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第18話. 持つべきものは友

小柄な老人のようなハエの魔道士ツェグロースには逃げられてしまったが、戦士タイプの二匹の虫プレッソ&バスティを排除した後、アリシアとスターユは城内の様子を暫し見渡す。


(なにか落ちている…これは)

白い水晶のペンダント、うちの宝物庫から漁ってきたのだろう。あのノクテイーヌ共々、奴らは…ヴェスパはこの城から何から何まで奪い取ろうとしている。


そして、背後から、気配。

「おっ!?女?女だ…!ニンゲンの…女だァ…」

(下級でも、人の言葉を話す奴もいるのね…)

アリシアは背後から近づいてきた虫に回し蹴りを入れると、それは壁に激突し何かを言った後気絶、動かなくなる。

「おぉ…バイオ…レンス…」


(まだ力は保てているみたい…でも、随分と城内のマナが悪い方へと変わってしまっている…)


通路や部屋の隅には、傷は目立たないが眠るように蹲る兵士たち。恐らくツェグロースの瘴気の炎にやられ、複数種類の状態異常にまみれてしまったのだろう。とどめを刺されないままでいる…恐らくわざとだ。


城内の様子は不穏な空気で覆われており、最早二人の見知っているものではない。

今でこそスターユと行動することで、私自身の力はまだ保てているが、ダンジョンの様になってしまったこの城には、"揺るぎない意思の力"のマナは確実に減衰しているだろう。


「まずいわね…」

「まずい…?」

「このままだと、私はたぶん、能力が使えなくなる」


"瘴気"——


怒りや憎しみ、哀しみや絶望、そういった負の感情が、「もう希望も持てない」という程に満たされると、願いの力はかき消されてしまう。即ちポジティブな感情を動力源とする能力や魔法は、著しく出力を落とし効果が弱体化してしまうのだ。


このまま被害が拡大し続け、城や町が絶望…"瘴気"で満たされると、私は能力が使用不可になり、無力化する。今の状態だときっと時間の問題だろう。残された時間はもう、そんなにない。


不屈なる金剛石の浄化(ダイヤモンド・リペル)


私は戦闘不能に陥った兵士たちの前で、ツェグロースが落としたペンダント…というかもともと私の所持品だが、それを掲げ状態異常を中和する。白き水晶は意思の力を拡散させ、複数の兵士に行き渡る。先程、あの敵はこのアクセサリーの力を使って、状態異常の魔法を回避不能な範囲技として応用させていた。


「怪我は大丈夫?」

「俺は…寝ていた?戦闘中に…」 「…アリシア様!」

中和は行き届いたようだ、次々と兵士たちが目を覚ます。他の状態異常も回復している。

幸い損傷は軽いようだ。私は起こっている状況と、人々の避難誘導が必要なこと、まずはみんなの状態異常からの回復に協力してできる限り手伝ってほしいと伝える。そして、みんなは快く受け入れてくれた。


ノクティーヌを逃してしまった今、私自身が城内を浄化して廻る余裕はない。私達は、町の人たちの避難の手助けを借りるために、ユースタシアの王女リュクスのところへ…。


「王女様、お待ち下さい。困ります、こんなことをされては」


声、威圧的で、敵対的。

そこには銀髪で眼鏡の青年が立ちはだかっている。

王国の軍師、リハルだった。片手には魔導書を持ち、道を阻むかのように立ちはだかっている。彼自身は参謀でもありながら、魔道士の家系、魔法への適性をある程度持っていた。


きっと、あのときは私や皆にバレない程度に操られていた。だが、今となってはもう、そんな必要もないのだろう。人を操る黒き楔は深く突き刺さり、恐らく能力が完成し、私達に敵対している。


「覚悟してくださ…うっ!!」


"サイレント・ムーン"——


操られていたリハルが魔導書を使ってなにか悪さをする間もなく、リハルは前のめりに倒れ込む。

スターユによる、強烈な衝撃によっても破損せず原型を変えない大剣"オフィーリア"を用いた強打、いわゆるウェポンバッシュがリハルの背に問答無用で叩き込まれた。スターユには珍しく、ちょっとした怒りのマナを感じる。


(容赦ないわね…)


