16.パクりの寄せ集め
「ちょーと待ったあ!!! ゆりの木の館では不純異性交遊はご法度!」
突然、ドバァン!と部屋の扉が乱暴にぶち開けられた。
乱入者の正体は誰でもない、ラクタであった。
俺は腰を抜かして尻もちをつき、アミラは椅子から転げ落ちて普段の上品さからかけ離れたギャグテイストな姿になっていた。
「ラクタ! どうしてここに!」とアミラが言い、俺は「盗み聞きをしていたのか?!」と尋ねた。
どうして、アミラと俺が密談をしていたことがバレた?
俺はアミラと顔を見合わせて「話があってから、ラクタと会った?」と尋ねたが、彼女は驚き顔のまま首を振って「いえ、秘密がバレるといけませんので……」と答えた。
「ははは、あなたたちの考えていることなんてお見通し。あなたたちの思惑通りにはいかせない」
ラクタの口ぶりからして、俺かアミラの頭の中を盗み見た様子だったが、二人とも覚えが無い様だった。
それに、もし頭の中を読まれていたのなら、あのギュンッと心臓を引っ張られるような感覚があったはず。
「アミラがご主人に孕まされなくても、都合がよくなる方法あるよ」
「おいっ! 今何を言って!」
俺はついデカい声で叫びそう(半分叫んでいる)になったが、ラクタは左の手のひらをこちらに突き出して制止してくる。
「ご主人は、これからチートスキルを持つ転移者になる」
「おい、どういうことだ。話の繋がりが全く読めないぞ。きちんと説明しろ」
すると、ラクタはむふふとしたり顔で近づいてきて、何やら長い紐がついた木製の筒を渡してくる。大きさとしては、小中学校で使う習字道具の下敷きを巻いて入れておく筒の様だ。
重さは木製にしてはそれなりに重い。削り出しのような木目のつき方で、側面にびっしりと細かい字が掘られている。これは、ラクタが魔道具を作る際に書いている術式、魔法のプラミング言語だ。
「なんだこの筒」
「名づけて、橘式収束魔力火線砲」
「だからなんだよこれ。まさか武器?」
「そう、何日も徹夜で作った傑作機」
確かに、よく見るとラクタの目元には深い隈がある。クリエイターは創作に夢中になって夜更かしすることよくあるけど、成長期に寝不足はよくないぞ。ラクタは俺と違ってまだまだ色んな伸びしろがあるんだから。
と、未だに話の流れが掴めないものだから、心の中で毒づいてみる。
しかし、そんな俺の心など興味がないといった様に、ラクタは自分の話したいことを一方的に喋る。
「これは、ご領主タチバナ様の能力を参考に開発した武器。タチバナ様は高エネルギーの魔素をそのまま放出する特殊な魔法で敵を殲滅したが、この武器は精神性エネルギーや魔力を火線として射出することが出来る」
うーん、確か橘氏は自分の能力を「ゲロビを撃てる能力」と言ってたから、これはビーム◯イフルといった感じなのかな?
「でも、精神性エネルギーや魔力を純粋な火線として射出する魔法は、それほど新規性もない普及している技術ですよ?」
なんだ、◯ルトラークみたいな技術なのかな。それにしても、この作者色んな作品からパクってばっかだな。
「ご主人は魔力が低すぎてマトモな戦闘用魔法を扱えない。しかし、この橘式収束魔力火線砲はエネルギーを外部から供給する。仕組みとしては、ご主人がラクタのエネルギー供給で動く魔動機を使うのと同じ」
「はあ……それが、どうして俺たちに都合よくなるんだ?」
正直、武器の説明をされただけでは、話の本質が見えてこない。
「それで? なんで俺に、こんな立派な武器が必要なんだ?」
その質問に、ラクタはまたにまりと口を歪ませて、自分のアイデアを誇るように説明をしてくれた。
「つまり、この武器を使って、ご主人はアミラと一緒に出征する。ついでに言うと、ラクタも着いていく」
「えっ、なんで……いや、俺がアミラの代わりに戦場に行くのはまだわかるよ? アミラと一緒にって……それは意味なくないか? それに、なんでラクタまで戦場に行くんだよ」
「だって、この武器はわたしの精神性エネルギーがなければ高出力が出せない。また、運用方法としては、ご主人が射程距離まで襲撃者に接近し、ラクタのエネルギー供給を経て高威力の火線砲を発射。わたしのエネルギーが尽きたら、アミラに"エネルギーを消費する前の状態"に戻してもらう。これで、無限に高火力の火線砲を対象に叩き込める」
「それって……魔素戦争の時のわたしとタチバナ様の戦法みたい……」
