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第13話. 黒瑪瑙の楔刃

[AI非使用]

"揺ぎ無き金剛石の流星(ダイヤモンド・メテオ)"―


"揺ぎ無き意思の力"を用いて地や壁を蹴り弾き、高速で駆け抜ける"猛然たる金剛石の突撃(ダイヤモンドブリッツ)"と、あらゆる対象を殴り弾き吹き飛ばす"気丈なる金剛石の一撃(ダイヤモンドスラム)"から織りなされる複合技──


スターユの姿を目視し、ギリギリ間に合うと確信した瞬間、アリシアの“揺るぎない意思”の力は急激に出力を取り戻し、勢いと共に彼女の拳と技に乗った。


これを直撃したノクティーヌは回転しながら吹き飛び、大きな時計台の外壁に派手な穴をあけ、衝撃音とともに隣接する時計台の外壁へと突っ込んでいった。


「スターユ!」


アリシアは虚ろな状態となっている彼を介抱する。


(きっとまだ助けられるって、信じるしかない!)


彼はきっと、お願いした通りに誘いをきっぱり断った。"断る"といっても、この城は”揺るぎない意思“の力が優勢になりやすい、私のホームグラウンド。スターユが言いつけ通りに"きっぱり、堂々"と断っていれば、"揺るぎない意志"のマナがいくらか作用し、敵の操る能力の完成までに時間を稼ぐのに作用したはず。


危ないところだった。


私は彼の胸に掌を添え、急いで『黒い楔』を中和する。

今ならまだ助けられるとわかった私は、心の底から安堵する。失いかけていた出力が一気に湧き上がるのを感じた。


「う……」


「アリシア…様?」

まだ完全に中和しきれていないが、いつもの見知った彼がようやく戻ってきた。


「よかった…!ほら、着替えて!」


彼の内胸ポケットから、祝宴で装備したがっていた戦闘用の全身装備一式を呼び出す魔法具を取り出すと、掌に握らせ、承認させてあげた。瞬間的に藍い鎧に包まれ、相棒である大剣を背にした、いわゆる彼にとっての普段着の姿となる。


「あったこと、ちゃんと覚えてる?」


「…俺は、確かノクティア様と話して…」

記憶はだいぶ飛んでいるようだ…。自分の意識を失うほどに食らっていたとすれば。


「……アイツは、ノクティアさんにすごく似てるけど、本人じゃない」

私はそう言い、攻撃を受けたことを伝える。話しながらスターユとノクティアの関係が少し気になったけど、そっとしておいた。

正気に目覚めたばかりのスターユはまだ衰弱しているようで、まだいつもの様には戦闘できる態勢にない…。

彼が衰弱から回復し、あいつと戦えるまでにはまだ時間がかかる…私が守らなければいけない。


「あいつは、私と同じような能力を持った敵…あなたは操られていたの。能力の原動力はたぶん『否定』とか『拒絶』の感情…『違う』だとか、『やめろ』だとかいう感情の動きに反応するから気を付けて、心の中で思っただけでも攻撃される!」


(ノクティア様にそっくりで、心の動きに反応する攻撃を行う敵…そんな奴に俺は…)


「……もぉ……ひっどいことするなぁ」


(きた…)


声の主は隣接する時計台に直撃した事で生じた瓦礫の中から身を起こし、ドレスに付着した煉瓦の欠片や砂埃を払いながらこちらを見下ろす。ノーダメージ、というわけでもないようだが、攻撃を食らった部位を庇ったり痛がるそぶりはない。


「私からあげたプレゼントも捨てたのね…ま、あなたならやるだろうと思ってたけど」


(こいつ…硬い…!)


(!?…あれって──)


二人を見下ろす女性の頭、そこには、確かにヒトにはあるはずのない、2本の触角を有していた。


アリシアの“揺るぎない意志の力”をその身に直撃し、覆い隠す魔法が中和され弾かれたのだろう。

それは王女として自信が知るノクティアにあるはずのない、それは確かに虫が持つ触角の形をしている。

女性タイプのヴェスパ…一体どうやって誕生したかは定かではないが、ノクティアの容姿と王家の血筋の能力をなんらかの手段で奪っている。


赤い砂の地―バルメキアの王女…ノクティアだと思っていた者、それはノクティア本人とは遠く離れた異形の存在だった。


「あなたは…誰?」


「ん?ん~…もうバレちゃったか」


「ま、仕方ないか、どーせそろそろ頃合いだしね。私は──ノクティーヌ。そうね―」

彼女は二人を見下ろしながら、不気味な笑みを浮かべる。一瞬だけ不満そうな顔を見せていたアイツだが、その表情には既に余裕が戻っている。


「自分の国で何が起きてるかわからず、ぼーっと過ごしていたあなたに代わって、そこの彼と『新たな王国』を創る者、とでもいえばいいかしら」


「…くっ!」

スターユは絶句し、目を見開く。それと同時に、もうあと少しで弾け消え掛かっていた黒き楔は再び顕在化し、深く突き刺さる。


「スターユ、しっかり!!コイツは私たちの感情に反応して攻撃してくる!」


更に刃が出現し、煌きながら素早く宙を舞い始め、二人を補足する。

(まずい、衰弱から回復する時間も必要なのに、中和が追いつかない!)