「ごめんね、リハル。もっと私がしっかりして、あなたの異変に気づいてあげられていれば…」


リハルの中和が完了した——


「アリシア様…私は、こんなところでいったい何を…?」


私はリハル自身に起こっていたことと、状況を伝えた。町の人達の避難にも、参謀である彼の力が必要だ。


「くっ…大変…申し訳ございませんでした…。最早なんと言ったらいいか、申し上げる言葉もございません…私は…わたしは⋯」


リハルは床に頭をつける程に深々に頭を下げる。その目には涙を浮かべている。

いつもポーカーフェイスで、機械的のようだが常に私達にとって最善の手を考えてくれている彼が泣いているところは、今まで見たことがない。


「リハル、そんなに自分を責めることはないわ。スターユだってさっきやられてたし」

「えっ」

リハルとスターユは二人仲良く顔を見合わせる。

「ま、別に気にしてないけど。"断って"発動するんだもんね。さぁ、急ぐわよ」

(敵の能力が否定じゃなく"肯定"で発動するものだったら、きっと私達は人権を失っていた…!いやまずありえないけど…!)



シルベニア城 裏門——


「アリシアちゃん!無事で良かった~~~~~~~!!!!」

「リュクスちゃんも!」


束ね上げた青い髪に丸い眼鏡、ドレスというよりはほとんどメカニックの出で立ち。

ユースタシアの王女、リュクスは涙を浮かべ、アリシアを抱きしめる。

思ったよりも状況はずっと良かった。


まず、奪われることを懸念していた、あの火炎放射を放つ二足歩行の兵器。

あれは操縦者なしでも指示を与えることができ、流石に機動力では譲るものの、火力と走行でゴリ押しし、ユースタシアの精鋭と共にこの一帯の安全を確保する戦力として役に立っていた。

機動力も、ヒトが乗らなければどうやらより動けるらしい。虫たちは戦車が放つ、苦手な"火"を避けて城内へと侵入した。そして、港側では、十分な避難民を輸送できるユースタシアの船が待機している。


「ご、ごめんね。私あのときすっごく急いでて…、最後までリュクスちゃんの戦車のお話、聞いてあげられなかった」

「いいってことよ!あなたの言うことは尤もだもん。これでもかっこいいけど、やっぱり戦車は人が乗って操縦しなくっちゃね!」

(凄いこだわり…)

「あの、今こんなことを言うのはなんですが」

スターユが割って入る。嫌な予感がする。


「脚がついた、二足歩行の兵器は、戦"車"と呼ぶのでしょうか?」


「……」


あ、まずい。


スターユは、彼女の地雷を真正面から踏み抜いてしまった。


「脚がついてても、()()()()()()…だよ?歩行戦車!!」


リュクスの眼鏡がキラリと光り、何かのスイッチが入りそうだ。これ以上はいけない…今は。


「わ、私達、リュクスちゃんの力を借りたいの」


私は、これまでのことをリュクスに伝えた——


同盟祝宴に訪れた赤き砂の地バルメキア国の王女"ノクティア"が本物ではなく、"ノクティーヌ"と名乗る、王家の血筋の能力と容姿を奪ったヴェスパの女性タイプで、彼女を追い詰めるもあと少しのところで逃げられてしまったこと。

そして、この城と国を陥落させるために、操った兵士と厄介な魔法を使う個体も含むヴェスパを内部から侵入させたこと。

そして、町の外の巣には爆発的に繁殖した虫の大群がいて、もし総攻撃があればこの町と城は崩壊するだろうということを——


「もっちろん!私達、全力でアリシアちゃんを、シルベニアのみんなを助けるよ!!」


「ありがとう…リュクスちゃん!本当に…」

リュクスは私の手を握る。持つべきものは友だと、心の底から痛感する。


「でも、どうしよう。ここからは町まで離れてるし、お城の中は敵が侵入してるんだよね」

「お任せください」


リハルが名乗り出る。


「城の正門からここ、裏門までの通路は、あの"戦車"の通行が十分可能、ちょうど地の利を活かせるサイズです。こちらの戦力と、残る敵が下級がメインだとすれば、避難経路の確保は不可能ではないでしょう」

彼は早速張り切っているようだ。私は戦力の配置をリハルに任せることにした。


「あとは避難を呼びかけないとだけど…」

「それなら大丈夫!」

リュクスは空中を漂う多機能ドローンを指差す。兵器の宣伝・実況に利用していた拡声した音声を出すタイプだ。あれを使えば町の人にも呼びかけることができる。ドローンは戦車よりも自律が効き、私達は早速町へ向かって避難を呼びかける音声を込めたドローンを飛ばした。


「うまくいくといいけど…」


「ねぇ」

リュクスが、心配そうに声を掛ける。


「みんなの避難がうまくいったら、アリシアちゃんも、私達と一緒に来る…?私達が守ってあげるから、無理なことはしないで…お願い」

リュクスは両手で私の手を包み込み、訴えかける。


(私は…)

AI非使用

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