第27話. ポケットに溢れる大好きな気持ち①
──アリシアとスターユが其々の道を歩む前の頃──
シルベニア城地下 最深部へ至る前室──
アリシアとスターユ、二人の間に沈黙が流れる…。
磨き抜かれた床と壁を仄かに淡い灯が照らし、水のせせらぎが静かに響いている。
直ぐそこには、王家の血筋を有する者しか通れない光の扉。ここから先は、アリシアしか通ることは叶わない。
彼女はこれから最奥へと足を運ぶ。侵入した外敵を倒し、防壁が突破されるのを防ぎ、シルベニアの城と町を守るためだ。
でも、今の状態だと、この別れは、永遠の別れになりかねない。
”揺るぎない意思“を原動力として能力を発揮する彼女がここまでか弱い状態では、瘴気により力を得たノクティーヌの“否定の意思”の能力に、勝ち目はないだろう。
だから、急がないといけない状況ではあるが、彼女は戸惑っている。
俯いて、心細そうで…いつものアリシアらしくないその姿。このままでは戦うどころか”揺るぎない意思“の能力の発揮すら危うい。
(ここは、俺が覚悟を決めなければ)
(…)
でも、
その前に──
俺とアリシアにはこの先に関する事で、恐らく“認識のズレ”がある。ここで、そのズレの理由をはっきりさせておく必要があるだろう。ソレがわからないまま、永遠の別れというわけにはいかない。
「アリシア様」
「?」
「お互い、隠し事はナシです」
「!」
アリシアは驚いた様な表情で顔を上げる。やはり、隠している。
「俺に、教えてください。この後、アイツを倒した後のことを…」
「…スターユ…」
”認識のズレ“
俺は、アリシアが奴…ノクティーヌを倒した後、市民の避難が上手くいくまで防壁を維持して、それからみんなと一緒に避難するつもりに思っていた。
だけど、彼女の手を取って…そして今の様子をみてわかった。恐怖と寂しさ…隠しきれない、哀しみのマナ…。
最早、通信端末の有無など、どうにもならない様な決意。
彼女は、アリシアは、“もう俺たちのところに戻ってこない”つもりでいる。
「…」
アリシアはしばらく、再び目を伏せた後、口を開く。
「これ…ホントは王家以外の人には絶対に言っちゃダメなんだけど──」
「あなたには、教えるね」
「アイツ…ノクティーヌを倒して、その後…。私は…きっと、出られなくなる」
(…!)
──アリシアの話では、彼女のご先祖様は、もしこの国が何者かに攻められ陥落し、血筋が絶えてしまうのを防ぐために、ジオードに最後の防衛策を施したという。
そこは、シェルターとして機能すると同時に、王家の血筋を利用して侵入した異物を排除する迎撃機構と、二度と出られなくなる牢獄の役割を果たす。
余所者はそこで出ることが出来ずに果てるが、アリシア自身は、そこで自らの身を封じ、長い眠りにつくことができる。
そうなれば、ジオードは“閉じられ”、城の構造は変わり、最深部への道は封鎖される。外からの外敵には完全に手が出せない状況になる様だ。
そして、その過程は、瘴気が城に満ちていくつれて段階的に進んでいくという。
ただし、その機構は“揺るぎない意思”による魔法によって進められる。
そのため、最深部が閉じる過程で”否定の意思“による能力の様な、こちらの力の対抗となりうる様な力が強力に加わればどうなるかわからない。ノクティーヌが持つ“否定”の能力であれば、防壁を破壊し、そこから脱出できてしまうかもしれない。
というものだった。
「…ごめんね…黙ってて」
「アリシア様…」
「もう、防壁が剥がれるのは、止められそうにないの…。避難は進んでいても、住処を失った人…自分だけでなく大切な人が傷ついた人…避難しきれない、体の弱い人たち…。混沌した状況は連鎖している」
「それでも、行かなきゃいけない。諦めるわけにはいかない」
「・・・」
「ごめんね」
彼女は再び目を伏せる
「・・・」
「わかりました」
「俺は、あなたの願いに、ついていきます」
「スターユ…」
俺は深呼吸する。
「隠し事は、ナシ──」
「──なので、俺もあなたに伝えることがあります」
「?」
俺は、魔法道具を使って戦闘スタイルから、祝宴の時の姿に戻る。
小物アイテムの整理が苦手な俺だが、コレだけは、然るべき時のために肌身離さず貴重品として携帯していた。アリシアが身繕いを整えてくれた衣服…。装備変更用の魔法道具が入っている側の、反対側の胸ポケット。そこから取り出す。
それは、緻密な装飾がなされた、煌びやかに光を散りばめる、小さなケース。
そして、それを開ける。
(!!!)
アリシアは暫し息を呑むと、目を見開きそれを見つめる。
「これは・・・。あなたが、持っていたのね」
彼女は、これが何か、その意味を知っている。
“イージスハート”──
城の最深部に在るグレート・ダイヤモンドジオードが途方もなく長い年月を経て吸収・蓄積したマナを極限まで圧縮・超高密度で抽出した結晶を備える指輪。
それは、絶大な“揺るぎない意思の力”を内包し、それを動力源とする王家の血筋による能力の限界をさらに超えた力を引き出すために必要なものだ。
そして同時に、これはシルベニア王家の歴史において、伴侶となる者に贈り、婚姻を約束する証でもあった──
王家の者ですら、これを持ち出すことは禁じられている。
アリシアが産まれてから、これを所持していた人物は、王であり今は亡きアッシュ=グランただ一人。だが、彼が旅立ち、誰にも所在が分からなくなっていた。
本来の持ち主である、アッシュ本人以外が所持するには、明確な意図をもって託すしかない。
(つまりは、そういうことだ──)
と、アリシアは理解した。
「まったく・・・お父さんったら、ホンットに勝手なんだから」
彼女は片手で頭を抱え、微笑みながら言う。
その声は、少し震えている気がした。
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