第32話. わたしが見つけてきがついた
ヴェスパとの毎日の無理な連戦続きで、奴らと唯一まともに戦える魔法を使える子…リリアは疲弊している。
しかし彼女が戦場にいなければ、戦場の者達はうまく戦えない。そして、この学校は危機に陥る危険が増す。
担任教師であるここでのボクの決断で、運命が大きく変わってしまう気がする。
[リリアの決断に従う]
[アネットに相談してみる]
[勝手なことぬかすな、とレインを叱る]
[・・・]
(ボクは…)
「・・・」
沈黙が流れる。
普通の感覚を持っていれば、行きたいわけがない。聞くまでもない。
疲弊しているのが明らかなのに、戦場に送り出すのは、それはリリアを兵器として扱っているのと同じだ。それをレイン君は…"何故彼が…”なのかは今は置いておくにしても、どうやら見抜いている。
彼女が戦場に行かなければ、と強く言うのは、最早それは教師としての言葉ではない。
そして、彼女の体調の変化を、あの虫たちは見抜く。一瞬でもなにか隙があれば、突いて、利用してくる。
最後の希望というカード・・。それがふとしたきっかけで裏返ると、人類にとって絶望的な致命傷となりかねない・・。
これは簡単な選択ではない。
「あっ」
リリアが持つ通信端末への着信音。
「・・・」
「えっと、私の火を継いだ人たちが、なんとかやってくれたみたいだから今回は大丈夫だって」
"銀の火継ぎ"──。
リリアだけが使えるヴェスパへの特攻である"銀の焔"。その焔から火種として分け与え、各地へ拡散し、それを応用した武器を使うことでリリア自身ではなくてもある程度虫と戦うことはできる。
ただし、異常な素早さと反射神経を持つヴェスパに火を命中させることが必要で、負の感情が充満することにより生じる"瘴気"によってその火が消えないことが、銀の火継ぎによるヴェスパ討伐の条件となる。
リリアとアネットは、戦ってヴェスパを倒すだけでなく、現地の者が自身でも戦えるように、新たに足を運んだ戦場で銀の焔を分け与えることも目的としていた。
そして今回は、前回足を運んだ戦場──オシウス砦のクレナやヘラルドたちに分け与えた銀の焔をうまく使った兵士が、敵の小数残党の報復を返り討ちにすることに成功していたようだった。リリアとアネットがもたらした奇跡的な勝利により彼らの士気は上がり、その後も銀の焔は消えずにいた。
「リリア、キミの体調は万全ではない。アネットには、ボクの方から言っておくよ。出来ればキミからも、伝えてあげるといい。そして、今日はゆっくり休んでおいで」
「よかったな」
レインはリリアに対して、朗らかに笑いかける。すると、教室を後にしてそそくさと何処かへ行ってしまった。
──
「じゃ、いくぜ」
「あいよ〜~」
放課後、俺は外の訓練場で相棒の“ショートソード”を構えた。毎日手入れは欠かさず、銘は"アルタイルエッジ"と俺が名付けた。
そして、俺の目の前で構えるのは孤児院で一緒に育った同い年の親友"ピコラス"。その相棒はロングソードだ。俺よりも二回りくらい背が高く金髪で髪を束ねている。ちょっとダウナー気質だが、意外とガッツもあって、いつも遅くまで俺と剣の練習に付き合い続けてくれるやつはそうはいない。
剣の練習は、最近は技術がえらい進んでて、魔法道具の特殊なアタッチメントを武器に装備することで、相手を傷つけずに存分に行うことができる。ただし傷つかない程度の軽い衝撃だけは伝わるから、命中したことはお互いにわかるようになっている。
ヴェスパの対策というより、昔から楽しくてやってる。もちろん文字通り真剣。技名を互いに叫びながらではあるが…なんだか技と想いを声に出すと、ホントに威力が上がる気がした。日々続けることで、徐々に洗練されていく気がする。
レインとピコラスが剣を交わす中、木陰からちらりと覗く影。
(・・・)
(みつけた)
(・・・)
「ん?」
「どした〜?レイン」
俺は剣を止める。
「誰かの視線を感じる——」
「あ~~?今日ノッてんな~お前」
(そーゆーごっこ遊びは嫌いじゃないが、これはちがう!)
「いやちげーよ、確かに…」
「…?」
日も暮れてきてキリもいいので、ピコラスは軽く挨拶し先に寮へと帰っていった。
(たしかこっちだった・・)
訓練場の、学校と反対側にある木立。
俺は木が立ち並ぶ茂みの方へ足を運ぶ。
誰もいない・・気のせいか。
(ん?)
戻ろう、と辺りから視線を切った瞬間。俺は見逃さなかった。
目の前のケヤキの木の幹を挟んで、誰かがいて、シュッと隠れた。
俺は幹の反対側へとまわろうとそれを追いかける。
・・・が、こいつ逃げよる。
絶対に幹の奥側にいるそいつの姿を捉えようとするが、なかなか素早い。
「ちょっ、・・・おい」
一瞬、影だけちらつかせてまたシュッと消える。
俺の心を読んでいるかのように、奴は華麗にケヤキの奥に周りこみ、身を隠す。その身のこなしは、軽い。
ふざけたヤローだ。出て来いと叫びたいが、こんなとこで怪しいヤツに俊敏さで負けるわけにはいかん。
俺はいい加減ムキになってきた。剣技の必殺技を使うときのステップを応用し、最小限の小回りをきかせ、一気に本気で回り込む。
——とみせかけて素早く反対側へ!
「わっ」
「いっ!?」
俺はそいつとギリギリ衝突しそうになった。
(女子・・・!?)
そこに驚いた表情で立っているのは、さらりとした長いブロンドの髪に、赤と青のフード付きの学校制服に身を包んだ女の子。
俺より少し背は高い。神秘的な紫色の宝石のような瞳。・・顔だちや容姿も、絵本や童話から飛び出してきたようなお姫様のそれみたいで、なんだか現実離れしている。
「・・・」
(なんか言え!)
「見つかっちゃった」
(いや、けっこー前からみつかってんだよ!)
その子は両手で顔を覆っている。どうやら態度もふざけているようだ。
制服を着ているということは、ここの生徒だろうが、俺はこんな子のことは知らない。
「えっと、君は・・」
初対面だからだろうか、いざ話そうとすると、俺は自分が緊張していることに気づいた。
「わたしは"ミツキ"」
「あしたからここに通うことになったから、よろしくね!」
「あ、あぁ・・・俺はレイン、よろしくな」
ミツキと名乗った子は、ニコッと笑いかけ、スキップするように学校の方へと消えていった。純粋な笑顔・・・。まぁ、変な奴だけど、悪い奴ではなさそうに思える。
明るく振舞っているように思えたが、ここに入学するということは・・・おそらくだが、"親がいない"。そして魔法への適性があるということだ。この魔道学校に入るのはそれだけが条件。俺を拾ってくれたじいちゃん、この魔道学校を建てたゼルディッシュじいちゃんは、大切な人がいない子供たちをそれ以上ふるいにかける意向は加えなかった。もちろん、魔法の適正のない子の場合でも、じいちゃんは、沢山の養護・教育施設をもっている。
(そろそろ帰るか…)
ピコラスも帰ったし、とくに学校でやりのこしたこともないし。武器の手入れをしないといけない。俺は寮へと戻った。
——
(間違いない、"本物"だ…)
(ほんとうに、とんでもなく、けた違いにすごい——。だけど、まだきっとだれも、その価値に気づいていない)
(わたしが一番最初に見つけて、きがついたんだ・・)
AI非使用




