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6.設定への抵抗(レジスタンス)

ラクタから魔法の基礎理論を教わってはや一週間が経ち、実践的に魔法を使ってみる訓練が始まった。

ラクタが俺の精神性エネルギー生成量を診て曰く、数日の勉強で約二倍に成長(元の値が小さすぎるので倍でも大したことない)。最低限の魔法を使える程度にはなったはずなので、試してみようとのことだった。

それでまたなんだかんだと、設定を詰め込んだ長ったらしい訓練パートが始まるのかと思ったら、案外すんなり使えるようになってしまった。

ありがちな魔法の発動条件として、詠唱するタイプと、イメージや感覚で特に説明が無いタイプがある。

この世界は後者のシステムで、自然科学や社会構造は元の世界(日本)が下敷きにされているのと同様に、ON/OFFスイッチを押す、蛇口を捻る、ガスコンロのつまみを回すといった感覚をイメージすれば勝手に発動する。

複雑な設定に反して、使い方は実に簡単だった。まあ、俺でも使えるような魔法だから簡単なのかもしれないが。

ともかく、俺はやっとこの世界観に適応できたように思えて、安心を感じると共に人知れず興奮で沸き上がっていた。


一つのことが出来ると、色んなことを試してみたくなった。作家は好奇心が強い人がなるものなんです。ガキっぽいとは言わせません。

……愉快なのは結構。

一方で、俺はある問題に直面していた。

この世界にやってきてからというもの、常に元の世界に戻る方法の模索と、ここの生活への適応に努めていた。

つまり、ずっと気を張りながら生活していたので、そろそろ疲れてきたのだ。

ラクタの一件もあり、目の前の現象全てに意味と分析を考えようとするのは加減しようと思った。しかし、無意識にスルーして大事なヒントを見落とすことも恐れている。

かといって、緊張状態が続いて疲れが溜まり、パフォーマンスが落ちるのもよろしくない。

こういう時は「何も考えなくてよい時間」や「息抜き」が必要なのだ。

しかし、この家には思ったよりも俺のプライベートがない。

何故、ここで特別にプライベートの必要性を語るかは、察してほしい。

誰もおっさんの性事情を詳らかに聞きたくないだろう。

この住まいは、共有空間のリビング・ダイニング・キッチンと、俺の寝室という間取りであることは何度か説明している。

寝室は俺のプライベート空間だが、隣のリビングには三姉妹が常駐している。常に近くに人の気配がするというのが落ち着かないのだ。

また、三姉妹も掃除などの用事でこの部屋を出入りすることも普通にあるし、女の子と一緒に生活している以上、こちらも配慮をしなければならない。大人として

大人として。


まあ、この辺りの問題もやるところ(作品)はあるけどさ。

別に、作者が設定したとかではなくて、俺から発生してる問題であるのが、実に腹立たしく情けないところである。

物語をスムーズに進める為にはそこんとこ省略する(性欲を無くす)とかさ、タイトなスケジュールでも疲れないとか、「無いとおかしいけど、敢えて描写しない」のも技術の一つなのよ?

まーたそんなメタいことを考えて気が滅入ってきた。


どうせ考えるなら、建設的にいこう。

まず、なんでいい大人が女の子にお世話されて、一つ屋根の下で生活する必要があるんだ?

これまでは、魔動機という生活必需品を扱えず、そのうえ街のシステム等の勝手がわからなかったからで説明できる。

しかし、もう簡単な魔法は使えるし、一人で買い物、諸手続き、料理や洗濯などの家事は元から出来るのだ。

だったら、このあたりで三姉妹の助けを借りず、一人暮らししてもよいのではないか?

常に監視・保護が必要な事情もなさそうだし、橘氏や三姉妹に相談してみるか。


早速、思い立ったその日のお勤めで、橘氏に一人暮らしの話を切り出した。

「え? お世話してもらわなくていいんすか? 面倒な家事しなくて済むから、楽でいいのに」

橘氏は意外といった反応をしていた。

「プライベートな時間が欲しかったら、家事ぐらい自分でやって当然のことだよ」

「はあー、偉いっスねえ⋯⋯。アミラたちの様子はどうです?」

「色々なことを気にかけてくれるし、最近は魔法を教えてもらっていて、とても助かってるよ」

「へえー」

その時の橘氏は、なんだか物足りないといった表情で、当たり障りのない報告には興味なさげな印象だった。

「そんだけっすか? 何か進展とかは」

「進展ってなんだよ⋯⋯あっ」

ここで、どこかすれ違いのあるこの会話について、俺が先に原因を察した。

「まさか、据え膳をしてやっていたつもりなのか?」

思わず、言葉に怒気が混じった。

橘氏はびくと萎縮したあとに、もにょもにょと白状する。

「いや、オレの時はそうだったんで⋯⋯。別に彼女"たち"も嫌嫌というより、寧ろ喜んでって感じだったし。合意と、この世界の常識が許すんだったら、こりゃもう据え膳食わぬはなんとやらですよ」

