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ヒトの骨格を持つ蝿の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ/GQもん
第0章. The Engagement of Steady Diamond/揺るぎなき金剛石の約束
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第29話. 揺ぎ無き金剛石の約束

"グレート・ダイヤモンドジオード"——


"ピシッ"


マナにより磨き抜かれた、輝きを放つ巨大な結晶が織りなす空間。

そこに訪れた、アリシアの左手の薬指に煌くもの。


ノクティーヌは、それを見て、その意味を理解すると、彼女の脳髄の奥深くで、何かがひび割れるような感覚を覚えた。

それと同時に、ヴェスパとしての奥底にある何か本質的なものが音を立ててガラガラと崩れるような感覚——


「ハァ・・・ハァ・・・なんだ・・・この感覚・・・頭が割れるような・・・」

突如息を切らすノクティーヌ。唇を噛み標的を見定める。


(あの女・・・恐らく私と同じように、覚醒している!)

(だが、条件が同じなら、城に瘴気が出来上がっている分、私の方が有利な筈・・・!)


彼女は片腕を振りかざすと、鋭利で攻撃的なフォルムの結晶──漆黒の剣を創り、振りかざす。

そして、標的…アリシアへと身を繰り出した。


(直接貫けば、関係はない!この女は終わり・・・これで!!)


「あなた」


「なんかわかんないけど、随分と魔力の出力が落ちたわね。会った時より弱くなったんじゃ──」


「うっさい!!!その減らず口を"否定"してやる!!!!」

(コイツの言うことは戯言!私は"否定"の力に間違いなく覚醒している!圧倒的な性能の能力を行使して、コイツの大事なものも全て奪う!!)

敵意を剥き出しにした漆黒の剣が標的を貫かんと、アリシアに鋭く襲い掛かる。


アリシアは胸いっぱいに貯めていた息を、深く吐く。


そして、静かに目を見開いた。


"気丈なる金剛石の一撃(ダイヤモンドスラム)!!!!"──


広いジオードの端まで響き渡る桁外れの衝撃。ノクティーヌの黒き剣は粉々に砕け、アリシアの拳はノクティーヌの腹に炸裂した。

 拳を振り抜き、凄烈な勢いで、それを弾き吹き飛ばす。アリシアはすぐさま脚に力を入れ、硬い結晶の地面を思いっきり蹴り弾いた。

 衝撃により吹き飛ぶノクティーヌは、ジオードの中枢にある祭壇と防壁をつなぐ"光の柱"を飛び越え、行き着く先の頑丈な結晶がそびえる果ての壁まで一瞬で運ばれ、背中から激突する。


そして、


追いつく——


アリシアはとん、と着地すると、再び拳を握りしめ、ありったけの意思を集約させた。


「おやすみ、ノクティーヌ」


溢れる想いが駆け巡り、その全てが力に替わる。

腰を深く落とし、ノクティーヌの腹部を目掛けて——


"揺ぎ無き金剛石の平穏ダイヤモンド・セレニティ!!!!!"——


——大地に響きわたるほどの衝撃。ジオードの最奥にあたる巨大な金剛石の結晶の壁に、放射状の亀裂が入る。一撃でありながら、それは徐々に深さを増し、最奥の壁一面にわたって深く刻まれた。


それを食らい、亀裂の中心にいた者は、完全に沈黙した——



そして…


長い長い、祭壇への階段を私は昇る。


アイツ・・ノクティーヌを倒しても、やはり地上の混沌の連鎖は止まらず、瘴気は時間とともに着実に濃くなっている。

このジオードは条件を満たしたことでもう既に封鎖されており、自らの意思では此処から出ることは叶わない。


でも、彼は、必ず来る。


伝えるべきことを伝え終え、私は眠りにつく——


彼との揺ぎ無い"約束"


そしていつか私たちで取り戻す、平穏な日々を信じて——



——



シルベニア城 港側——


「地震…!?」

誰かの、聞き覚えのある女性の声…


(・・・)


(ここは…)


「スターユさん!気が付いた!!」

「スターユ君!」


俺は、仮設の救護室のベッドに横たわっていた。化け物と戦って、最後の力を振り絞って・・・そこからはよく覚えていない。

 目を開けると、そこにはクラウとリュクスが顔を覗き込んでいるようだった。そして隣には治療を施され、横になっているレオニウス先生とその家族。俺も、なんだか全身ぐるぐる巻きにされており、自由に動けない。そして、右眼ごと覆われているようだったが、左眼で見渡そうとすると、沢山の人たちでごった返している。ぎりぎり動く片手で通信端末をちょっぴりのぞいてみると、なんだかすごい数の連絡が届いている。なかには・・・・アリシアのも。そしてどうやら避難の方は、随分と進んでいるようだった。普段あんまり声を張らないリハルが大きな声で誘導している。


