第26話. 覚醒せし黒瑪瑙の姫君 ノクティーヌ
最奥へと至る道──
アリシアは最深部、ダイヤモンド・ジオードへと続く長い長い螺旋の道を駆け抜け、下ってゆく。
広く、静かで、旧くも荘厳な場所。
壁には緻密な装飾が覆い、数々の巨大な彫像が合間を置いて立ち並び、魔法の灯火に照らされている。
その像は、歴代の私のご先祖様たち…。写真などで見知った顔や、私が書物でも知らない顔も、ずらっと並んでいる。
一体何人の人が、どれだけの年月をかけて完成させたのだろうか。きっと、途方もない規模の装飾や彫像の数々により織りなされるこの崇高な雰囲気も、“揺るぎない意思”のマナを高め、外壁に張り巡らされる魔法の防壁を維持することにより、この国を守ってくれていた。
尤も、今は敵に侵入されている。
ここの本来神聖であるはずのマナも、地上の城内に潜入した虫どもや、傷ついた人々による瘴気で汚されてきてしまった。
それに加えて、最奥に至る道のあちこちで崩れ、倒れている宝石の巨人の亡骸。
彼らは、純粋な血筋以外の侵入者があった場合に起動し、ガーディアンとして排除する。その戦闘力は、この城…国を守るシステムの根幹を防衛する最後の砦だけあって並大抵のものではない。十分な準備と策があったとしても、どうにもならないほどのレベルの力を一体一体が備えている。
その筈なのだが、横たわる宝石の巨人たちには胸を大きく貫かれた跡があり、それぞれが“一撃”で倒されていた。
調べる時間はない。急ぎ、走る。
そして、ついに辿り着く──
すぐ目の前、この城の最深部、魔物から国を守る最後の要。
“グレート・ダイヤモンドジオード”──
そこは、純粋なマナにより長い年月をかけて極限まで研磨された巨大な結晶構造が織りなす空間。濃縮された魔力を帯び、眩い虹の輝きを放っている。
「お久しぶりね」
声──
そこに居たのは、眼前の女性人物…揺らめくドレスとヴェールに身を包んだ褐色の肌、そして触角を有する女性タイプのヴェスパ──“ノクティーヌ”だ。
その傍には、宝石の巨人。先ほどのものとは比較にならないサイズの、見上げる程大きな最後のガーディアン。
それが、一撃で胸を貫かれ、今まさに地に臥し、崩れゆく──
「さっきは色々と意地悪して、ごめんなさいね」
ノクティーヌは、落ち着いた、柔らかい声で語る。
「私ったら、他人がどう思うかばっかり気にしてて。貴方を傷つけてしまったかもしれない」
(…)
「でも」
「もう、必要ないみたいなの」
「貴方のお陰かしらね、私…成長できたみたい。貴方に感謝するわ」
彼女はこちらに向かって微笑む。
血筋による能力の、”覚醒“──
アリシアとの戦闘、そして瘴気ががもたらしたその能力への変化は、これまでの“相手に否定される”ことによって発動するものから進化し、彼女自身が対象を嫌悪するだけで、発動する様になっている。
そして、その威力はここまで立ち込める瘴気のマナも相まってか、“一撃必殺”と表現しても差し支えのないものだろう。
私の頭上には、最後のガーディアンを屠ったものよりもさらに巨大な漆黒の結晶が浮かび、こちらに照準を合わせていた。
「相手に嫌ってもらうっていうのはね、結構私も傷つくのよ?」
「でも、もう大丈夫。これからは、私たちも仲良くできそうね」
「よかったわね」
アリシアは悠然とした顔で返す。
暫くの、沈黙。
「…」
(何だ、この反応)
ノクティーヌは、想像していたモノよりも異なるアリシアの反応に違和感を覚える。
(私の能力は、お前のものよりも遥かに、圧倒的に優れている)
(私が拒絶するだけで、能力によって貴方は終わる。貴方どころか、くだらない人間の犇めく世界も簡単に終わらせることができる。回避しようも、ない)
(なのに、全然反応が薄い。諦めた?もう、国が崩壊寸前で、心が壊れた?)
アリシアは真っ直ぐノクティーヌを見据えている──
(違う、そういう表情じゃない!)
「物分かりが悪いみたいだから、直接教えてあげるね。貴方を殺したら文句言うヤツもいそうだから、瀕死くらいにしといてあげる。生きてたら、その後で手駒かな」
“拒絶せし黒瑪瑙の刑罰 (ブラックオニキス・ペナルティ)“!!!
ノクティーヌは腕を振り翳し、指を鳴らす。
天井かシャンデリアを落としたかの様な激しい音とともに、ソレは粉々に砕け散る。
そして、散り散りになった漆黒の破片は、アリシアの身を避け落下した。
「なっ・・・・・」
きっと何かの間違い。
目の前で起きた出来事を否定するかの様にノクティーヌは新たな攻撃を繰り出す。
今度は四方八方を覆い尽くす無数の刃。最上階で戦った時の楔刃よりも、一個一個が鋭く、大きさを増している。
”峻拒せし黒瑪瑙の処刑 (ブラックオニキス・エクスキューション“!!!!
ノクティーヌが再び指を鳴らす。
無数の刃が凄まじい勢いでアリシアに向かい一斉に射出される。
幾十にも重なり、響き渡る音。
そして、そこに姿を現したのは、何の変哲もないアリシアが立つ姿と、床に粉々に砕け散った黒き破片──
「くっ・・・・・・!!」
「ふざけやがって!!!!!」
ノクティーヌは合間なく次々と技を繰り出す。
が、アリシアには一才の攻撃が届かない。
何も受け付けず、悉く、弾き返され砕かれる。
「・・・・・・」
ノクティーヌは目を見開き、手を止める。
(こいつ・・・まさか・・・無敵・・?)
(わからない・・が)
(この女・・・今のコイツには少なくとも、”私の否定の能力“への”完全耐性“がある!!!)
ノクティーヌが、唇を噛み締めると、アリシアは真っ直ぐ、眼前の相手へと歩いてゆく。
「来るな!!!」
ノクティーヌは額に汗を浮かべ彼女に叫ぶが、アリシアは歩みを止めず、無言で向かってゆく。
(……アレは…)
ノクティーヌは、接近してくるアリシアの姿から、以前と異なる”違い“に気づいた。
アリシアの、彼女の左手の薬指に煌めくもの──
(あれは…!!!!)
(この城中どこを探しても見つからなかった…!どうして!!?)
「お前!一体!!」
「一体、何があった!!!」
呼吸を見出し血相を変えて叫ぶノクティーヌに対して、アリシアは足を止める。
そして、顔を上げ、ノクティーヌを見つめ、にこやかな笑顔で返した。
「──知りたい?」
AI非使用




