4.解像度の高い設定
あーあ、本当だったら今日は、コミカライズの案件で漫画家さんとの面談だったのにな。
相変わらず、この物語の進みは遅い。
作者はどういう意図でイベント日程を設定しているのだろうか。
物語内の時間経過って実はあまり気にされないし、多少無理のあるスケジュールでも、そこまで物語のクオリティに影響しないんだよな。
とある宇宙世紀のお話でも主人公は三ヶ月でニュータイプに覚醒してるし、F91は一本の映画で結構な時間経過しててびっくりしたし、Vなんかは二ヶ月半の間に宇宙と地球を行ったり来たりカテジナ発狂してるんだから。
ここらで俺も発狂したら面白くなるかな。
そんな与太話は置いておき、この数日で分析を続けてみたところ、この世界を考えた作者の「設定の整合性でこだわるところ、無関心なところの傾向」がわかった。
これまで、解像度の高すぎる描写と、雑な描写を「ダメなやつ」としてツッコんできた。
しかし、案外それが作者の属性や性格を表しているのかもしれない。
やたら凝った魔法の設定や、ショートカット&肩出しファッションの美少女が多い点などはわかりやすい。
説明はしていなかったが、実は街にある草木や野生動物の姿がよく目に飛び込んでくるのだ。生き物に詳しくないなりに、どこかで見たことのある生き物が、そのまま描写されていることに気づく。
一方で、作者もよく知らないことは解像度が低いというか、とてものっぺりとした造形に映る。
服とか、家具とか、食事などが代表的だ。
あいや、断じて俺の語彙力や情景描写能力が低くて、そう見えているんじゃないよ?
(信じて)
ぐっと目を凝らして見ると、慌てて素敵なデザインに変わているような気がしなくもない。
ちなみに、今俺が思索をしている場所は、寝室のダブルベッドの上である。
今日はお勤めが休みなので、たまには動き回らず、一人でゆっくり思索とふて寝を繰り返すのも良いだろうと、もうすぐ昼前だというのにパジャマ姿である。
話を戻して、俺が詳しいことは初めから解像度が高く映る。物書きとしての視点の他に、大学時代に専攻していた地域創成・地域社会学的な視点でも、設定の緻密さと粗さを認識できるのだ。
それに気づけたのは、政務局と役所を行ったり来たりする仕事を任されたおかげかもしれない。
先述した生き物の件といい、この世界の"ガワ"は異世界ファンタジーのように見えるが、下敷きは現代日本の景色を基本としている。
橘氏の持ち込んだモノ(ノイズ)も影響しているだろうが、彼が来る以前からある文化や物理法則も同様に日本チックであるから、この説はかなり信憑性が高い。
そこから考えられる仮説は「解像度が高く映るものは、物語の重要なアイテムである可能性が高い」というものだった。
おお、画期的な推理を得られた気がして興奮してきた。
つまり、これからは「自分がよく関係するモノ・人」に注意して考えれば良いってことだ。
視界に埋もれたヒントを見落とさないように、あらゆる物事を注視して考える必要もない。逆にあんまり見続けると、本筋とは関係ないのに解像度が上がって推理のノイズになる。
俺の枕が四角形じゃなくて、円い形をしてるとか絶対に要らん情報だろ。
おお、メタイメタイ。
なまじ、物語を作る側として卓越した分析力・洞察力を備えているばかりに、作家の恥ずかしいところをどんどん暴いていく気がして申し訳ないですね。
多分、作者はライトノベルの専門家もなければ、どうせ書籍化もしてないアマチュアだから、物書きの定石も知らねーんだろなおい笑える。
俺は自分の推理に満足して、いい感じに気持ちよく脳汁が出たところで、昼飯に呼ばれるまでもう一眠りしようと、また布団に潜った。俺は寒がりなのだ。
そして、気分を落ち着かせて眠ろうとした辺りで「あれ、これって推理小説読むんだったら当たり前の話じゃね」と気づいた。
普段、推理小説を読んでいないことを晒し、恥を感じるべきなのは俺であった。
〜
俺はリコに昼飯で呼ばれ、興奮と落胆の温度差でシナシナになった顔で食卓についた。
三人のメイドは休日でもこの家にいる。
俺は休日でも、彼女らは帰る家と一人で落ち着ける時間は無いのかな。
「私たちに肉親はいません。だいたい、魔素戦争で生まれた孤児が多いですから」
アミラは深刻な顔もせず、当たり前のことを言うように教えてくれた。
「あっ、なんか訊きづらいことを……」
「いえいえ、転移者のご主人様が知らなくて当然のことです。むしろ、私たちの生活の心配をしていただいたようで、嬉しいです」
「まあ、そんな……ところで、魔素戦争ってなに?」
俺は話題を変えるついでに、気になるワードについて尋ねることにした。
「はい、魔素戦争は十年前に発生した戦乱です。魔素……魔法の理論書には、幹エネルギーと書かれている魔力の源のことです。