「大丈夫、じゃないですよね…」

赤茶色の束ねた髪と厚い装備に身を包んだ女性騎士、クラウが顔を覗き込みながら、心配そうな顔で言う。

 痛いけど、俺はとりあえずしゃべれることを伝えた。

「スターユさん…その、アリシア様は…」

俺は、アリシアに関することを、信頼できるみんなに可能な限り伝えた。

 彼女が選んだ選択…。それは、防壁が剥がれる直前までこの国の人を限界まで守りぬいた後、封鎖されたジオードで長い眠りにつく。そして、俺たちが新しく力を手にして、再び挑み、虫どもを倒し瘴気を吹き飛ばすことを信じることだ。それができれば、再び最奥を開けるための道筋が見えてくる。


だけど、敵の頭を倒しても、その後、殖え続け侵略してくる無数の虫を屠る方法…その手段が、今の俺達には足りていない。


ひとまずは、今は生きている。全力で探せば、必ずチャンスがあるはずだ。


この世界のどこかに、それを成し遂げるための手段が、きっとある。


「スターユさん、私見ました」

と、クラウ。

「みた…?」


「とんでもなくでっかくて悪魔みたいな化け物を、王女様を必ず迎えに行くって叫んで、一撃で倒した瞬間を」

クラウの言葉にリュクスとレオニウスが何やら反応し、こちらを向く。

俺がギリギリ覚えている記憶…夢中で気づけなかったけど、クラウもあの場に駆けつけて来てくれていたとは…。


「それ」


「私たちも、同じ願いです。もちろんアリシア様への想いはスターユさんには敵いませんけど。──みんなで、叶えましょう」


クラウがそう言うと、一同は俺を囲い和やかに、柔らかく微笑む。

「みんな…」


「だから、途中で一人で無茶して死んだりしたら、ダメですよ?」


「スターユさんに憧れて遠くからこの国に来た人もいっぱいいるんですから。私も含めてね」

クラウはそう言ってはにかんだ笑顔を見せる。


そうだ、願いの力は、共通の同じ願いなら、一人よりも多い方がきっと強い。

諦めるわけにはいかない——



——



・・・




・・・




ここは・・・



長い長い、眠りについていた気がする。


どれだけ時間が経過していたかわからないけど、私自身の身には、どうやら何事もなく、とくに変わった様子はない。


ただし、奇妙な植物のようなものが体をつかみ、繭のようなものが身を覆っているようで動きづらい・・。

うっすらと、かすかな隙間から前の様子がみえる。


そこには、"あの人"の亡骸・・・・。時間は、結構…経っている・・・・・・。


それと、


「ふ~~~」


声。


「しっかし、すっげー数じゃのお」

老人の声だ。やわらかい、穏やかな、いかにもおじいちゃんらしい声。

隙間から覗いてみる。


それは、白い口髭を蓄えた、背丈の小さな老人・・。


その周りには、おびただしい数の、異形の虫の化け物の死骸が床を埋め尽くすように大量に転がっている。

それぞれの虫には、まるで荒れ狂う刃の暴風にでも遭遇したかのように、無数の切り刻まれた痕がある。


「さすがにワシひとりじゃと、かろーし、してしまうわい」

老人はそういうと、とんとん、と自らの肩を叩く。その片手には、一振りの剣が握られていた。


あれは・・・。


あの人・・・"エリック"が冒険者になって、初めて買ったものと同じ種類の剣。


"ショートソード"——


エリック・・・せっかく買ったけど、この国には剣が強い人が星の数のように沢山いて、結局弓矢を選んだんだっけ。


強い人に教えてもらえば早いのにって、私はあの人に言ったけど…無邪気に弓矢を扱う姿があまりにも楽しそうで、私たちはそのまま冒険をしてきた。


・・・


「待たせてしもうて、すまんかったな」


優しそうな声の小柄な老人は、そう言うとあの人の亡骸に白い花を添え、暫し偲ぶ。


そして、真っすぐこちらに近づいてきて、荷物から取り出す。


厳重に保管された、特別な容器。


その容器の中から取り出したのは・・・"火種"——


銀色に煌き輝く、小さな火。


その老人は、その火を使い、気づくと私の周りは銀色の光に覆われている。


すると、私を取り巻いていた繭や、奇妙な植物のようなものは、みるみると果てていく。


息苦しさが消え、大気が肺を満たす。ぼんやりした頭が、少しづつ覚めていく。


私自身は、その銀色の火に熱さは感じず、ほんのりあったかい。


それは、失ってしまったどうしようもない哀しみに寄り添い、覆ってくれるような、優しくって"親しみ"のある誰かの温もりのようだった。



・・・



私は・・・まだ、生きていける気がした。



第0章 The engagement of steady diamond/揺るぎなき金剛石の約束


おしまい

AI非使用

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