表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/26

25.悪役

「ゴボォッ!」

彼女は凄まじい勢いで嘔吐した。およそ、可憐な女の子が出しちゃいけない音を出して。

「ラクタ! どうした!」

例の敵(襲撃者)の目の前にして、突如として起こった非常事態。

そのパーティメンバーたちが動揺したその一瞬で、フォーメーションは総崩れとなった。

俺の魔力ガンは使用不能になり、自衛手段を失ったと判断をして即座に後退、マルトスが展開している結界の中へ退避する。

「無理をするな! 次の機会で狙おう!」

フルクスが、襲撃者を牽制していたリコとラーゲンに向かって叫ぶ。

ラーゲンは、魔石製の弾丸という一撃必殺の武器を持ってはいるが、無論当たらなければ意味がなく、逼迫した状況で使用するのは難しかった。

しかし⋯⋯

「リコ! おまえは先に引っ込め!」

「え?」

ラーゲンは、リコを俺たちがいる結界の方へ蹴り飛ばした。そして、流れるような体捌きで腰のホルダーに手を掛け、腰溜めで一発早撃ちを見舞った。

放たれた魔石製の弾丸は、まるで彗星のように虹色の尾を引きながら、鳥類型の化物の顔面目掛けて飛んでいった。

しかし、円錐形に尖る虹色の宝石は、硬質な外骨格に着弾する前に、モンスターを覆っていたオーロラのような"もや"へ、音もなく飲み込まれてしまった。

「やはりか!」

ラーゲンは目の前の襲撃者に唾を吐きかけるように絶叫した。

次の瞬間、彼は袈裟懸けに抉るような引っ掻き攻撃を受け、血潮を吹いた。

「ものは試しさ」

ラーゲンは崩れ落ちるのと同時に、最後の力と言わんばかりに、重い音叉を襲撃者に投げつけた。

襲撃者は、飛んでくる音叉を鎧のように硬質な長い腕で弾いた。そして、辺り一帯に空間が歪むような音波が、波打つように響き渡った。

「グガガッ゙!」

俺には効かなかったが、どうやらモンスターには効いている様だった。

ヤツが悶え苦しんでいるうちにマルトスが走り、負傷したラーゲンを抱え上げ、撤退準備を完了できた。

「緊急退避!」

アミラがそう叫ぶと、俺たちパーティを覆うように魔力の結界が張られた。それは、防御用の半透明のものではなく、毒々しいマーブル模様が渦巻き、如何にも"異空間を移動しています"といった演出をしていた。

そして、俺たちはファシオス中央都市の拠点までワープして、命からがら危機を脱することができた。

〜〜〜〜〜〜〜〜

物語において重要なイベントが起こった。

午後二時過ぎぐらいに、中央都市の郊外で襲撃者が現れたとの情報が入り、俺たちパーティはその現場へ急行した。

兼ねてより、想定していたフォーメーションと攻撃手順で、俺たちは襲撃者に対して着実に攻撃を加えていった。

流石、戦闘のプロであるラーゲン、魔法のエキスパートであるマルトス、ラクタたちの立ち回りは見事なもので、襲撃者のめちゃくちゃな体術や戦法を軽くあしらう様に戦っていた。

しかし、いくら魔力ガンや魔法の集中砲火を浴びせようが、リコやラーゲンが苛烈な打撃を入れ込もうが、ヤツにはまるでダメージが入っている感じがしなかった。

そしてある時、襲撃者とラクタの目が合った。

すると、突然ラクタがゲロを吐いて倒れ、それに気を取られた一瞬で総崩れになったというのが初戦の経緯だ。

結果、ラーゲンが重傷を負ってしばらく安静、テレポートを使ったアミラが貧魔力症(貧血みたいなもの?)で数日寝込むことになった。

襲撃者はその後どこかへ飛び去り、これまで襲撃された一日あたりの犠牲者と比べて、その日の犠牲者は少なかったと後から報告を聞いた。

連絡人からは感謝の言葉を伝えられたが、俺たちは喜ぶどころか、ラーゲンの重傷やラクタの異変、ほか襲撃者の不気味な性質が気にかかって、それどころではなかった。


「ラーゲンが、『ラクタを通じて伝えたいことがあるから、みんな集まってくれ』だって」

アミラが元気になった頃、ラーゲンもといラクタから作戦会議の招集があった。

ラーゲンの傷は肺にまで達しており、起き上がるどころか喋るのもきつい体調だったが、毎日律儀にお見舞いに来てくれるラクタを見て『ラクタに伝言してもらえばいけるじゃん』と思いついたらしい。