俺は言葉もなく、呆れ果てた。

確かに、最近は露骨にハーレムでウハウハみたいなラノベも多いけどさ。それを当然のように受け入れて、楽しめる感覚は俺には理解出来ない。

こういう類の話は、女の子たちがみんな主人公のことが好きで、みんな平等に幸せにするため〜とか。最もらしい理由で済ませて、倫理的な葛藤を描いているモノは少ないように感じる。

橘氏はまだ若く適応力があり、作者の設定したイベントや運命に抵抗がなかったのだろう。

「前にも言ったけど、俺は元の世界に奥さんと二人の子どもを残してきているんだ。そんな不誠実なことは出来ないし、やっちゃいけないし、やりたくもないよ」

「ああ⋯⋯そこまで言われたら、余計な気遣いだったかもしれないっすね⋯⋯。ごめんなさい」

「いやここで頭を下げるな。側近たちに見られたらやばい」

高貴な身分の橘氏を謝らせたとなると、今度は俺の立場が危うくなる。

「でも、日比谷さんに世話役を遣わした方がいいって言ってきたのは、側近たちだから⋯⋯」

やはり、橘氏は人が良いだけで利用されているのではないか。この国の将来が不安だ⋯⋯。

「ともかく、一人暮らしの件は打診しておいて欲しいな。可能な限り早々に。アミラたちには俺から説明しておくから」

「わかったっス⋯⋯。じゃあどんな感じの家がいいっすか? 政務局から近い方がいいとか、部屋はどんだけ広くて数欲しいとか」

「あー⋯⋯立地はそこまで政務局に近くなくていいから。今までの家から近くで、それで中心街の近くであれば。新しさや広さはなんでもいい」

「了解っス。じゃあ、打診しときます」

まったく、橘氏には少し幻滅してしまった。

ああ見えて性に奔放とは思わなかった。

確かに、エンターテインメントにエロや恋愛は付き物で、それを目的に読む人もいて、大きな需要でもある。

一つ考えたこの世界の設定として、橘氏と俺はら同じ作者の作品で、それぞれ別の主人公である可能性が高い。

所謂、スターシステムというやつだ。

きっと、橘氏はチートスキルで成り上がってハーレムウハウハみたいな作品の主人公なのだろう。

ただでさえ、出来の悪い設定が目立つ世界観でそれをやられたうえ、もし添削や講評しろと言われたらなかなかキツいものがある。

もういいや、気が滅入ることは考えないようにしよう。


頭を切り替えて、では俺の方は、どんなジャンルの主人公なのだろう。

まず年齢からして、十代〜二十代に向けて感情移入させるような属性じゃないよな俺は。

元の世界でも引きこもりや無職ではなく、虐げられていた訳では無い。寧ろ、かなり幸せで成功していた側だと思う。

じゃあ、読者のターゲットは、そこそこ幸せな男性オタク向け? はっきりしないし、そもそもリアルで充分幸せな連中が、この類のラノベを読むのか?

本当に、この物語は何がしたいのかがわからない。推理小説をやりたいなら、もうちょっとマシな設定を考えろ! 何度も言っているが、色んな要素を混ぜずぎでテンポが悪い!

はあ⋯⋯ダメだな、これは。

すぐにイライラしてくる。

じゃあ、最後にもう一つだけ仮説を。

俺は、理解出来ない設定や矛盾、おかしさを感じるものを、物書きの定石という観点で「意味のないもの」として捉えてきた。

しかし、推理小説であれば、その矛盾こそが物語の大きな鍵となる場合が多いだろう。

神経質になっていたこの頃の俺は、多くの設定を分析してきた中で、くだらない=関係ものとして唾棄した設定も多かった。

もし、そうであるならば、俺は一体どれだけの伏線を棄ててきたかを考えると、青ざめてくる。

然るべき休息を取り次第、これまでのデータを肯定的に再評価してみることも、必要かもしれないと思った。


いつまで毎日投稿続くかな。

出来るからやっているだけだから、どっかで頻度落ちると思うねり

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