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ヒトの骨格を持つ蝿の魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記  作者: シューゲツ/GQもん
第0章. The Engagement of Steady Diamond/揺るぎなき金剛石の約束
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第28話. ポケットに溢れる大好きな気持ち②

俺は、シルベニア辺境の海沿いにある、小さな孤児院で育った。


院には他にも、俺と同じように、様々な理由で親がわからない仲間が何人もいる。

 仲間と過ごす幼い日々。身長だけはあったが体がひょろっちく、しゃべるのが苦手な俺は、みんなとは上手く溶け込めずにいた。


そんな中、俺に剣を教えてくれた人がいた。


俺の師匠は二人いる。


一人は"アッシュ=グラン"。

 数年前に他界し…この国、シルベニアの国王だった人。彼は"剣王"と呼ばれるだけあって、世界中から剣技を教わるために大勢の猛者が遥々遠くからシルベニアを訪れた。彼は嫌な顔ひとつせず、かつて世界中を冒険して会得した数々の剣技や奥義を弟子たちに分け与えた。俺たちが暮らす辺境の孤児院にも頻繁に訪れ、剣を指導してくれた。

 もう一人はシルベニアの人ではないが、”ゼルディッシュ=レオングラム”という爺さん…。

 爺さんはこのアストリア中にたくさんの孤児院をもっていて、忙しい中何度も俺たちのところを訪れ、直接剣を教えてくれた。その相棒は、剣士を志す者なら誰もが最初に握る剣"ショートソード"。だが、彼が握れば紛れもなく敵なしの、最強の剣だった。

 かなり後になってから自分の特技なのだと自覚したが、剣を交わすと、相手の些細な気持ちがわかる感じがした。きっと、絵描きが他人の絵を見て、その線なんかから込めた思いを読み取る様なものに近いのかもしれない。

 ちょっとした怒りをぶつけようとしていたり、畏れたり。真剣な場のはずなのにふざけていたり、哀しく諦めている気持ちだったり…。


はじめは怖かったけど、うまく気持ちを交わせたときは、とても楽しかった。


剣の世界は、上には果てしなく上がいて、力に差がありすぎると、技術もつぶされ勝負にすらならない。

 もっといろんな人の気持ちを汲み取るために、力が必要だった。


だから、俺はひたすら鍛え上げた。そして、師匠に学び、技を磨き上げ、経験を積み上げ続けた。


そのうちに、気づくと俺の周りにも人が集まるようになっていた。

 俺も師匠と同じように、惜しみなく技術を分け与えた。すると、次に会うときには見違えたように強くなる。

 俺も負けるわけにはいかない。更に鍛え上げ、剣を交わした。強くなれる喜びが相手の剣からも伝わってきて、その気持ちは、清々しいものだった。


剣は俺に居場所を与えてくれたんだ——


そして、いつしか俺は、この国の最大の闘技場で、一番強い剣士を決める戦いを行うことになっていた。


相手は、マルカス=グロッソという、俺よりも二回りの年上のベテランにして、シルベニア最強の称号を持つ剣士。

 ビッグマウスながら大勢の前で着実な実績を積み上げてきた男で、人々の注目…人気と活気を集めている。なんでも、もうすぐ16才を迎える、王様の一人娘に"この試合に勝ったら求婚する"とか言って回っているらしい…。

 対して俺は、孤児院で時を共にした仲間たちや、師匠…みんなが応援してくれた。

戦ったことのない相手だが、互いに負けるわけにはいかなかった。


大勢の人が囲む巨大な闘技場で試合が始まり、いざ対峙して、剣を交わす。


牽制やフェイントの連発に、一方的に二択を迫る技の繰り返し…。

 何が何でも勝ちたいという気持ちは感じ取れたが、それ以外のいろんな感情が複雑に織り交ざっており、それは、俺が剣を培ってきたものとは世界が異なるものだった。

 相手がいるとはいえ、究極的には自分との闘いなのだと解釈していた俺は、他者の挑発的な言動など関係がなかった。無駄の多いマルカスの動作を捌き続けると、やがて相手は牽制や駆け引きに持ち込もうとするのをやめ、真っすぐ向かってくるようになった。


そこで初めて、俺は彼の熱く真剣な気持ちを感じ取った。


そして——


マルカスの剣が宙にはじけ飛ぶ。


「マ・・・マルカス選手、これは・・・た、立てません!!!!すると、勝ったのは——」


彼が膝をつく瞬間、闘技場は静寂に包まれた。

 最強の称号を持つベテランで尚且つ試合で全勝してきた彼が当然勝つと予想されて多くの人が賭けている一方、辺境の孤児院出身の若い剣士に負けるということは、予想だしていなかったのだ。


