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第12話. 手を繋ぐのと名前で呼び合うの、どっちが先がいい?

[AI非使用]

私は自称ノクティアの消えた方へと疾走しながら辺りを見回す。

しかし、アイツの姿は見当たらない、消えている。


私が"揺るぎない意志"の力を応用して色々な技を使うように、アイツも"否定・拒絶"の力を応用した、何か移動するための応用スキルを持っている?


スターユのところに行ったのは明白だ、だが彼の居場所がわからない。

早く見つけないと大変な事になってしまう。

これまでのアイツの言動をよく思い出してみよう…。奴の性格、敵の目的…どこへ向かったか?

探すのは、残された時間的にきっと一箇所が限度だ。


[牢獄がある、城の地下]

[裏門の方から外へと逃げた]

[私の部屋…とテラスがある最上階]

[操った兵士がいる軍本部]


私は…


(…)


アイツの性格は、わかりやすい。

わざわざマウントをとってきて、奪い、見下し、愉悦に浸る。

だからどこに行ったかはなんとなく想像できる。

すっっごくイヤだけど──


「いたぞ!!」

駆け抜けていると、こちらを指差すのはバルメキアの兵士が集まっている。

「お止まりください!!止まれ!!!!」

(こいつら…!)

長い槍を交差させて通行止めさせようとする。よく見るとアイツらにも、黒い楔のようなものが刺さっている。


自称ノクティア―


あれが女性タイプのヴェスパだと仮定すると、バルメキアは既に虫どもにより陥落している可能性がある。

本物のバルメキアの王女、"ノクティア"には恐らく何かがあり、ここにきているのは"ノクティアじゃない別の何か"。

あとは、別の何かが引き連れてきた、きっと能力で操った生き残りの兵士たち。

つまりは警護という建前を利用して入ってきた敵が場内…王国内に侵入してきている。


(出力が大分戻ってきた…!殴ってぶっ飛ばしてもいいけど…)


(今はアンタたちの相手してる場合じゃないのよ!!)


"猛然たる金剛石の突撃(ダイヤモンドブリッツ)!!!"


“揺るぎない意志”の力で、地面や壁を蹴り弾き、一気に移動する、応用技。アリシアは力強く壁を蹴り、その身を射出させるように勢いよく跳躍させた。

その身はバルメキアの兵士が槍を交差し封鎖する隙間を一瞬で潜り抜け、壁に着地、壁を勢いよく蹴り進む。


「跳んだ!!?」


バルメキアの兵士はそれを追いかけようとするも、圧倒的な速度に対応できず、見えなくなるのを眺めているだけだった。


最上階へと続く螺旋階段──

階段は使わず、壁を蹴りながら跳躍し、上へ上へと身を進める。


もう間も無く到着する…。


(間に合え…!)




シルベニア城 最上階テラス──


「ね、スターユくん」


「好きな人と手を繋ぐのと、とくべつな名前で呼び合うの、どっちが先がいいと思う?」


(ここは…)


シルベニアの城下町を一望できるテラス。美しい夜景が広がり、ほんのり照らす灯りは大きな時計台や夜風に揺れる色とりどりの花を照らしている。

そこにはスターユと、褐色の肌に揺らめくドレス姿の女性が佇み、互いに向かい合っていた。


「私はねぇ、どっちもすてきだと思うの」

女性はスターユの耳元で、囁くように続ける。

「さりげなく手を繋いで、ぐっと距離が近くなるのもいいと思うし…」

「なまえ、呼び方、お互いの特別な関係を意識してから、二人で手を取って…そういうのも良いと思うの」


(頭が…重い)


スターユは、なぜだかふらふらする頭で必死に状況を確認しようとする。

俺の目の前、腕を前に出せば身体に触れてしまうほどのものすごく近い距離で誰かが喋っている。


その周りは、懐かしい匂いする見知った景色。

ボヤけた視界に滲む、花の色…。


「でもね?」


「仲良くなるのに、どっちが先じゃないといけないなんて、決めるべきじゃないよねぇ?神様が決めたわけでもあるまいし」

女性は人差し指を頬に当て、ふと夜空を眺める。


「…だからねぇ、私、思うの」


女性は瞼を少しだけ閉じた後、真っすぐ、スターユの瞳を見つめて言う。

「"同時"っていうのも、すごく素敵だって」


「二人で手をつなぐのと、特別な呼び方で呼び合うの、”同時"―。それって、お互いに愛し合っていないと起こり得ない事じゃないかしら?」

少しだけ首をかしげながらスターユに向かって、その人物は上目づかいで微笑む。


(…)


「呼び方…。いろんな呼び方で、私のことを呼んでほしい。でも、まずは私のこと、しっかり"名前"で呼んでほしいかな」


彼女はそう言うと更にスターユに身を寄せ、揺らめくドレスの生地が、彼に触れてしまいそうなほどに接近した。


「私の名前はね、"()()()()()()"っていうの。私の名前を呼びながら、一緒に…手、繋ぎましょ?」


「さぁ…」


俺の目の前にいる人物は、両手をこちらに差し出す。


視界がぼやけていてわからない。思考を紡ごうとするとまるで砂を結ぼうとするかのように散らばり、考えることができない。


そして、俺は…。この場所の、俺のいちばん、懐かしい記憶、花の香り、滲む風景からそれを選んだ。


「アリシア…様」


「……」

自分のことを"()()()()()()"と呼んだ女性は、沈黙し目をつむる。


「ん~…私、そんなこと言ったかなぁ?」

ノクティーヌは、頬を膨らませて腕を組む。


「私は……アリシア様、を……守らなくては」

「だから…誰かなぁ、それ?女の子の名前を間違えるのは重罪なのよ?はぁ~~~、もっとでかいのいっとくか」

彼女は溜息をつくと、突然鋭く、冷たい表情になる。


「そいつ、そろそろあたしの手駒になってるころじゃない?」


「うぐっ…!!!」

胸を突き抜ける痛み。

思わずうずくまる。思考は先ほどよりもさらに鈍り始めた。


自分の意識のスペースがどんどん狭くなって、代わりに別のものが入ってきて、なにか自分以外のものに占有されるような…。


呼吸が浅くなる。

俺の意思じゃないのに、勝手に体を起こしている。

感覚だけはあるが、目の動きや、腕、指の動き、ほんの細かい動作が、自分の意思と関係なく勝手に動き始めている。

自分の思う行動じゃなくなっている。ここから、逃げられない。


「いい反応ねぇ、効いてきたでしょ?ふふふ、それじゃ、もう一度いってみよっか?」

彼女の表情は柔らかくなり、スターユの腕の前に笑顔で両手を差し出す。


「呼んで、私の名前。"ノクティーヌ"」


「ノク…ティ―」

指が…もう、触れる。


その瞬間―


"揺ぎ無き金剛石の流星(ダイヤモンド・メテオ)!!!!"


凄まじい速度で何者かが降り注ぐ。

とん、と軽く地面に足が触れた後、高速で飛び込んできたその勢い全てを載せた握り拳が

ノクティーヌを名乗る女性の脇腹に叩き込まれた。


そのしなやかな脚は着地とともに確実に地面を捉え、腰を深く落とすと、力強く握られた拳が一気に振り抜かれる。

拳を叩き込まれたノクティーヌは、降り注いできた者よりも更に強烈な速度で吹き飛び、大砲の砲撃のような着弾の響きとともに時計台へと激突した。


「さっきの、仕返し!」


それは、夜空のような祝宴用のドレス姿を身にまとった、栗色の髪の王女。アリシアだった。

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