アミラは目を丸くして驚いていた。
一方、ラクタは無い胸を一生懸命膨らませて得意げな顔をしている。
「これでさっさと討伐を終わらせて、みんなで帰ってこよう」
なるほど、その手があったか。
橘氏が行けば一発で解決する話の代替案として、アミラの危険な出征が考えられたのなら、いっそのこと橘氏の戦法をそのまま用いれば簡単に解決するというのだ。
アミラが戦場に行くことは避けられずとも、すぐに用事を済ませて帰ってくれば問題は無いに等しい。
しかし、そんな便利な道具を開発出来るなら、何故これまでに実用化していなかったなど疑問が残るが、そこをツッコむのは野暮と言えよう。
「武器の構想は前々からラクタの頭にあったが、実用化して大量配備されるとまた争いの種になるから、敢えて作っていなかった」
俺が抱いていた疑問にちょうどよくラクタがアンサーをしてくれた。
「俺は射撃の心得なんてないぞ」
「射撃目標を強く意識すれば、思いの力によって勝手に弾が飛んでいく」
サイコ◯ンかな。
「じゃあこの紐はなんだ」
「ラクタとご主人をつなぐ絆の糸。エネルギー供給のロスを少なくする為に必要。将来的には魔石で無線化も可能」
メ◯・バズーカ・ランチャーかな。
「さらに、魔力の収束率で弾速が早く貫通力が高いエネルギー弾と、弾速が遅く破壊力のあるエネルギー弾を撃ち分けられる」
ヴェ◯バーかな。
もうSFのパクりはわかったから。もう痛いよいい加減。
「それで、ラクタが一緒についてこないといけない理由は……」
「この武器のエネルギー供給先はラクタのみに設定してある。わたしでなければ使えないし、わたし自身も相当のエネルギー生産・貯蓄量があるので、最大威力はタチバナ様のそれに劣らない」
ラクタはそう自信あり気に言うが、それでも俺はまだ完全には納得できていなかった。
結局、女の子たちを危険な戦場に連れて行かねばならない現状は変わっていないのだ。
また、これはあくまでラクタという一少女の思いつきであり、頭の固い側近やこの国の上層部を納得させられそうなだけの理屈を伴っていないようにも感じた。
戦術としても、よく考えればガンナーの俺の役割は必要がない。つまり、この橘式なんちゃら砲は、俺を連れていく為の口実でしかなかった。
俺が腑に落ちない顔をして黙っていると、ラクタは先程の力説とは違う声色……それも、異様に澄んだ声で「ご主人」と呼んできた。
「ご主人に拒否権はない。おわかりでしょう?」
拒否権はない。なんて、恐ろしい言葉なのだろう。
しかし、俺はそう言われた衝撃よりも、さらに背筋の寒くなるような光景を目撃していた。
「拒否権はない」と突きつけてくるラクタの方が、なぜか諦めたような、投げやりになっているような不気味な微笑みを浮かべているのだ。
俺は、その意味深さの方がひどく気になった。
しかし、ラクタの言う通り、この世界(物語)において、俺に拒否権はおろか、何の決定権もないことは正しかった。
「……わかった。じゃあラクタも一緒に行こう。そして、サクッと終わらせてみんなで帰ってこよう!」
俺は、仕方なくラクタの提案を受け入れ、作者とその産物である彼女らキャラクターたちが差し出す運命に任せることにした。
恐らく、作者の考えとして、俺を含めたみんなで戦場に出るという展開に持って行きたいのだろう。
また、戦術に俺の存在が必要ないとも言ったが、アミラとラクタだけを戦地に送り出すことも俺は納得しない。
「……そうですね! そうしましょう! ラクタ、よろしくお願いします」
アミラははじめの方からラクタの提案を受け入れる様子だったが、俺の承諾を見計らってラクタを抱きしめに行った。
「フフフ、改めてよろしく」
ラクタはアミラの胸の中で少し照れくさそうにしながら、不器用に笑った。
こうして、ガンナー日比谷、ヒーラーアミラ、そしてエネルギーラインラクタのスリーマンセルのチームが結成された。
〜
「リコは置いていく。彼女の役割はない」
ラクタはそう冷たく言い放った。
「この三人は自衛力が無いことが課題だけれど、リコ以上に優秀な近接戦闘のプロはたくさんいる。彼らに護衛を任せたほうがいい」
ラクタの言うことはもっともだった。
その上で、どこかリコを突き放した言い方に引っかかる。
「でも、この三人が出征するとなったら、やっぱりちゃんと説明しておいた方がいいよね?」