始まりは、突如としてこの魔素が大量に噴出する魔素孔が、カシワシ北門から十キロメートルの位地に発生したことからでした。ご主人様は、魔力理論についてはお勉強されていますか?」
「あー、生活に最低限必要な魔法を覚えるのに勉強してるけど。今読んでる本は、精神性と体力性エネルギーから魔力への変換の話が多かったから、魔素のことはあんま知らない」
やたら説明チックになってきたなと思ったが、これは物語を進めるのに重要な情報だと直感したので、なるべく話を引き出そうと身構えた。
「では、魔素の性質を簡単にご説明しながら。魔素は魔力の源で大きなエネルギーを持ちながら、実用には高度な技術を要します。現代で魔素をそのまま利用した魔法が発展していないのは、高度な技術の割に効率が悪いからです。しかし、精神性エネルギーや魔力とは違って、エネルギーを保存できる性質があります」
「その魔孔を調査したところ、巨大な魔素結晶が発見されました」
魔素結晶とは、この世界ではモバイルバッテリーみたいな感じで使われている石だ。しかし、希少かつ高価なので、用いられている場所は少ないという話は聞いていた。
だから、俺がウチの生活家電を使う時は、そのエネルギー源をラクタに頼っている。
「その魔素結晶を争って、戦争が起きた」
「お察しのとおりです」
「そこで! バーンッと突然現れて、戦争を終わらせてくれたのが、ここのご領主タチバナ様なんだよ!」
リコが自分も話に加わりたいとばかりに、顔を乗り出してくる。
「そうです。タチバナ様の特殊魔法は圧倒的な火力で、現在はタチバナ様がこの地を治めることで、侵略からの抑止力となっています」
へえ、そんなすごい火力なのか。まるで戦略兵器といったところか。ある意味、そんな危険な能力を、あのお人好しが持っていたのは正解だったな。
「それは偉いな。でも、その魔孔はどうなったんだ?」
「無くなっちゃいました。タチバナ様の魔法は、まさに魔素を使うものだったので。戦争で使い切ってしまったのです」
「今は一日一発しか出せないらしいけど、全盛期は四発とか五発イケたらしいよ!」
リコ、補足をありがとう。しかし、文面だけ見るとなんだかいかがわしいく見えるから、男性に向かって「出す」とか「イケる」とかやめような。まるで、橘氏の橘氏が衰えたみたいになっちゃってるじゃないか。
コホンと、アミラが咳払いし、話を続ける。
「魔素結晶が無くなれば、この都市を侵略する必要もなく、またタチバナ様の高火力魔法も健在でしたので、侵略国は和平して引き返したという結末です」
「なるほどねえ。こんど、ご領主に訊いてみようかな」
「ご領主には自身が英雄の輝かしい歴史かもしれないが、リコやアミラにとってはそんな良い物語でもない」
突如、冷たい声で呟いたラクタに、俺はぎょっとした。
ラクタ! とアミラは叱るが、ラクタは「ご馳走様でした」と食器を持って席を立ち、リコは「あはは……」と気まずそうに笑っていた。
「やっぱり、あんま訊かない方がよかった話なんじゃ……」
「いえ、あのコは魔素戦争の話をするといつもああいう態度なんですよ。ご無礼を申し訳ございません」
「いいんだよ。誰にでも思い出したくない辛い過去はある」
「でも、ラクタは家族の誰も死んじゃいないんだ……」
今度は、リコがぼそっと呟き、曇り始めた。
「それが悪いっていうんじゃなくて。寧ろ、ラクタはいつもわたしたちを思って、ああいう感じになるんだよ。別にもう気にしてないし、今が楽しければそれでいいんだから」
「そうですね……」
アミラはそのまま口を閉ざそうとしたが、どこか必要と感じたように、補足を続けた。
「ラクタは、私たちと違って名家の出身なのです。年頃になるとこのようなお勤めをする家の慣習で、私たちと一緒に働いていますが、あの戦争とは私たちと別の関わり方をしていたのかもしれません。詳しくは教えてくれないのですが……」
普段からムスッとした印象のラクタだったが、いつもはしない皿洗いを自分の分だけやってしまい、どこに行くかも告げず黙って出かけてしまった。
奉公人としてあり得ない態度かもしれないが、彼女は三姉妹の中でも多感な年頃という設定なのだろうと考えた。
これが、後々どう関係してくるかは分からないが、気分よく生活を続けていく為にも、何か大人として気の利いたセリフでも掛けてやろうかと思った。
軽く言ってくれて、本当にそれで済ませようとしているのか?
人のこだわりを偉そうに糾弾し、許容してやるといった態度を取れる身分なのだろうか?
人の行動、性格、そして今聞いた生い立ちさえも、"設定"として処理しようとしているのに。
上辺だけ同情して、配慮して、理解者面して、彼女と接することが、俺としてはどうなのか?
俺はラノベ作家や大人である前に、人として大事なことを忘れかけていた。
週一以上の投稿を目標にしてますを




