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17.新章の前座

「そうなんだ……わたしだけ、お留守番か」

俺とアミラの予想通り、リコはその命令を素直に受け入れるような態度であった。

「なにか……言いたいことがあったら、遠慮なく言っていいんだよ。俺はご主人様であるけど、君たちの気持ちを大事に思える大人でもありたい」

頭ごなしに言いつけることは簡単だったが、それは俺の望むことではない。

そのために、ラクタが用意したリコ不要の戦術である理屈、仲間たちの素直な気持ちなどもきちんと伝え、俺はその代表者としてリコの気持ちに向き合うつもりでいる。

寧ろ、ここで何か言ってくれなければ、俺の気が済まないぐらいだ。

「もっと、ご主人のお役に立ちたかったなあ。わたし、ものすごく強いんだよ? ご主人の身体を鍛える専属コーチとか……も、わたしじゃなくていいんだよね?」

「あ……いや……。勿論、リコじゃないと出来ないこと、任せられないこともあると思う。決して、リコの能力が低いから、連れて行けない訳じゃない。わざわざ危険な戦場に行く必要が無いから、それを説明しているんだ」

「うん……わかります。そう聞きました」

「この出征はすぐに終わる。離ればなれになる時間も長くはない。帰ってきたら、また休日に一緒にランニングしたっていいし、今度は俺の肉体改造計画を手伝ってくれたっていい。そうだよ! 俺がいない間に、トレーニングメニュー考えておいてよ。半年から一年ぐらいかけて、マッチョになれるようなさ」

「あはは、それ面白そう。それだったら、ご主人がいない間も退屈しなさそうだね! わかった。考えておくよ」

リコはそう笑って、すんなりと話を受け入れてくれたのであった。

彼女の笑顔には、裏で一物を抱えているような陰りはあったけれど、それほど深刻そうなものではなく、日比谷マッチョ化計画の話も喜んで快諾してくれていた。

おかげで、俺は凱旋後から何に使うでもない己の肉体を鍛える羽目になるのだが、リコを危険に晒すことに比べれば安いものだ。

しかし、こうもあっさりと説得が済んでしまったことには、この作者は本気でリコを話の本筋から外すつもりなのだろうか?

それとも、すぐに終わる出征だから、一時的な離脱も構わないと判断したのか。

そんな事を考えても仕方がないものではあるが。

それよりも俺は、来たるべき戦いに備えなければならなかった。

ラクタからもらった、"橘式収束魔力火線砲"略して魔力砲まりょくガンを使いこなし、橘氏に代わるチート能力を身に着けねばならない。

その為、何度かアミラとラクタと三人で試射・練習を行い、戦闘のシミュレーションと魔力砲の改良を行った。

その結果、魔力砲はただの書道で使う筒から、肩に懸架できる紐と外付けの照準器が付いて、よりバズーカらしい見た目に。

また、必要最低限の自衛・回避運動の為に、アミラとラクタによる身体強化魔法で、飛んだり走ったり、軽く人間離れした機動力を身に着けさせてもらったりと、特訓パートらしきイベントも踏んだ。

正直、初めてと言えるぐらい、ファンタジー世界の醍醐味である魔法や戦いといった要素を楽しめた気がする。

空は飛べないが、一度のジャンプで一五メートルほど飛び上がり、体感十秒ぐらい滞空したり。

小学校の校舎ぐらいはありそうな巨大な岩を魔力砲で跡形もなく消し去ったりと、現実世界ではありえないようなビッグな体験をさせてもらい感激(尚、全て人の助けを借りたものである)