「ス・・スターユ選手です!若き剣士が新たにシルベニア最強の剣士の称号を手にしました!!!!」


爆発的な喝采に拍手、賭け事の結果を超えて、闘技場は大いに沸き上がった。



シルベニア城 饗宴の間——        

「いーーーーやーーーー、ホンット、まじで助かったわ。サンキューな。自分の国の剣技の大会に俺が出るわけにもいかんしよ。ま、あのインチキくせ〜剣技よりも、俺の教えた剣技が強え〜のは当たり前だがな」

「どうも・・」


俺は試合の後、師匠の…アッシュに食事に招かれた。栗色のツンツンした髪と、俺と同じくらいの背丈に衣服が張り裂けんばかりの鍛え抜かれた肉体。彼はいつも通り、肉を頬張りお気に入りのブランデーを飲みまくっている。

彼の横には、栗色の長い髪にドレス姿の娘が腰かけ、こちらを気にせず澄ました顔で黙々と食べていた。


「ニュース流す連中がそれっぽい雰囲気演出してくっから、どうしようかと思っててな…。だいたい、若ハゲが未成年に求婚って、いやそれ重罪だろ。どういう刑がいいと思う?俺とサシで試合させっか?へっへっへ」

「お父さん、失礼よ…。きっと苦労したのよあの人も、ププッ」

(フォローしながら奥さんも笑っている…!)


「ほらお前、スターユ先輩に挨拶しろよ、な?アリシア。若ハゲがいいんかお前、男の趣味最悪なんかお前。変な虫がつかないように、この人に守ってもらえよ」

泥酔しているアッシュは娘の背中をぽんと叩く。

「…」

娘と0.1秒くらい目が合った気がするが、俺は速攻でプイと目をそらされた。

 アッシュによれば、世界中から訪れる貴族や豪族、猛者達が彼女に逐一ちょっかいを出してくるらしい。

 彼女と会話できる雰囲気ではなさそうだ。ここは、そっとしておこう——



その後、俺はこの城に騎士として務めることになった。


戦闘の日々であることには変わりはなかったが、周りの人々の態度や景色が大きく変わった。


当初は、相変わらず王女とはほとんど口をきかなかったが、長くいるうちに、次第に心を開いてくれるようになった。


そして——


王…アッシュの、不治の病が発覚した。


「まいったね」

俺はアッシュの部屋に呼び出される。彼の屈強だった肢体は、まるで別人のようにやせ細っていた…。


「まだまだ、これからって思ってたのによ…なんなんだろーな」

「・・・」


「ありがとう、アッシュさん」


これで彼と会うのは最後なのだと、直感的に理解した。

俺は、アッシュに、剣の師匠に、剣と居場所を与えてくれたことを感謝した。


「おれは…いろんな奴に剣を教えた。おまえにも…。おれがいなくなっても、それは"遺る"んだろうな」


「そういう意味じゃ、お前も家族みたいなもんだな?え?へへ・・・」

彼はそう言って笑いかけ、俺もつられて微笑んだ。


「娘を・・・頼むわ」


"イージスハート"…特別な力を引き出し、婚姻を約する証の指輪と静かなる不変の大剣”オフィーリア”を俺に託し、告げた言葉。

 それが、俺の師匠…アッシュが俺に遺した最後の言葉だった。

 その後しばらくして、奥さんも後を追うようにこの世を旅立つ。


城、そして国中の人たちが騒然とした。


若すぎる娘がこの国を引っ張っていくなど、到底無理だという声が響き渡る。


でも、彼女はひとりじゃない。アッシュが俺たちを認め、信じてくれたように、みんなで全力で彼女を日々支え続けた。


応えるように、彼女はどんどん成長してくれた。



——



スターユは、アリシアが見つめる中、“イージスハート”をそっと手に取った。

 その結晶の中には、銀河の様に微細な光が無数に瞬き、力強い輝きを放っている。


「俺は、何があっても、必ずあなたを迎えに来ます」


「スターユ・・・ええ、そうね」


「約束よ」


俺は彼女の指にそっと、"イージスハート"を通す。


「そしたら——」


「一緒に冒険しながら、たくさんゆっくり話そう!”()()()()“」

俺は、アリシアに握手を求めた。


「ぷっ…、なにそれ!」


「あなた、婚約の指輪を送っておいて、『ゆっくり話そう』って、やってることめちゃくちゃよ?」


「でも・・・本当に、スターユらしい。そうね、考えてみれば、私たち、"今日から"だったもんね」


アリシアはそう言うと、応えるように力強く握手を返してくれた。笑ったせいなのか、その瞳には、微かな潤みがあった。


魔物が出たからって、何も焦る必要なんてない。


俺たちは、俺たちのペースで悠然と進めばいい、


それが俺たちの、揺ぎ無い決意、約束なんだ。


全てを守り切ることはできないかもしれないけど…。


諦めずにそれぞれが最大限の役目を果たせれば、きっと未来に繋げ、託すことができる。


そして、まだ俺たちに足りない力…それを持っている誰かと、いつか、共に戦える。


いつの日か、いつも通りの日々を取り戻すことを信じて、俺たちはそれぞれの道を歩んだ。

AI非使用

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