こうして、パーティメンバーはラーゲンの病室に集まった。ラーゲンの負傷以降、パトロール活動も中止になってしまい、パーティの中でなんとなく気まずい空気が流れていた。

旅路の間、意見の衝突はあれど、根本的にはお互いを思い合っており、以前の気まずさとは別質の"心配や触れづらさ"によるものだと、集まった連中の表情を見れば瞭然のように思えた。

また、例の襲撃者についての不可解さや不安など、みんなそれぞれ言いたいことをたくさん抱えている様にも見えた

「「みんなおれのことは心配しなくていい。このパーティで最もいてもいなくても良いのおれだったからだ。せいぜい、噛ませ犬になって、敵の情報を引き出すぐらいがちょうどいい役目なのサ」」

ラクタはラーゲンの口調を真似て、伝言を務めている。前半はともかく、後半の軽口はダウナーで淡々と喋る彼女には似合わない口調で、違和感がすごいがここでツッコむのは不謹慎なので言わない。

「そんなこと言うなよ。ラーゲンがいないと、戦術がまとまらない。それどころか、あなたがいてくれないと、僕たちは何も出来ないとまで感じている」

フルクスが、横たわっているラーゲンの手を軽く握って、そう労いの言葉をかける。

「「そうやって、すぐ感動"風"にしてくるおまえの性格は嫌いだ。だが、思いだけは受け取っておく。だから、その手を離してくれ」」

「素直じゃないな。ごめんよ」

フルクスは苦笑しながら、ラーゲンから手を離し、ベッドの上に置いてやる。

「「さて、今回みんなに集まってもらったのは、この前の戦闘で得られた情報を共有して、おれ抜きで任務を遂行出来るように、前に進むための作戦会議だ。おれの回復を待たず、みんな行動してくれて構わない」」

「うん⋯⋯」

フルクスがそう頷いたが、まだ納得していなそうな反応だった。それを見てラーゲンは、「「この会議はみんなの不安を取り除くという意味もある。ずっと辛気臭い顔をされると、おれの方も気分が悪くなってくる」」と、ラクタに言わせた。

「「本題に入る。この前の戦闘で得られた情報としては、まずヤツは戦闘においてはド素人ということだ。めちゃくちゃな破壊力をただ振り回しているだけで、体術や戦い方の定石というものを知らないらしい。だから、攻撃を食らいさえしなければ、危険になることはない」」

「それはわたしも思った。だから、お⋯ラーゲンさんがいなくても、わたしだけで十分戦える」

リコがそう相槌を打つと、ラーゲンはゆっくりと瞬きをして、話を続ける。

「「外骨格の装甲や魔力の障壁によって、防御力は非常に高い。これを破るのは難儀だが、音叉の攻撃によって、聴力だけでなく、恐らく視力やその他の感覚は普通の人と変わらないと推察される。また、一か八かで放り投げた音叉は、若者⋯⋯十代後半から二十代前半までの人間が特に苦しむ周波数の音だった」」