そんなこんなで急ピッチで一通りの慣らし訓練は行い、政務局に許可を取って俺を出征軍入りさせてもらったりと、ここ十日あたりは本当に忙しかった。

そして、出発が一週間後に迫ったある日、出征軍に参加するメンバー同士での顔合わせ会があった。

かつて、橘氏と共に戦った勇士たちが政務局に呼ばれ、橘氏を囲んで景気づけをしようという趣旨であった。

宴会に参加したのは、橘氏、アミラ、騎士団長のフルクス、カシワシ西大学魔法学科教授のマルトス、傭兵のラーゲン、そして新顔の無能転移者の俺。

ラクタは所用があるとのことで、出席しなかった。

出征のシリアスな話はどこへやら、みんな酒を飲みながら、ほとんどの話題は七年前の魔素戦争の思い出話が中心の、同窓会みたいなものだった。

若干アウェーな宴会ではあったが、アミラと橘氏が気を利かせて、時々話題を俺に振ったりしてくれたことで、俺も会話に入れる空気にしてくれた。

「いやあ、タチバナが行けないって言うもんでよ。おれたちだけで戦えと言われてどうしようか考えてたところなんだ。そこで、タチバナと同じ能力が使えて、あの時と同じ戦術で戦わせてくれるってなら楽でありがたいモンよ」

歳は俺と同じくらいで、やたらデカいテンガロンハットを被った無精髭のやさぐれ男、ラーゲンが俺に向かって"ガハハ"と笑いかけた。

姿格好は茶色が多めのカウボーイ風で、ハードボイルドなキャラを演出したそうな身なり顔つきにも見えるが、今のところ笑い上戸の気のいいおっさんである。

「僕たちも個々の戦闘力は高いけれど、それぞれが規律なしに動いては、英雄と持て囃されるほどの活躍は出来なかっただろう。その点、タチバナの火力は替えの利かないものだった。あなたのパーティ加入はとても心強いものだ。これからよろしく」

そう握手を求めてきたのは、騎士団長のフルクス、歳は橘氏と同じくらいながら、彼より相当しっかりした印象の好青年である。

また、騎士という高貴な身分を印象付ける造形として、金髪碧眼にオールバックで堂々とさらけ出された額、軍服に付けられた勲章の数々が自信と精強さを誇示するように輝きを放っていた。

「こ、これからよろしく」

俺もたどたどしいながら固くその手を握り、笑顔を見せてやる。

「転移者が過去の転移者と全く同じ特殊スキルを持つ事例はこれまでに報告されていない。研究対象としてとても興味深いから、出征を終えたらぜひあなたを調べさせてくれ。これからよろしく」

カシワシ西大学で魔法を研究しているというマルトスは、頬のこけた白髪の紳士で、齢は五十前後。このパーティの中では年長者で大人の落ち着きがあった。中近代の西洋の学者的なシンボルとして、左目にどうやって顔に乗っているかわからない円い片眼鏡をかけ、ややゆとりのある黒い背広を着ている。魔法使いというよりも、科学者や音楽家といったイメージの方が近い。

「え、ええ……出征が終わりましたらぜひ……」

マルトスとも固い握手を交わし、俺は椅子に深く座り直す。

しかし、俺がラクタの魔力を借りて戦うことは、橘氏以外には秘密にしている。そうしないと、俺は出征隊から降ろされてしまう。

「それにしても、ラクタ女史も出征に参加するとは驚きました。タチバナ様は彼女に召集をかけなかったと聞いていましたから、自ら志願なされたということで? どうですアミラ、最近の彼女の様子は」

話題は変わり、マルトスがこの場にはいないラクタの話を尋ねてくる。

(女史って……あいつ、そんな貴い呼ばれ方されるような身分だったのか?)

マルトス紳士の質問に、アミラが答えてくれる。

「ええ、至極達者にしていますよ。昔は感情が見えない無愛想な少女でしたが。今は、はしゃいだり拗ねたりと忙しくて手を焼いています」

「へえ、意外だなあ。でもまあ、楽しそうで何よりだ。僕たちも、タチバナと同じように彼女を心配していたんだ。魔素戦争の時は、少々御父上のラクトス参謀が強引だったからな」

フルクスがそう相槌を打つと、チラとラーゲンの様子を窺う仕草をする。

「あの子は可哀想ではあったが、それよりもおれぁあの目が不気味だったな。なんだろうな。人の心をスクレーパーでベリベリ引っ剥がしに入り込んで来るような、そんな嫌な迫力があった。あいつは人の考えていることが読めるってもんで連れてこられたが、どちらかと言えばもっと自分を知って欲しいと訴えてくるような気質に見えたな。だからではないが、おれもラクタの入営は意外だった。戦場の兵士には"尊重"という言葉はない」