「機密なんでしょ? 言ったら、絶対着いていくと言って聞かない」
「機密といえば……ラクタも知っちゃいけないんだからねこれ」
その件に関しては気にするなと眉をしかめて、彼女は話を続ける。
「このスリーマンセルを守るのは、どんな役割よりも危険。アミラを危険から守るのに、新たに仲間を危険に晒したら本末転倒」
さきほどまで突飛な話をしていたとは思えないほど、ラクタはもっともらしいことを言い出し始めた。
しかし、アミラ・ラクタも一緒に運命を共にするというのに、リコだけ仲間外れなのもおかしな話である。
もし、俺が作者なら、これまで話の中心に置いて肉付けを行ってきたキャラクターを急に外すことはしない。
どうにかしても物語の展開に連れて行こうとするだろうし、それだけの理屈も考える。ラクタや俺がそうであったように、リコにもそれだけの理由やイベントが用意されている筈なのだ。
故に、ラクタが物語の流れに逆らって、リコを排除しようとするのが不自然に見える。
かといって、俺もリコまでも危険な戦場に連れていくというのは本望ではない。その点では、ラクタと思いは同じだ。
「でも、黙って行っても、後からバレるのは同じこと。それなら、きちんと伝えた方が誠実だと思う。俺はリコを欺くような真似で、信頼を失いたくない」
すると、ラクタは腕を組み、右手を軽く握って口元にあてて考える仕草のまましばらく固まると「では、ご主人が『来るな』と命令すればいい」と言った。
「でも、ラクタは俺に拒否権はないと言ったよね? ご主人様に向かって……俺にそんな権限あるのかね」
「うぐっ……」
ラクタはわかりやすくたじろぐ仕草をした。
考えなくても、ラクタを含めこの館のメイドたちは失礼な者ばかりである。
面会謝絶・手出し無用と言っても世話焼きにやってくるし、〇〇やってくれは聞いてくれるけど、〇〇やるなは無視して干渉してくる。リコもこの前運動に誘ってきたし……まあ、あれはいい気分転換になって結果オーライだったから、怒ってはいないけど。
それでも、これまでの傾向からして、命令したところでそれを破ってついてくる可能性は高い。
しばしの沈黙があった後、ラクタは何かに怯えるように挙動不審な感じになり、また言いづらそうにぼそぼそ喋り出した。
「そ、それは……ご主人が許してくれそうだったから……つまり、わたしたちがご主人をナメてたから色々とその……でも、真面目に命令してくれたら、きっとリコも理解すると思う」
ホントクソガキだなコイツ。
俺は左を向いて、一緒に話を聞いているアミラの様子を窺う。
アミラはラクタに鋭い視線を向けており、ラクタの挙動がおかしくなった原因は俺ではなく、アミラにありそうだった。
それを含めて、ホントに大人をナメている。
アミラが俺の視線に気づくと、彼女は慌てて「いえ! ラクタが勝手にわたし”たち”と言っているだけで、わたしは決してご主人様に決して不遜なことは考えておりませんよ! ほんとうに!」と弁明していた。
「それは分かっているから……後輩の教育はしっかりね」
「申し訳ございません。ラクタは特に手のかかるコでして……」
「ヒエッ……」
これ以上ラクタを怯えさせても話が進まないので、本題に戻させてもらう。
「みんなが俺をナメているかはともかく、ご主人様が命令したら、リコは素直に聞くと思うか?」
すると、アミラが答えてくれる。
「はい、聞くと思います。リコは物分かりもよいコですし、きちんと説明すれば、素直に従うと思います。誰かさんとは違って、ヒビヤ様のことを率直にお慕いしていると思います」
「それはもういいから……」
ラクタがばつが悪そうに呟くと、アミラは毒気が滲み出た笑顔をラクタに向ける。
しかし、現状はその手に賭けるしか無さそうである。
また、リコは俺が一人暮らしをすることを伝えた時も、唯一素直に受け入れていた印象があり、それはアミラの言う通りであった。
「わかった。じゃあ、一応政務局の方に伺いを立ててから話すことにするよ。それでどうかな?」
「それでいいと思う」
「わたしも、大丈夫だと思います。話すときは、わたしも同席いたしましょうか?」
「うーん……いや、俺一人で伝える。アミラは、大事な話があるって、リコを呼び出す係をして欲しい」
「承知致しました」
こうして、俺は一つ物語の転換となるイベントを消化したのであった。




