仲良くしてくれ」

フィルナス先生がそう告げると、昨日訓練場で会った不審者…じゃなくて女の子を紹介する。

「あ、あの・・ミツキ=ディアナっていいます。やさしくしてくれると・・うれしいですっ」

(なんか昨日とキャラが違う!)

艷やかなブロンドの長い髪、学校のシンボルである暁——朝焼けをモチーフとした赤と青の制服に身を包み、皆の平均よりは背丈がちょっと上くらいのミツキ。上目遣いで両手をもじもじさせながら喋っているが、昨日のあんたは少なくともそんな奴じゃない。

 彼女はアストリアの文字で自分の名前を板書する。今のぶりっこキャラは無理があるような、もの凄い筆圧で濃い力作が出来上がった…。でも、一生懸命文字を書く姿が男子に刺さったのか、なにやらざわついている。一方女子の反応は…あまり触れないでおこう。


「ちょうど入れ替わりで、レインくんの隣があいているね」

 俺の隣の席は、先月までは別な男子生徒が座っていた。が、彼の義理の親の関係でいまは空いている。生徒の入れ替わりや、途中で会えなくなってしまうことは、ここでは決して珍しいことではない。そしてそれは近くで戦闘があるたびに、頻繁に起こる…。


「昨日ぶりだね、レインくん」

「ああ・・・」


ミツキは俺の隣に来ると、なにやらこちらに手を差し出す。

(握手…?)

ムシするのも悪いので、返しておいた。繊細で、器用そうな手だ。


その後で気付いたが、一番前の席の、リリアがこちらを横目で見ている…。

(なんだ…?)

あいつ、最初は俺の方を見ているのかと思ったが…どうやら、リリアの視線の先は、ミツキを見ているように思えた。

最前列のリリアと距離がありながらも見つめ合い、しばらく真顔のミツキ…だが、なにかに気づいたかのように彼女はニッと笑った。

(知り合い…なのか?)



——



午前中の授業の休み時間の合間の時間、次から次へとひっきりなしにミツキの下へと生徒がやってきて、気づけば人だかりができていた。

 始めは訪れるのは男子ばっかりだったが、次第に女子もやってくるようになっている。そしていつの間にか、俺の背後の一番後ろの席でいちいち俺にくだらんことをつっかかってきていたキャスティとも仲良く冗談交じりのトークを繰り広げている。もはや、最初の黒歴史っぽいぶりっこキャラは使わなくなっていた。

 ミツキ・・どうやら彼女はかなり社交的なようで、あっという間にクラスに溶け込んでしまった。これだけ明るいと、朝の憂鬱なニュースも忘れてしまいそうになる。


お昼休み——


ミツキは図書館を案内してほしいと生徒に告げると、みんなが護衛するように彼女を取り囲んで、消えていってしまった。図書館の場所を伝えるなんてどう考えても、一人で十分なように思えるが・・。


「レインくん」

人口密度が大きく減った教室、そろそろピコラスと昼食をとりながら昨日編み出した新技の技名について語らい合う予定だったが——俺の眼の前に立っているのは、リリアだった。

「こっち」

俺は手を引かれ、どこかへ連れて行かれる。どこへ行くのかわからんが、ピコラスには遅れることを伝えておこう・・。


「うっ・・・ここは」

「お願い」

そう言うと、リリアは俺に小銭をわたしてくる。

ここは・・・。


校内のパン屋『えいゆうぱん』——お洒落な店内に様々な創作パンが、香ばしい薫りと共に並んでいる。…だがここはまもなく戦場となる。一秒一秒ごとに立ち入る生徒が増えていく。


そして——


"ドドドドドドドド"

人の波が一気に押し寄せてくる——


「ほーらこどもたち!!できたよ!!はい、並ぶ!!!!」

からだの大きなおばちゃんが、叫びながらたくさんのパンをのせたトレーを運んできた。

あらかじめ決められていたかのように列がつくられ、室内は曲がりくねった行列と化す。


"アルテア黄金パン"——


アルテア王国の特産品をふんだんに使った、パーフェクトな配合の完全数量限定の焼き立てパン。賞味期限は20分以内だが、伝説級の食料として、学校外からも極めて人気が高い。


厄介なのが、列の並び場所をあらかじめ決めておけばいいものを、焼いてもってくるおばちゃんが毎回ランダムな位置に現れるため"毎回ダンジョンのように違った列を作る"という事。即座に並び、立ち止まらずに進まなければならず、モタモタしたり、列の構造を把握できずにいるとギルティとして黄金パンガチ勢の人たちに烙印を押されてしまう。俺は即座に並ぶことには成功、あとはパンを回収した後、荒れ狂う人の海のなかでトレーの上のパンを守り、会計までたどり着かねばならない。


「あいよっ!」

——おばちゃんが特別なパンをくれる、賞味期限は20分だ——

(よし!)


なんとか、ギルティせずに1人分が取れる数量限界、2つ分の黄金パンを回収することに成功した。あとはヘビのようにうねっている列を正しくすすんで・・・。


「うおっ」


隣の、多分学校外のおっさんが列の進みを間違えて、俺の方へ飛び込んできた!

パンが宙を舞う・・まずい!


「くっ・・・・・・!」

俺は腕を限界まで伸ばし、トレーの前はじギリギリでパン2こをキャッチした。落とすわけには、いかない。


(あぶねえ!!)


あともう少し——


のはずが、


「おわっ!?」

今度は眼の前の女子生徒が急に立ち止まった。俺はたまらずつっかえてしまい、パンのうち一つがふっとび遠くへ舞う・・・!


(ぐぬぬ・・・・・!)


流石に遠い、厳しいかと思ったその時——!


"スパーン!"

(!!!)

パンがこちらに帰ってきた!どうやら、トレーで誰かが打ち返してくれたようだ。


弧を描きこちらへ返ってくる黄金パンをトレーの中心で無事キャッチする。助かった・・・。

(サンキュー!)


「おまたせ」

「ありがとう!」

なんとか守りきったパンを片手に、俺は店の表で待つリリアのもとへと戻る。数々の戦場を巡ってきている彼女でもこの店で買うのはいろいろな意味でキツいだろう。早く並び順を固定してくれ。独特すぎるルールを、皆楽しんでいる。


「こっち来て、レインくん」

リリアは俺の袖をひっぱると、またどこへやら先導する。

今度はいったいどこへ行くというのやら・・。


 そこは学校敷地内の庭園にある、木陰と陽だまりのバランスが絶妙な、ベンチのある空間。すこし入り組んだところにあり、静かな空間に小鳥がさえずっている。お気に入りの場所なのだろうか・・今の彼女にはさっきみたいな戦場よりも、こういう落ち着いた空間のほうが、良さそうだ。

 パンを手に座るリリア。まだ午後の授業までには時間がある。俺も少し休みたいので、腰掛けた。


「レインくん」

「ん?」

「昨日は、ありがとう・・」

AI非使用

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