それでも、手を緩めるわけにはいかない。彼がダメージを負ったことで無意識に心を削られたのだろうか…。出力が少し落ちている。


「聞いたことに応えただけなのにね?」

そう言うとノクティーヌは指をパチン、と鳴らす。


"拒絶せし黒瑪瑙の帳幕 (ブラックオニキス・カーテン)"―


ノクティーヌの合図と共に無数の黒く輝く刃が幾何学的に隊列を始め、行く手を阻むかのような陣形をなし、防壁となった。アリシアたちの武器である拳や剣は届きそうにない。


「さっきは不意打ちを喰らったけど、忠告しとくわ」


「もし、こちらへ無闇に突っ込んできたら、あなたは”全身を引き裂かれズタズタになって死ぬ“。私は彼のことは傷つけたくはないから、馬鹿な真似はせずちゃんと言うこと聞いてね?」

ノクティーヌを防護する煌めく無数の黒き刃、一つ一つがこちらを向き、私たちに警告するかのように月明かりを照らし鋭く輝く。スターユはとてもまだヴェスパのボス級と戦える程ではない…。


「それと、私は優しいから…失くしたプレゼントも、もう一度送ってあげる」


"否定せし黒瑪瑙の楔刃 (ブラックオニキス・エッジ)"―

掌を掲げると、二人の周りに大量の黒い刃が出現する。


(この数…半端じゃない!)


「スターユのことは攻撃しないで!彼はまだ…!」

私は彼の前に、立ち手を広げた。

黒き刃はそれに呼応するかのように標準を私に定める。こちらの能力を貫通するとはいえ、王家の血筋の加護がある分ある程度は防御できる…『否定』を感知されようとも、攻撃を喰らうのを覚悟でこれを引き付け、止めなければ…。


「は?あなた、自分の立場わかってる?」

ノクティーヌは私に鋭い目を向ける。


「それを決めるのはあなたじゃなくて、私。──スターユ君、いい子にしてたら何もしないであげる。初めからあなたを傷つけるつもりはないの」


気づいたら、私たちの背後…城の内部に戻る側にも無数の黒き刃の防壁が逃げ道を封鎖するように出現している…。


「ふふ、なかなかの数ね」

ノクティーヌは黒き刃を隙間なく敷き詰め、組み上げられた玉座のような椅子を出現させると、脚を組み座り、愉悦の表情で語る。


「勘違いしないでね。これは、私の意思じゃなくて”あなた“が作ったの」


「あなたが意思の力を蓄積するように、こっちも蓄積ができる。というより、この刃はあなた自身が自分に向けて蓄積したものなんだけどね?この『否定の刃』は、どんなに小さな否定や拒絶の感情を刃として蓄積し、あなた自身を傷つける。勝手に嫌いになられて、勝手に堂々としていられるって、こっちからすると良い迷惑なのよねぇ」

ノクティーヌは、自らの能力で組み上げた玉座から、頬杖をつきながら続ける。


わざわざ能力を開示するのは、自身の能力、状況を伝え、アイツ自身が有利だということを理解させるためだろう。私が揺らぎ、心が折れると魔法や王家の力は穴の空いたバケツのように力を失い、それは勝負において決定的な決着となる。魔法は自身が持つ心の底からの想いを出力する事で効力を発揮するから、この能力の説明には基本的には嘘はないと思っていいだろう。


「生物にとって『生きる』ということは、結局は違う誰かとの競争よ。どんな聖人や達人でも、否定や拒絶なしに生きて、相手を出し抜くなんて不可能…だけど、器の小さいヤツはすべからく自滅する。あなたのようにね」


「くっ…!」

黒い楔刃の一つがアリシアに突き刺さる。

スターユのことをもう少しで中和できそうなのに…。


「言っとくけど、いまのも、"攻撃したのは自分自身"だからねぇ?『器から溢れたキモチ』は自動的にあなたに向かうから、悪いけど私でも止められないのよね」


(だめだ…)


「あなたは勝手に私を攻撃しようとして自滅しようとしてるだけ。あなたが今さら憤ったって、私はこの状況を作るためにここまで準備してきたの。自分の国で起きていることにも長い事気づかずそんなちっさい器で王女だなんて、笑えるわね」


(私…コイツのこと)


(コイツのことを否定せずにいるなんてできない…!)


私に突き刺さる楔が更に大きくなり、深く刺さる。もう、気丈でいるのも限界が近い。心がこれ以上乱れれば、こちらに向いた黒き刃が一斉に飛んでくるだろう。

溢れ出そうな気持ち…それでもスターユを回復させることに専念することで、どうにかぎりぎり堪えている。


「もうそろそろ、器が限界みたいね?この国の王女は、わたしこそが相応しい。そこにあなたは要らない。ま、手駒にした後であなたのファンの中にでも投げ込んであげるわ」


(やっと消せた…のに…こんなところで…)

スターユに突き刺さった黒き楔の刃が弾け、消えたと同時に、私はうずくまる。攻撃を食らいながら彼の回復に費やしたことで、意思の力を大きく消耗していた。


「もうすっからかんかな、勝負あったわね」

ノクティーヌはそう告げると、玉座から立ち上がり、黒き楔刃をプレート状に敷き詰めた階段を形づくり、こちらへ降りてくる。

悔しいけど、私はもう戦える状態にない…。


「さぁ、スターユくん、さっきの続き、しよ?」


「断る」


(な……!?)

彼は確かにハッキリとそう言った。私はうずくまりながら目を見開く。

当然の如く、スターユの心窩に再び黒き楔が襲い掛かり、突き立てられる──。

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