第22話. 剛健なる蝿の魔人 アドゥバン
シルベニア城 隠し通路──
──アリシアとは、伝えるべきことを伝え合った。
あとは互いに信じ抜き、俺たちの力全てを尽くして戦い、必ず彼女を迎えにいく。
全ては守りきれなくとも…決して終わりじゃなく、改めて此処から戦いが始まるんだ。
リュクスから通信端末へ文字で届けられた情報によれば、避難経路の確保はどうやら順調なようだった。戦車が突破力となり、駆けつけて来た大きなおじさんが炎の魔法道具でバリケードを張ることで敵の行手を塞ぐことに成功したらしい。大きなおじさんとはきっとレオニウス先生のことだろう。だとすれば、リゼットやフランも無事なはず…。
俺は外へ出るために来た道を戻る。城から出るには、玉座の間から最深部までを繋ぐこの隠し通路を上がって行き、城内からまた下る必要がある。先ほど使った抜け道を通ればきっと早い。
長い長い螺旋階段を登っていく…俺がこの城に来て初めて訪れるのに、昔から知っているようなどこか懐かしい雰囲気がする。きっと、アリシアのご先祖様が設計した古めかしいこの場所には、沢山の物語があったに違いない。俺の持つ大剣“オフィーリア”のように、シルベニアの王国の危機や幾多の悲劇を見届けて来たのだろう。
(たしか、此処だったよな…)
俺たちが使った抜け道。
通路の螺旋階段の途中…曲がり角を突き進むと、仕掛けによってわずかにスライドする石壁が一箇所ある。ヒト1人ずつぐらいなら通れる隙間が生まれ、それは図書室の本棚の奥に通じている。
はずだった。
…封鎖されている。仕掛け扉に当たる石壁がびくともしない。来た時は確かに閉めたはず…。一方通行の仕掛けには思えなかったが…、抜け道の向こう側から仕掛けが壊された…?
抜け道を利用する際に気配がない事は入念に確認したはずだが…。見られていたのだろうか。
理由を考えても仕方がない、どうやら此処の抜け道は使えない。と、なると、戻って隠し通路をさらに登り玉座の間を通ることになる。
アリシアが言っていた…“とんでもない”奴が居るという場所。
隠密の性能を信じるしかない…戦闘も覚悟が必要だろう。
俺は隠し通路の最上部に辿り着くと、その構造を把握する。ハシゴを下り、天井に空いた穴から通路に出られるようだ。
ヴェスパの気配はなく、高さはあるが隠密効果により着地音もない。
その先が恐らく…。
入り組んだ通路…俺は慎重に身を進め、次第に俺の見知った景色になる。
──そして、着いた。玉座の間。
衝立と天蓋に隠されたこの場所はそれなりに高さがあり、上方から玉座自体が見渡せるが、そこに主人はいない。
他には…ヴェスパの下級兵らしき姿が散見されるが、ぱっと見大きく変わった様子はないように見える。
あるとすれば…。
カゴ…?
玉座の側に、小さなリスだろうか。小動物の入ったカゴが置いてある。
これまでそんなものは見た覚えがないし、アリシアや他の誰かがリスを飼っているという話は聞いたことがない。
(…)
不可解だが…、此処をなんとか抜け、後は一気に下りれば外へ抜けることができる。
俺は足を進め、リスがいるカゴを横切ろうとした。
”キュキュッ“
アリシアの魔力が残った隠密の魔法は確かに効いており、視認に気配や足音、微かな匂いもないはず。
だが、意識のような…それ以外の何かを感じ取ったのだろうか、警戒心の強い子リスがカゴの中を右往左往に走り出した。目が合う…。
…
瞬間…。
”ゴッッ!!!“
強烈な一撃──
圧倒的な重量が、壁や柱などゆうに粉砕できてしまいそうな程の凄まじいパワーで叩き込まれる。
反射的になんとか身を防ぐも、その身は衝撃により後方の壁に激突する寸前まで大きなノックバックを受けた。隠密魔法は衝撃と共に解除され、俺の姿が露わになった。
今の一撃…原型を変えない特別な大剣、“オフィーリア”でなければ武器ごと砕かれていただろう。
手や腕がビリビリと痺れる。
「それ、いい剣だな」
こちらを射抜くかのような眼光。
そこにいるのは、黒い甲冑を身につけた、ワイルドショートのブロンドの髪に巨体の筋肉質な男。
厳つい青年の人間の顔をしてはいるが、触角と、大きな虫の翅。
人間ではない。男性型のヴェスパだ。
金棒…というよりは柱に近い巨大な黒鉄の武器を片手で持ち、こちらの大剣“オフィーリア”を指している。
(あの武器は…)
その男が持つ黒鉄の鉄塊…。
”ウェポンブレイカー“──
スターユが噂にだけは聞いていた伝説上の武器…。所在が不明だったが、手に入れたとしても、とてもヒトが扱える代物ではなく、捜索は進みきっていなかった。
そして、3mはあったバスティよりも更に高い位置から、その鋭い目を見開き、こちらの目を真っ直ぐに凝視、睨みつけきている。
勿論、こちらも逸らしたり、背けたりするつもりは一切ない
この一連の様子で確信した。
彼は、ノクティーヌのように心を扱う特殊な能力を持つ者を除けば、俺が生まれてこれまで対峙して来たどんな剣士や魔物よりも、戦士として強い。
「フン」
その男は黒金の鉄塊を持ち、その先を床にぶっきらぼうにガンッと叩きつける様に置く。
「お前がこの国で一番強えとかいう剣士だな?王女サマを見捨てて来た、“薄情者”ってんなら、この場で叩き潰すつもりでいたが…」
「お前、なんつーか、“オトコになって来た”…っつー顔だな…」
「…」
そう言うと、男はスターユに向かいニッと笑う。
「いいね、気に入った」
「だが、これからだ。全てはな──」
男は笑みを浮かべながら夢想するように目を瞑り、鉄塊を片手で担ぐ。そして再び大きく目を見開き、真っ直ぐにこちらを見据えた。
俺も同時にオフィーリアを構え、力を込める。
「俺の名はアドゥバン」
「殺し合い、生き残った方が王女を抱く。コレから始まるのは、すげー単純な戦いだ」
「逃げたら殺す」
「アドゥバン…俺は、逃げるつもりは、ない!!!」
アドゥバンは不敵な笑みを浮かべると、その巨体から想像もつかないスピードでこちらへ踏み込み、その勢いのまま黒金の鉄塊を振るう。
AI非使用