「正直、あれでまた吐くかと思った⋯⋯」

最後の一言は、ラーゲンが言ったのではなく、ラクタの呟きであった。

「「おれが分析出来たのはここまでだ。他に、戦いの最中に気づいたことがある者は手を挙げろ」

そう言われたが、一同はお互いの顔を見合わせた後、これ以上特にないといった様子で意見は挙がらなかった。

「ありがとうラーゲン。よく分析してくれた。しかし、ここまでヤツの性質がわかったなら、また戦略を考えられそうだな」

また、フルクスがラーゲンの顔を覗き込んで労いの言葉をかけた。

ラーゲンはフルクスの顔から逃げるように目を逸らした。一方で、彼はベッドの側にいたラクタの袖をつまんでちょいちょいと引っ張った。

「⋯⋯なに?」

ラクタは嫌そうな顔をしたが、ラーゲンは変わらずちょいちょいと引っ張っており、ラクタは心底軽蔑した目で彼の手を振り払った。

「⋯⋯ラクタ。あなた、何か隠していることがあるんじゃないの?」

ラーゲンとラクタのやりとりを見ていたアミラが、神妙な声音で不機嫌なラクタに声をかける。

なるほど、あれは、ラクタがラーゲンの伝言を拒否していたから、ラーゲンが「言え」と言っていたのか。

「隠しごと⋯⋯言いたくないことはある」

ラクタの返事は歯切れの悪いものだった。

「そういえば、ラクタ嬢は大丈夫だったのか? あの時突然吐いてたが⋯⋯」

フルクスからそう心配されて、ラクタはぴたりと固まった。

確かに、この前の戦闘が崩れた発端となったのは、ラクタの突然の嘔吐・失神によるものだった。

重傷のラーゲンばかりに気を取られていたが、ラクタの異変も不可解な現象として、原因をはっきりさせておきたいものではある。

「ごめん⋯⋯」

ラクタは前髪で顔を隠すように俯いて、ぽつりと呟いた。いやにしおらしく、あまり詰めるのも可哀想に思えてくるが、別に俺たちは責めようと言っている訳ではなく、逆に申し訳なく感じるぐらいだった。

「責め⋯⋯てない⋯⋯ゲホッ⋯カヒュ⋯⋯だが⋯⋯⋯大事な⋯⋯こと」

「おいラーゲン喋らなくていい、俺たちも無理に訊こうとは思ってないよ。ラクタにも色々あるんだ。別に関係ないことなら、俺らも気にしないよ。な? フルクス」

「あ、ああ⋯⋯うん、僕もそのつもりだ」

「でも⋯⋯」

「いいんだよ。ラーゲンの分析だけで十分だろ?」

アミラが何かを言おうとするのも遮って、俺はこの話を終わらせようとした。

ラクタは、自分が崩れたことでみんなに迷惑をかけたと思っているのだ。

いたずらに原因を深掘って、彼女を傷つけるぐらいなら、わからないままでもいいと思った。また、それが必ずしも、襲撃者の分析や物語の鍵になるとは限らないのなら、無理に明らかにしようとする必要はない。

それから、気まずい微妙な間を置いてから、またラクタが口を開いた。

「⋯⋯⋯⋯いや、ごめん。話す。それが、このパーティでのわたしの役目だから⋯⋯」

「ラクタ⋯⋯」

ラーゲンは彼女の様子を見て、そっと目を閉じる。

「わたしは、襲撃者の心を覗こうとした。そうしたら、ものすごく不快な感情が⋯⋯わたしの中に入ってきた⋯⋯」

「不快な感情?」

「そう⋯⋯別に、深くまで見ようとした訳じゃないのに、むしろ相手の方から、訴えかけてくるように⋯⋯」

ラクタはあの時のことを思い出してしまっているのか、徐々に顔が曇っていっており、正直可哀想で見ていられなかった。それでも、ラクタは一生懸命言葉を探して、みんなに伝えようとする。

「ものすごく気持ちが悪い⋯⋯。様々な感情が、鬱屈が、混沌がわたしに襲いかかってきた。今まで感じたことのない、とても複雑な感情が⋯⋯とても、怖かった」

いつの間にか、アミラとリコがラクタの両脇にまで来て、微かに震える彼女の背中を優しくさする。

「耐えられなかった。これまでたくさんの人の感情を目の当たりにしてきて、その辛さなんて慣れたものだと思ってたけど。そんなものの比じゃない⋯⋯。およそ、人として成立するはずがない、おぞましいほどに歪んだ、邪悪な精神状態。」

