表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

5.ハイライトが泳ぐ

机に分厚い本を何冊も積み上げ、一心不乱に読書に耽る少女。家を飛び出したラクタは、近所の図書館で独りの時間を過ごしていた。

「ラクタ」

俺は彼女の隣の椅子に座り、静かに声をかけた。

「どうしてここが」

ラクタの質問はひどく形式的だった。

その一方で、本から滑らすように俺の眼へと移された、鋭くもまだ幼い丸みを帯びた彼女の眼差し。

そのアニメーションには、言葉とはまた別の含みを感じた。

「魔動機のエネルギー供給ラインから逆探知して、アミラが居場所を教えてくれた」

アミラからは「たまにあることで、いつもは放っておく」と言われたが、俺はそれを許せなかった。


ラクタの態度に対してではなく、人の気持ちや人生に"設定"というレッテルを貼って、軽んじていた自分に許せなかった。

ここに来てからというもの、この世界の人たちを"メタ"的に観察するばかりに、俺は彼らが生の人間であることを忘れ、いつも整合性で批評するような考えに陥っていた。

それは表に出さなければバレやしない。そして、今まで出会ってきた人はみんないい人だった。その善意に甘えて、勿論リコ、アミラ、ラクタにも甘えて、自分は何の役割も果たすことなく、言いたい放題言ってきたのだ。

これではいつか、メタな分析のために、俺は一線を越えて人として大事な思いやりを失うような気がした。

その認識の歪みを、ラクタの出奔が気づかせてくれたのだ。

「心配させてしまったら申し訳ございません。しかし、仕事は完璧に終わらせてあります。休日は召使いもある程度は自由時間が許されており……何かご要望、簡易なものなら自律型術式生成装置にいつものように『ラクタ、』……」

「いや、俺はラクタに魔法理論を教えてもらいに来たんだ」

ラクタは、少し驚いたように眼を見開いた。

しかし、すぐ瞼が重くなり、疑わしいという様に「お叱りにならないの?」と尋ねた。

「さっきのことは気にしてないよ。いや、きっかけにはなったけど」

「なんのきっかけ?」

「ラクタのことを、もっと知りたいと思うきっかけだよ」

ラクタはまた、驚いたように眼を見開いた。先程とは違って、大きな瞳の輪郭がはっきりとわかる。ハイライトの雫がくるんと泳ぐと、彼女はそっと眼を閉じ、今度は伏し目がちに目線を逸らせて「どういうつもり」と呟いた。

「ラクタは精神性エネルギーのエキスパートだって聞いたから。それでね、ただ魔法理論も教わるだけじゃなくて、ラクタがいつもどんな風に仕事をして、どんなことが楽しくて、他にも好きなことや嫌いなものまで教えてもらいたくなったんだ」

「随分急な話。わたしと喋っても面白くないのに」

「面白さなんて求めちゃいないよ。俺は知れることを喜ぶのさ。だから、ご主人様からのお願いとして、色々なことを教えて欲しい」

そこまで言うと、ラクタは視線を俺の顔に移し、上目遣いで「うん」と頷いた。

そして、俺は椅子を寄せて、肩をくっつかせるような位置に座り直してから、周りの迷惑にならないようにひそひそと喋り始めた。


実は、俺はお喋りが大好きだ。

人がいればずっと喋っているし、いなければずっと思索をしている。

ひそひそ声とはいえ、ずっと喋るのは憚られたが、幸いにも図書館に人は少なく、注意もされなかった。

ラクタは、しばらく軽く困惑して気を散らしていたが、やがて落ち着くと、魔法理論以外にも自分の話をしてくれるようになった。

「アウトプットばかりしていると、悪い意味で煮詰まっていく気がする。だから、たまにインプットをして気分転換をする」

「勉強家なんだね。俺も見習わないとな」

「ご主人は既に賢い。これまでたくさん勉強してきたと察する」

「それはどうも、確かにそれは当たってる」

一浪までして大学に行ったので、恐らく普通の人よりかはたくさん勉強してきたと思う。さらに、物書きとして知見を広げるために、インターネットを駆使して様々なものを調べたり、勿論たくさんの本も読んできた。

精神性エネルギーは勉強で育つと聞いて、最初はロマンも都合の良さもない設定だと嗤っていた。しかし、地道な努力と成長が担保されている世界の方が、実は幸せなのではないかと考えた。

いつしか、俺とラクタの間にあった、とっつきにくさの壁は消えていったように感じた。








週二以上の投稿を目指しますを

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