「しかし、ラクタも成長して、もうそんな子どもではありません。自分で志願するだけの覚悟と苦労とは承知していると思います」

パーティの中でもラクタの入営を心配する声が多い中で、アミラがうまくフォローを入れている。

だが、ラーゲンは言葉では心配を謳いながら、ラクタの入営に疑問を投げかけ続け、どこか頑なであった。

「魔素戦争の時は非常時で、総力戦もやむ無しという状況ではあった。しかし、今は違う。代えが利くなら、彼女のようなお嬢ちゃんを連れて行く道理はない」

「そこなんだけど、実は魔力透視を使える人がまだ見つかって無いんだよね。一応、早めに出征した方がお隣の国の被害も抑えられるだろうしさ。みんなが集まるまでに見つけられなかったのは申し訳ない」

事情を話してある橘氏も、こちらに協力してくれている。

「いや、タチバナは悪くない。しかし……」

すると、ラーゲンはやや俯きがちになって、帽子の影の奥に覗く三白眼から、殺気を孕んだ鋭い眼光を突きつけてきた。

「おれぁ魔素戦争で、タチバナの護衛をやっていた。今回の出征では、あんたを守る役はおれが務める。中近距離戦において、この国で右に出る者はいないという自負がある。自分の身がかわいいのなら、おれの替えは利かないということをよく理解しておいてくれ」

ラーゲンはそう凄んでみせると、よっこらせと立ち上がって「武器の整備をせんといけないならここらで」と言って、不躾な態度で帰ってしまった。

「なんだろ。今日のラーゲンは機嫌が悪かったね」

「まあ、彼は自分の仕事(戦闘)に高いプライドがあるからな。真面目な話をすると少々こじれるのは昔からそうだ。その点、タチバナはよく可愛がられてたよな。難しい話をしてこないから」

「おい、その発言は不敬罪にカウント出来るんだぞ」

「ははは、失敬失敬。でも、たまにはこうやっていじらせてくれよ。いつもは堅苦しくていけないや」

ラーゲンの退室で悪くなってしまった場の空気を、フルクスが和ませてくれる。

「さっきは悪かったですね。彼、性根はいいやつなんですよ。こだわりが強いところはあるけど、これから親睦を深める機会なんていくらでもあるから、徐々に仲良くなってやって欲しい」

フルクスはそうフォローしてくれながら、俺のグラスにシャンパンを注いでくれた。

「ああ大丈夫、気にしないで。人をとても大切に思う性格ってことはよく伝わったから。ところで、ラーゲン氏が俺の護衛と言ってたけど、他の皆さんはどういう役回りなんですか? 一応、出征する前にある程度戦略とか確認しておきたくて」

「そうですね。あまり時間が無いけど、どこかの機会でみんなで合わせの訓練をやった方がいいかもしれない」

フルクスはそう言って手を叩き、テーブルに座る仲間たちを一周見回して「じゃあ、僕が各自の戦闘ポジションを紹介します」と立ち上がった。

「まず、ラクタが索敵担当で、敵の総戦力や単騎あたりの戦闘力、陣形など戦場の概況を把握します。次に、タチバナ……ヒビヤ殿の砲撃で敵戦力を大きく削り、その残党を狩るのが僕フルクスが務めます。ラーゲンは、ヒビヤ殿が砲撃地点に移動するまでの露払いと、僕が残党狩りに突貫している間の護衛をします。これが一連の戦闘スタイルで、アミラはヒビヤ殿の特殊スキルのリセットを、マルトスはラクタと共に後方支援を担います」

「今回の討伐対象は、単独行動を取っているとの話なので、一対多数を想定したこの戦術も多少改良する必要があるかもしれませんね」

マルトスが補足をして、「そうだ」とフルクスは頷く。

「また、僕たちはまだヒビヤ殿の実力を見せてもらっていないから、それによって調整するものもあると思う。今日来ていないラクタ女史とも話をして、改めて新たな英雄となるパーティを結成しよう!」

フルクスはシャンパンのグラスを持って再び立ち上がると、アミラとマルトスはすぐに察して同じようにグラスを持って立ち、俺も慌てて立ち上がる。

「良き旅路、良き勝利を願って……乾杯!」

フルクスの掛け声に合わせて、俺たちはグラスを高く掲げ、それぞれ黄金色のシャンパンを口に運んで飲み干していった。




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