「なんか、とても抽象的なイメージだな⋯⋯ラクタ嬢、ヤツの素性に繋がるような、具体的な情報は何か見えてこなかったか?」

「分からなかった⋯⋯感情の奔流に襲われてそれどころじゃなかったし、それに⋯⋯恐らく、魔力透視の対策の術式を自身に掛けていると思う」

「素性を隠すための徹底的なセキュリティが施してあるということか」

セキュリティって言葉伝わるかな⋯⋯。

「違う。着眼点はそこじゃない」

なんか俺間違ってたみたい。そのまま、ラクタの話を聞いて、正解を教えてもらうことにする。

「魔力透視の詳しい仕組みは解明されていないものが多い、また分からないものは自己流で補填する、非常にオリジナリティの高い世界。そこで、わたしの魔力透視のクセに完璧に対応したガードをするのはまず不可能。だから、相手はこの世界の魔法の法則を完璧に理解していて、あらゆる対策を施しているのだと思う。魔力透視の対策の他に、ラーゲンの魔石銃も、"着弾した物体の魔力の繋がりを断ち切る"性質を知っていた上で、薄く細かい粒子状の魔力を放出して、相殺させたのだと思う」

「この世界の魔法の法則を全て理解している⋯⋯。ラクタは、魔力透視の対策って、自分で出来るの?」

「出来ない。魔力透視は、心の扉というか⋯⋯、人が"これ言おう"とか"言いたくない"とか思う思考の段階で、勝手に心の扉を開けて中を見るような感じだから。そして、魔力透視のスキルは、心の扉のマスターキーのようなもので、わたし自身も自分の鍵穴の形が分かっていないのに、相手がどんな鍵の形を作ってくるかなんて対策が出来ない」

「ラクタ嬢でも出来ない、特殊な魔法の対策を施してきているということは、相手は相当な魔法の使い手らしいな。その様子からして、魔力を使う攻撃は通らなそうだ」

フルクスが興味深そうにメモを取っているが、ラクタの顔には疲れの色が見え始めている。

まだまだ気になることはあったが、俺はこの辺りで作戦会議を切り上げるように提案して、具体的な行動計画はまた後日話し合うことにした。

この世界の魔法の法則を全て理解している⋯⋯。

ラクタの分析の中で、気になる話を心の中で反芻する。

俺が知っている設定の中で、この世界の魔法に関するエキスパートは、学者のマルトスと天才ラクタということになっている。

しかし、襲撃者はその二人をも凌駕する、魔法に関してな全知全能である存在として、今回認知されることになった。

この世界の魔法はとても学問的で、またよく技術的な限界が描写される物語である(浮遊魔法といい、魔力透視の対策といい)

しかし、そんな世界の中で、「あらゆる魔法の法則を理解しているから、あらゆる魔法が効かない」なんて、ズルい設定の悪役が生まれるだろうか?

現実世界では勿論、この世の全ての物理法則が解明されているなんてことはない。だから、どんなすごい科学者でもイレギュラーに襲われるし、所詮自分が作った設定(法則)でなければ、未知の設定に足をすくわれる。

しかし、"未知の設定"というものが無い、世界において、全てを知っているという存在がいる。

世界を創ったとされる"創造神"というもの、またこの世界がラノベか物語であれば"小説家"という世界の作者が、それに当たる。


連想ゲーム的かもしれないが、その"魔法の法則を完璧に理解している襲撃者"は、この世界の作者である可能性もあるのではないか?

それなら、何故作者自身が、めちゃくちゃな悪役として物語に登場しているのだろうか?

この線は非常に考えにくい。

しかし、ラクタの気になる情報といい、もしかしたら、襲撃者がこの物語の鍵となる重要人物であり、俺が元の世界に帰る方法も知っているかもしれない。

本当に、この世界の魔法⋯⋯理を知っているのなら。

また、以前ラクタと話したように、創造神や神様などの設定を理解していく為に、この世界の人にヒアリングを行うのもよいかもしれない。

神様のあり方や、創造神の概念が一般的にどう考えられているのかを理解できれば、一気にヒントが出てくるかも知れない。

例えば、この世界の神様は共通して赤い食べ物が嫌いとか⋯⋯。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